#27 悪ガキトリオの夜
三者面談を終えて寮の部屋に戻ると、瑞翔が机に向かって日誌のようなものを書いていた。
「おかえり。……なんか疲れてるね」
「まあ、沙羅先生に色々言われたし」
「言われて当然だよ。あんな魔法を出してさ」
「やっぱ、水の翼竜はやり過ぎだった?」
「全部だよ」
二人で笑う。
瑞翔のこういう“普通さ”は、俺にとっては妙に居心地がいい。
やがて瑞翔がペンを置いた。
「じゃ、俺は理紅虎の部屋に行ってくる。
フェンリルがまた散歩ねだってるみたいだし」
「お前ら仲良いよな。楽しそうで何よりだ」
軽く手を振って、俺は一人廊下に出た。
……ちょっと外の空気でも吸うか。
昇降口から外へ出ようとした瞬間。
「おーい、最下位男!」
元気な声が背後から飛んできた。
皓だ。
その隣で、陶之介が壁に背をつけたまま欠伸している。しかしこの2人もいつも一緒だよなぁ。
「散歩かよ。珍しいじゃねえか」
「まあ色々あってな。お前らは?」
皓は元気の余ってるようなテンションで、
「んー、暇だ!」
隣で陶之介がぼそっと言う。
「……夜が静かだと、ちょっと暴れたくなる」
「その言い方。スエらしいな」
「その呼び方…あんま人前でするなよ」
「恥ずかしがるなよ。で、暇だからってなんか企んでるのか?」
皓がにやりと笑った。
「決闘しようぜ、玲磁」
そのセリフ、いかにも決闘好きっぽいが。
「いや俺、今日は使えねぇんだよ。
魔法はしばらく禁止って沙羅先生に言われた」
皓は「あー……」と苦い顔をした。
「じゃあ仕方ねぇな。……なあスエ」
「お前にまでその呼び方を許可した覚えはない」
そういやこの2人、仲良い割にずっと苗字で呼び合ってたな。
「細けぇこと気にすんなよ」
「まあ呼び方なんざどうでもいい。
………やるか、皓」
二人はふっと笑って歩き出す。
「玲磁、見学してけよ。
俺ら、これで何回目の決闘だっけ?」
陶之介は淡々と答える。
「十五回目」
「細かっ!」
「別に記録してるわけじゃねぇ。
忘れたら悔しいだけだ」
二人は自然と並んで演習場へ向かう。
俺も後ろからついていった。
……やっぱこいつら、良いコンビだよな。
魔力灯がぽつぽつ光る広い空間。
人影は三人だけなのに、空気が重く張り詰めていく。
皓が腕を回し、電撃を散らしながら言う。
「じゃ、始めるか」
陶之介は前髪をかき上げ、
金色の瞳を細く光らせた。
「来いよ。手加減は要らねぇ」
皓の口元が吊り上がった。
「言われなくても最初から全開だ」
次の瞬間、
バチィッ!!
青白い雷光が地面を走り、皓の身体が一気に加速する。
陶之介は闇をまとい、影そのもののように姿勢を低くした。
一撃目。
皓の雷打が闇の壁に弾かれ、
陶之介が逆に闇刃を伸ばす。
二人の動きは速すぎて、
見ていたのがあの平凡な瑞翔なら目で追えなかっただろう。
皓は雷撃の回転を上げ、
陶之介は闇の密度を増す。
しかし――
「……スエ。今日のお前、ちょっと迷ってるだろ」
雷光が一瞬だけ皓の背後に残像を作り、
陶之介の闇を“内側”から貫いた。
「ッ……!」
陶之介の影が大きく崩れる。
皓が指を鳴らした。
「決まりだ」
雷撃が陶之介の足元を走り、
膝が沈む。
皓の完全勝利だった。
陶之介は静かに立ち上がり、
長髪を後ろに払った。
「……ちっ。
今日の俺、調子悪ぃわ」
皓は肩をすくめた。
「次は負けねぇとか言うんだろ?
もう聞き飽きたわ」
陶之介はゆっくり立ち上がり、
皓の肩に拳を軽くコツンと当てた。
「……当たり前だ」
俺は、二人を見ながらぽつりと呟く。
「お前ら……なんでそんな仲いいんだよ」
二人は同時に顔をしかめた。
「仲良くねぇよ」
「仲良くはねぇ」
完全に声が揃っていた。中二か、お前ら。
2人とも決闘好きで、1年生の中ではかなりの腕前です。




