#21 属性
魔法史の授業を終えて廊下に戻ると、
ちょうど昼休みのチャイムが鳴り、校舎全体が一気に明るい空気になった。
「腹へったなー!」
「今日カレーあるかな」
「フェアやってる? まだ掲示見てない!」
そんな声が飛び交い、生徒たちが食堂のある中央棟へ流れていく。
「さて、昼飯どうすっかな…」
俺も伸びをしながら歩き出す。
皓と陶之介の姿は既にどこかへ消えていた。
あの二人のことだ、もう走って食堂に向かったのかもしれない。
階段を降りながら少し考える。
誰かと食うか、適当に一人で食うか……
まぁ、席はその場の空気次第でいいか。
中央棟に入ると、すでに食堂前は人であふれかえっていた。
今日のフェアは――
「闇属性フェア」
掲示板には黒地のポスターが貼られていて、
「シャドウ・ブラックカレー」「無音ティラミス」の写真が目に入る。
「うわ、今日ブラックカレーか!早く行かないと売り切れる!」
「無音ティラミス、去年食べ損ねたんだよなぁぁ!!」
「闇属性って食べ物だけ妙に人気だよな……」
列に並ぶ生徒たちのテンションが高い。
食堂の扉が開くと、香辛料の匂いと、鉄鍋の音、
それから各テーブルのざわめきが一気に押し寄せてきた。
広いフロアには、
・一般メニューのカウンター
・フェア専用ライン
・サラダや軽食コーナー
が整然と並び、どこも長い列ができている。
俺はとりあえず入口付近で足を止める。
さて……何食べるかな。
誰かもう来てるか?
きょろりと視線を巡らせる。
フェアの列が長く伸び、食堂中が熱気と喧騒に包まれる中――
適当な席を探そうと歩き出したその時だった。
「――あ、君!」
呼ばれた方向を見ると、
女子に囲まれながらも全く疲れた様子を見せない男子がいる。
オレンジの髪が光を反射して、自然と視線を引く。
しかも囲んでいる女子達の熱量がすごい。
人気者ってレベルじゃねーな……
朝はその中心からひょいっと抜け出し、
まるで気温のように軽い笑顔で玲磁の前に立った。
「やあ! 君、天竜 玲磁でしょ?
最下位になったけど……今ではめっちゃ有名だよね。
それに、ルームメイトの昴からも聞いたけど、新しい部活も作ったって。
俺と同じ“有名組”の人、初めて見たわ」
嫌味っぽく聞こえそうな言葉なのに、
声も表情も驚くほど自然で、軽さしかない。
俺が返すより早く、
後ろの女子たちが「えっ、誰?」「友達?」「あれじゃない?学年最下位で、時属性って噂の…」とざわつく。
「ごめんね、今日は玲磁くんと一緒に食べるから。
またあとでねー」
女子たちから「あ、うん……」「切追くんならしょうがないか……」と
奇妙な納得の声が上がり、すーっと散っていく。
人気者の力、恐るべし。
「えーっと……」
俺が言葉を探していると、
「切って、追って、朝って書いて 切追 朝。
分かりにくいよね。よろしく」
「……ああ。天竜 玲磁だ。よろしく」
自然と二人は同じテーブルへ向かい、
適当に空いていた席に腰を下ろす。
朝はトレイを置きながら言った。
「いやー、俺、こう見えて同学年男子と話すの珍しいんだよな。
玲磁くん、何か普通に話せそうでさ。
人気とか成績とか気にしなさそうだし」
「まぁ……気にしてたら合研なんて作ろうと思わねぇな」
朝が吹き出す。
「ははっ、だよね! 冒険心あるわ、君」
そんな軽い会話をしていたその時――
テーブルの横に、そっと影が落ちた。
「……玲磁くん。あの、私もここ座っていい……?」
遥花だった。
桃色の髪を指先で触りながら、
少し緊張したように玲磁と朝を見ている。
朝は一瞬で察して、にこっと笑う。
「どうぞどうぞ! むしろ俺より玲磁くんのことが気になってるみたい。
この子は見る目あるね、大事にしてあげなよ。」
「ちょ、ちがっ……! そ、そんなんじゃ……!」
遥花はぶんぶん手を振るが、
耳まで真っ赤で説得力が皆無だった。
俺は苦笑しながら席を空けてやる。
三人で座り、ようやく昼食が始まる。
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トレーを整理しながら、朝がふと話題を振った。
「そういえば、玲磁くんって時属性なんだよね?
