#25 処遇
授業が終わり。
俺は沙羅先生に腕をつままれたまま職員室へ連行されていた。
「先生、そんなに強くつままなくても……」
「あなたの魔法のほうが何十倍も強いわ」
淡々と言いながらも、ちょっと怒っている。
職員室に着くと、扉が少しだけ開いていて、中からあの朗らかな声が聞こえた。
「あ〜、沙羅。今日は随分と荒っぽい足取りだなぁ?」
沙羅の眉がひくりと動く。
扉を開けると、銀髪に金の瞳――
緩んだ笑顔のまま腕組みしている、アルテリア最強の男がいた。
リュウ校長だ。
彼はまるで旧友でも迎えるように手を挙げた。
「やあ玲磁!また面白いことやったんだって?聞いたぞ、土・風・水ぜんぶぶん回したらしいじゃないか。はっはっはっ」
「面白い、の部分が問題なんです」
沙羅が校長の肩をグイッと押し戻す。
「校長、まずは座ってください。あなたが煽るから玲磁くんがつけ上がるんです」
「煽ってないぞ? 事実を褒めただけで……」
「“素晴らしい! もっとやれ!”
ってあなた、去年もそれで問題になったでしょう」
「あれは炎上の仕方が予想外で……」
「文字通り炎上してたんですよ」
俺は椅子に座りながら、二人の漫才を眺めていた。
(この人たち、ほんとに校長と教師か……?)
だが沙羅の視線がこちらに向いた瞬間、空気が変わる。
「玲磁くん。
あなたの魔法は、正直“危険域”に片足突っ込んでます」
「俺そんな危ないことした?どれも戦闘力は皆無なんだけど…」
沙羅は深く息を吸う。
「土属性で銀を抽出するのは、上級錬金術級。
風で50メートルのチェーンを作るのは、暴風術士でも苦戦する。
水の翼竜に至っては――あれは召喚獣クラスです」
「え、そんな大げさ?」
リュウ校長が笑った。
「大げさじゃないぞ。ふつうは三つとも“専門職”が極めた技術だからな。
玲磁、お前は素質だけなら歴代最強クラスだ」
「ほら出た、そうやって甘やかす!」
沙羅が机を叩く。
校長は肩をすくめた。
「甘やかしてない、事実だよ。
本気で危なかったら、俺は即座に止めてる」
その声は柔らかいのに、どこか底が見えない。
彼が“世界最強”である理由が少しだけ伝わる。
沙羅は大きくため息をつき、玲磁と向き合った。
「――玲磁くん。
あなたは、しばらく基本魔法以外の使用を制限します」
「は?」
「今日のような基本属性であっても、高度操作は禁止。
時属性はもってのほか」
「……それ、俺を弱くしたいんですか?」
「違う。あなたの“未熟な制御”が事故を呼ぶの。
制御できないなら、それは強さじゃない」
俺は黙る。魔法学校に入っても魔法を使えないなんて意味がない。
その間、校長だけが優しい目で微笑んでいる。
俺はゆっくり息を吐き、反論を口にした。
「……じゃあ妥協案は?」
沙羅の眉が上がる。
「妥協案?」
「“沙羅先生の監督下では”使うのは認めてほしい。
授業でも、個人練習でも、先生が見てるなら俺は全部制御できるから」
リュウ校長が吹き出した。
「ははっ。玲磁、お前ほんとに沙羅を信頼してるんだなあ」
「信頼っていうか……沙羅先生がいたらなんか安心するし?」
沙羅は苦しそうに咳払いをする。
「……その条件だと?
つまり、私の監視下だけ解禁。
私が見ていない場面で高度魔法を使ったら?」
玲磁は間髪入れず答えた。
「その時は……減点でいいです」
沙羅の表情が少し柔らいだ。
「“減点でいい”じゃありません。
本当に減点します。重い罰でも構いませんね?」
「構わない」
少しの沈黙。
やがて沙羅は折れた。
「……分かりました。
天竜 玲磁くん、あなたの提案を認めます。
それから、このことは職員全員に伝えます。
明日からは他の先生の監督下でも、先生が良いと言えば魔法の使用を認めましょう」
リュウ校長がぱん、と手を叩く。
「いやぁ、いい着地だったな!
沙羅、お前も指導者らしくなったじゃないか」
「誰のせいで苦労してると思ってるんですか、校長」
校長は笑って受け流した。
「玲磁。
俺はお前の可能性にワクワクしてる。
でもな、才能のある子ほど壊れやすい。
だから沙羅の言うことをちゃんと聞け。
あいつは本気でお前を守ろうとしてるんだ」
沙羅は照れ隠しのように顔をそむけた。
「……さっさと帰りなさい。
明日からは“許可を得た上での使用”よ。いいわね?」
俺は少しだけ笑う。
「分かったよ、先生。
それでは、また明日」
部屋を出ていった玲磁を見送り、扉が閉まる。
残された二人の間に、静かな時間が流れる。
リュウ校長がぽつり。
「……新羅がいたら、きっと喜んでるな」
沙羅の目が一瞬だけ揺れた。
「校長……その話は、今は……」
「すまん。つい、な」
校長は笑顔に戻る。
「でもまあ、今年は面白くなるぞ。
天竜 玲磁を中心に、全部ひっくり返るかもしれん」
沙羅は真剣な表情で答えた。
「……そうならないように、私が導きます」
リュウ校長と沙羅先生は、付き合いが長いようです。




