#20 佐々峰家の過去
授業終了の鐘が鳴り、学生たちがざわつきながら席を立つ。
悪ガキトリオは同時に伸びをし、皓は「眠かったー」と騒ぎ、
陶之介は「お前はいつもだろ」とぼそり。
弥来は友達を見つけ、ひらひらと手を振って去っていった。
さて、俺も行くか。立ち上がり、机を整えて廊下に出ようとしたその時。
「天竜くん」
振り返った先。
人の流れの一歩外。
気配をほとんど消していたはずの少女が、まっすぐ立っていた。
佐々峰紫亜。紫色の長い髪が揺れている。
「ちょっと話せる?」
声音は静かで柔らかい。けれど、拒否された経験がないような確信めいた響きもある。
俺は短く息をついて、皓と陶之介へ顎で合図した。
「悪い。皓、スエ、先行ってて」
皓は「お、女か?」とニヤつき、陶之介は「……へぇ」と意味深な目を向け、
二人は人混みへ消えていった。
紫亜に向き直る。
「えーっと、確か君は」
「佐々峰 紫亜だよ。莉亜姉さんの妹。
……Eクラスの君には、魅亜の姉って言った方が分かりやすい?」
言いながら、瞳だけがすっと細くなる。
俺を“測る”ような視線だった。
「まぁ、その方がピンとくるわ。妹が世話になってる」
軽く言うと、紫亜はわずかに唇の端を上げた。
「魅亜のこと、気にかけてくれてるんだね。ありがとう」
ふわりとした声だ。
しかし、実のところそんなに言うほど気にかけてはなかったな。まだ学校始まったばかりだし、会話したのも数える程しか記憶にない。
紫亜の声色が変わる。
「……でも、魅亜が実力を出せていない理由、知ってる?」
俺は小さく首を振る。そういえば沙羅先生も言ってた。実技を恐れてる…だっけ?
紫亜は廊下の柱に指先を触れ、そこを見るともなく語り始めた。
「昔、家で事故があったの。
いつかは起きてた…きっと避けられなかった事故。 子供の頃は魔法の制御が難しいって言うでしょ?
魅亜の魔力、小さい頃から姉妹の誰よりも高かったから…
それで家が、火事になって…。
でも、魅亜はあの日を境に“火”が怖くなった」
俺は怪訝そうな目を向ける。
紫亜は続ける。
「ウチの母は、火属性そのものを嫌悪するようになって……
魅亜は才能があるのに、“火を使うこと”を褒められたことすら、ほとんどない」
眉がわずかに動く。
「……それであの魔力値か。660だろ?すげぇじゃん」
紫亜は微かに笑った。
闇属性らしい、影のある笑みだった。
「そう。だから言ったでしょ。
魅亜は――私たち姉妹に負けないくらいの力を持ってる」
俺は腕を組む。
「あいつ、明るいけど……ずっと遠慮してる感じはしたな」
「うん。でも、それはゆっくりでいい。
彼女は“自分を取り戻すきっかけ”を探してるだけだから」
一瞬だけ、紫亜の瞳が俺の目を捉える。
そこには、興味、計算、そして何か別の色が混じっていた。
「じゃあ、次の授業あるから。またね」
「ああ」
紫亜はくるりと踵を返す。
その歩き方は静かで、けれど存在が薄れるわけではない。
廊下の少し先で、莉亜が立っていた。
紫亜は迷わずその隣に並ぶ。
二人は短く言葉を交わして歩き去る。
そして一度だけ――
莉亜が玲磁のほうを振り返った。
ほんの一秒。
それから、すぐ前を向いて姿勢を正す。
俺は軽く息を吐いた。
「さて、俺もそろそろ戻るか」
人気の薄くなった廊下を歩きながら、銀色の瞳を細めた。
六大魔法名家紹介
佐々峰家
【担当】研究・教育
魔法名家の中では最も歴史の古い家系。祖先は初めて属性という概念を提唱したとされ、現代の魔法体系の根幹を作った。血縁からはあらゆる属性に適性を持った者が生まれ、幅広い才能を持った魔法使いを輩出している。
父 佐々峰 源流
適性 土
佐々峰家の当主。属性魔法の研究や教育カリキュラムの改良など、日々忙しい。
母 佐々峰 鎭羽
適性 風
過去の火災事故のせいで、母は火属性を嫌悪するようになり、魅亜に対しても「別の属性」を使うよう強く言っている。
長女 佐々峰 莉亜
適性 水
次女 佐々峰 紫亜
適性 闇
三女 佐々峰 魅亜
適性 火




