#58 相性
ひと通り組み合わせを試して、
部室にちょっとした“達成感”の空気が漂い始めた頃。
俺は腕を組んで、ぽつりと呟いた。
「……あと、まだ試してない組み合わせで見たいのは……一択なんだけどな」
誰も聞いていないふりをする。
紫亜がこっちを見てニヤッと笑った。
(……勘が鋭すぎるんだよな、この闇の天才は)
でも、俺以外の全員も気づいていたはずだ。
火と氷。
ただひとつ、まだ試していない“相反属性”。
でも――
部室の空気がピリッと張った。
昴と明日香の視線が、
互いにぶつかる前に、そっと逸れる。
明日香は窓の方に首を向け、
昴は逆方向を見ている。
夢威でさえ、今日は口を噤んだ。
(……こりゃ、言っていい空気じゃねぇな)
幼なじみ同士――なのに距離がある。
理由は、俺が首を突っ込んでいいものじゃない。
そして、その沈黙を一撃で吹き飛ばす天才がいた。
紫亜だった。
椅子から立ち上がり、わざとらしく手を叩く。
「さて。次は当然、火と氷よね?」
部室が“ピキッ”と凍りつく。俺はあわてて言う。
「お、おい紫亜……お前……!」
明日香は露骨に不機嫌そうに、
「……なんであんたが決めるのよ」
昴も戸惑ったように
「いや、別に俺はいいけど……」
(絶対“よくない”だろそれ)
紫亜は満足そうに笑っている。
完全に面白がっている。なんでそんなに楽しそうなんだ。
「仲が悪いほど、魔力は逆に噛み合うものよ。
それに……幼なじみなんでしょう?」
明日香がビクッとし、
昴は苦笑を浮かべた。
「……やるか」
「……別に、あんたと組めないわけじゃないし」
(うん、これ完全に意地張ってるだけのやつだな)
二人が向かい合う。
空気が凍るように静まりかえった。
昴が肩をすくめて呟く。
「……じゃ、いくぞ。あの日みたいにすれ違うのはもう嫌だしな」
明日香はぎゅっと拳を握る。
「……余計なこと言わなくていい」
(おい……余計なの言ってんのはどっちだ)
紫亜が興味深そうに観察し、
夢威は口を押さえて“ひゃー”って顔になっていた。
遥花と大河は静かに見守っている。
昴が火を灯す。
明日香が冷気を満たす。
バチッ……ッ!!!
火花のような氷。
凍りつくように熱い炎。
常識が歪むみたいな光景が目の前に現れた。
冷気が、燃える――
赤と青が融合し、
互いに相殺するどころか、
補い、跳ね、絡み合い――
“白い炎” が生まれた。
静かで、鋭くて、
なのにどこまでも美しい。
遥花が思わず胸に手を当てる。
「……綺麗……」
夢威もいつもの眠気を忘れたように目を見張る。
「……すご……」
紫亜は感嘆の息を漏らした。
「これは……完全に異常融合。
“反属性の調和”なんて、原理上ほとんど不可能なのに……」
俺は二人を見て、思わず笑った。
「……なぁ、二人とも。
どう見ても、相性バチクソ良いんだけど?」
昴、照れ笑い。
明日香、頬を赤くして目をそらす。
「……あんたが、ちゃんと合わせてくれたからよ」
「お前が本気で冷やしてくれりゃ、こっちも燃やせるっての」
完全に噛み合ってる。
怒りも拗れも全部ひっくるめて、
二人の魔力は、
誰よりも自然にひとつになっていた。
紫亜が愉快そうに微笑む。
「やっぱり。
心がどうとかじゃなくて――
幼なじみとしての“根”が繋がってるのよ。魔力は正直ね。」
明日香は赤くなった顔のまま叫ぶ。
「うるさいわよ!そんなんじゃない!!」
昴「いや否定すると余計ややこしいだろ!」
「うるさいって言ってるでしょ!!!」
大河が腹を抱えて笑う。
「ははっ!これが人気属性“火×氷”か!最高だな!」
俺もつられて笑った。
この瞬間だけは――
本気で、
“合研部にとんでもないコンビが誕生した”
って確信した。
相性はいいに違いないですが、この2人の仲はまだまだ時間がかかりそう。




