バッドエンドのその先は
気持ちの良い話ではありません
普段書いている話とは全然違うジャンルです。
作者の毒の部分を丁寧に抽出しました。
どうぞよろしくお願いします。
周りから見れば分かりやすいほど僕達はお互いを意識していたらしい
それはもう「まだ付き合ってなかったのか?」と古くからの友人から言われた時はそれほどだったのかと驚いたものだ
それでも彼女は恋愛感情に対して常に嫌悪を引き摺っていたし
僕も過去の傷跡から一歩踏み出すことが怖かったのだ
今思えば随分と遠回りした。
だからだろう、恋人という肩書きを手に入れてからは1分1秒を惜しむように彼女の事を大切に愛したし、彼女からの愛情も疑う余地が無いほど僕達は幸せだった。
「じゃあ、行ってきます」
見送る両親に挨拶をし家を出て、電車に飛び乗った。
ことの発端は2人で旅行に行こうと計画を立てていた最中、僕の元に舞い込んだ仕事が旅行の日と重なっており、断ろうとした時だ
「せっかくアナタに、って依頼してくださったなら受けた方が良くないですか?」
「いや、でも…」
恋人と旅行に行くのと
部屋にこもって仕事をするなら前者を選びたいのは当然だが、彼女は変なところで律儀だった
「じゃあ今回は私だけ行ってアナタが煮詰まらない様に風景とかレポートを送ります!ちょっと楽しそうじゃないですか?」
悔しいことに彼女の思いつきはいつも魅力的だ
仕事の依頼をしてくれた友人を困らせることなく
毎日、彼女から旅行先のレポートが届くと思うと素晴らしい提案のように思えた
「で、ですね、気になったお店や場所があったら次は2人でそこに行くのを目的に旅行の計画をたてるんです。約束です。」
「今回は君が下見をしてきてくれる、と言う訳だね」
そう言いながら華奢な小指に自分の小指を絡めて指切りをする
「写真も毎日送りますし、お土産も沢山買ってきます、お仕事頑張ってください」
残念ながら、この約束は果たされなかった
最寄り駅からの写真とメッセージを最後に
彼女の消息は途絶えたからだ
山道を走っていた地元のバスとトラックの衝突事故、
乗客がバスの外に投げ出され、そのうち数名の遺体が見つかったと言うニュースが僕の元に届いたのはその半日後の事だった
〝まだ彼女が乗っていたと決まった訳じゃない〟
職場の友人に励まされながら、既読のつかないメッセージに指先はどんどん冷たくなる
祈ることしか出来ない僕に彼女が見つかったと連絡が入ったのはその3日後の事だった
宿泊施設の予約に僕の連絡先を記載していて良かったと思う
「……」
手が震えるのを堪えてグッと握り込むと左手の薬指の圧迫感にその原因を見つめた
想いが通じて数日経ったある日
浮かれた僕が渋る彼女を半ば引きずるような形でお揃いのリングを買いに行ったのだ
「プレゼントされても私アクセサリーつけませんよ!!?料理の時に傷がいったりしたらショックだから本当にいらないです!!!」
そんな彼女に「それでも受け取ってほしい」と贈った指輪は、宣言通り殆ど彼女の指にはめられる事はなかったが、デートの時にだけつけてくれるのが嬉しくてたまらなかった
「お待ちしておりました、こちらです」
連絡のあった警察署に着き、案内されるままついていくと、僅かに膨らんでいる小さな小さな白い布の前に案内された
「ご確認ください。」
スッと布が取り払われ、思わず口元を押さえ嗚咽しそうになるのを堪える
「……彼女です、間違い、ありません」
そこには随分と損傷のひどい左手だけがあった
記憶の色より白く血の気が引いたその手は、野生動物にでも喰まれたのか小指が完全に潰れていたが
見覚えがある位置のホクロと…そして
「君は本当に恥ずかしがり屋だね」
普段はつけないと言っていた僕とお揃いの指輪が
しっかりと薬指に輝いていた。
もしあの時、依頼を受けず旅行に行っていれば
今も君と一緒にいられただろうか
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「どうしたの?もしかして目を開けたまま寝てた?」
目を覚ますと日時は事故が起こる前だった
思わず強く抱きしめると「怖い夢でも見たんですか?」と
優しく抱きしめ返してくれる。
目の前に生きている彼女を絶対に失わないと誓い
なんとか説得して旅行はなくなった
だけど、不思議なことに
旅行をキャンセルしたまさにその日
バスの事故は起こらなかった。
全く違う、別の、最初の事故とは関係ない事故で彼女は死んだ
そこから何度も何度も彼女の死に立ちあっては
死ぬ前に戻る日々が続いた。
あるとき、最後の賭けで彼女との間に子供を作った
順調に育つ腹の中の我が子に今回こそは、と幸せな未来を夢見た
だが無情にも、彼女は出産の日に我が子を残してこの世を去った
目の前で泣き叫ぶ赤子の声を聴きながら、蘇生処置の手を医者が止めた瞬間
意識はまた過去に逆戻った。
何度目かの世界で
ふと、目の前に居る彼女は本当に僕が愛した彼女なのかという考えが浮かんだ。
僕の恋人は、あの左手だけで帰ってきた、あの人ただ1人だったのでは?
目の前の女性が誰だか分からなくなり別れを切り出し
本当の意味で彼女の死から解放された。
そこから数年、彼女の訃報はいまだに無い