属性ってさ、人によって考え方ぜんっぜん違くて面白いよな」
遥花がこくりと頷く。
「うん……桜家でも、属性の“伸ばし方”は人によって全然違ってて……。
私は土だけど、同じ土でも“硬い”のと“柔らかい”のがあるし……」
朝も話に乗る。
「光もそうだよ。
照らすのが得意な人もいるし、
情報読み取るのが得意な人もいるし、
俺はどっちかというと“灯り”タイプかな。
気持ちが曇ると弱くなるタイプね」
俺は自分のコップをいじりながら言った。
「……属性って、結構“性格と近い”よな。
火は感情で暴れるし、水は落ち着いてるし、
風は軽いイメージだし、土は安定してる。
光は心が澄んでないと力が出ねぇし、
闇は意志がブレると呑まれる」
遥花の目がぱちっと開く。
「玲磁くん、属性に詳しいんだね……!」
「まぁ、色々見てきたからな」
朝がスプーンを止める。
「色々って……決闘とか?」
「まぁ……そういうのもある」
俺は軽く曖昧に笑って、詳しくは話さない。
朝は深追いせず、逆に話題を変える軽さを見せた。
「でもさ、属性って固定じゃないんだよね。
光でも闇でも火でも、
心の状態で“別物の魔法”みたいに変わる。
そういう意味ではさ――」
遥花がそっと続きを言う。
「“人は属性に縛られない”……でしょ?
桜家のおばあちゃんがよく言ってたの」
その言葉は柔らかいが、不思議な重みを持っていた。
俺は一瞬だけ、遥花の横顔を見る。
(……こいつ、本当に“優しい属性”だな)
まだ普通の土属性。
けれど“芽の形”は確かにそこにあった。
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その後もしばらく、
三人は自然体のまま属性談義を続けた。
まるで、この世界での“属性”という基礎を、
俺の視点で少しずつ理解していくように。
――そして、それぞれが抱える未来へと
ゆっくり繋がっていく会話となった。
食堂
アルテリア魔法学校の中央棟に存在する大食堂は、
「普段は普通、時々だけ属性フェア」 という形式を採用している。
常時“属性に縛られた食事”を提供すると学生の負担が大きいため、
あくまで イベント的な扱い として実施される。
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■ 基本メニュー(常設)
カレー、和食、洋食、麺類、サンドイッチ、サラダなど、
一般的な学食とほぼ変わらないメニューが揃う。
学生は自由に選べ、属性への配慮は不要。
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■ 属性フェア(週1〜月1で開催)
食堂の人気企画。
学内の魔法学術研究とも連動しており、
“属性を食文化に応用した実験的メニュー” を体験できる。
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● 火属性フェア
「フランべ・ボルケーノ牛ステーキ」
調理直前に小さな炎が噴き上がる。安全設計済み。
「爆辛カルデラ担々麺」
辛さは調整可能。辛くないバージョンも人気。
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● 水属性フェア
「水球パスタ」
透明な水膜に包まれたソースを割って食べる新感覚料理。
「深海クラゲゼリー」
魔力で光る幻想的デザート。
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● 風属性フェア
「エアスライス・クロワッサン」
軽すぎて“口に入れるまでに触感が変わる”と評判。
「旋風サラダボウル」
食材がゆっくり浮遊して回転する演出つき。
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● 土属性フェア
「地層ミートローフ」
断面が美しい“地層に見える”料理。
「鉱石スイートポテト」
焼き芋の砂糖結晶が宝石のように輝く。
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● 光属性フェア
「光粒スープ」
表面が淡く発光する治癒系ハーブ入りスープ。
「プリズムゼリー」
スプーンを入れると虹色にきらめく。
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● 闇属性フェア
「シャドウ・ブラックカレー」
見た目は真っ黒だが香り高く繊細。人気ナンバー1。
「無音ティラミス」
食べると周囲の音が一瞬だけ“ふわっと遠のく”不思議スイーツ。
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● 雷属性フェア
「痺れ刺激天ぷら」
軽い電気刺激が舌を刺激する安全演出つき。
「放電レモネード」
コップに触れた瞬間、微弱なスパークが走る演出。
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● 氷属性フェア
「永久フロストうどん」
麺の表面だけが触れる直前に冷却され続ける。
「氷彫刻パフェ」
食堂職員が毎回作るミニ氷彫刻が乗っている。
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■ 属性フェアの扱い
・参加は自由、強制なし
・食材は安全管理済みで、魔力暴走リスクはゼロ
・学生の魔法適性とは完全に別扱い
・主に “話題づくり・学内活性化・文化イベント” の目的で開催
食堂前の掲示板に「今週のフェア」が貼られるため、
学生たちは毎回楽しみにしている。




