#29 魔力基礎学
講堂にはすでにほとんどの生徒が集まっていた。
150人が一気に集まる光景はもう珍しくはない――
魔法史、魔法言語学に続く“合同授業”だからだ。
壇上を、金茶色の髪の教師が慌ただしく横切る。
八雲 百合乃先生は、黒板に書いた魔法式をまた消し忘れたらしく、急いで布を取りに戻っていった。
「はーい、みんな揃ってるわね!? よし……!
今日の“魔力基礎学”は、あなたたちの体内を流れる魔力を見るところから始めます!」
講堂のあちこちから軽いざわめきが起きる。
俺は腕を組み、昨日よりは少し静かにしている皓と陶之介をちらっと見た。
皓が退屈そうに言う。
「しかし、合同授業ってなると……やっぱ人数すげぇな。
同じ年の魔法使いがこんなにいるの、ちょっと壮観だな」
陶之介は気怠げに返す。
「静かにしねぇと百合乃先生が転びながら怒鳴ってくるぞ。
あの人、普段ふわふわしてるクセに非常時めちゃくちゃ怖ぇからな」
俺は小声で息を漏らす。
「転びながら怒鳴るってなんだよ……」
後ろから、のんびりした声が聞こえてきた。
「……あ、やっぱり三人ともいた。
おはよう〜……」
振り返ると、夢威があくびまじりに手を振っていた。
合研部の発足の日…昴と一緒にいた時に一度だけ軽く顔を合わせたことがある。
皓とはクラス同じで面識あり。
陶之介とは――初対面。
玲磁は気軽に答える。
「よ。久しぶり。確か……二日前?」
「うん……なんか、放課後どっかで話したね〜」
皓が笑う。
「お前、今日も寝癖すげぇな。猫かよ」
夢威は気にせず陶之介を指さす。
「えっと……初めて見る人、だよね?
噂の“こわい人”?」
陶之介が一瞬むせる。
「……どういう噂だそれは」
俺は肩をすくめた。
「悪ガキの片割れって話だろ。俺と皓とセットで見られてるからな」
夢威はぽそっと付け足す。
「ううん……こわいけど、ちょっと可愛い感じ……?」
皓が腹抱えて笑う。
「わははは、スエ、お前可愛いなんて生まれて初めて言われたんじゃねえの?」
陶之介は額を押さえた。
「……なんなんだこの女は……」
すると突然、壇上から百合乃先生の声が落ちてきた。
「そこの〜……黄色い髪の子と、黒と金メッシュの子と……
その隣の銀色の子と……深緑の寝癖の子!
はい、前に出てくださーい!」
四人同時に固まった。
俺は、「……なんで俺ら?」と呟く。
皓、陶之助、夢威も心当たりがなさそうに顔を見合わせる。
百合乃先生は全力で頷く。
「今日は“魔力の流れの個性”をみんなに見せたいの!
見本にちょうどよさそうだったから、四人お願いね〜!」
ちょうどよさそうってなんだよ……なんか嫌な予感しかしないんだけど。
皓は逆に楽しそうだった。
「合同授業で目立てるのは悪くねぇ!」
陶之介は深いため息。
「この講堂の視線が全員こっちに向くのか……めんどくせぇ」
夢威はパンを一口かじって言う。
「……お腹空いた。あと眠い」
150人の前に呼ばれた四人。
この組み合わせが、後にアルテリア一年を揺らす中心メンバーになることなど、まだ知る由もなかった。
また何やらめんどくさいことになりそうな悪ガキトリオ+α。




