#19 魔法史
魔法史の授業は、どうやら学年合同らしい。
一年生全員が集められた大教室は、まだざわつきが残っていた。
迷いながら席を探す生徒、緊張して前の方に座る生徒、友人を見つけて安心する生徒。
そんな空気の中で、俺は瑞翔と並んで空いていた中央あたりに腰を下ろした。
そこへ、後ろから肩を叩く影が近づく。皓だ。
「よー。ここ空いてんだろ?」
俺がうなずくより早く、皓は勝手に椅子を引いて座り、その横に陶之介も無言で腰を下ろす。足を組み、やたら姿勢が悪い。
悪ガキ三人は、自然と一塊になっていた。
その直後、元気な雷気が走り抜けるように、ひとりの少女がやってくる。
「兄貴、ここ座るね」
皓は振り返り、急に兄らしい顔つきになる。
「好きにしろよ。……あぁそうだ、玲磁。こいつ、妹の弥来だ」
「Bクラスの幸崎 弥来だよ、よろしくね!」
軽く手を上げて挨拶する弥来。眩しいぐらいに明るい。
「お兄、今日こそちゃんと起きて授業受けなよ? 学科がダメでCクラスなんだから」
挑発気味の笑顔。
皓はすぐさま反撃した。
「お前の胸もCクラスだけどな」
「……は?」
空気が一瞬だけ凍りつく。
しかし弥来は、兄を殴るでもなく、深くため息をついただけ。
「お兄、マジでそういう所だよ」
「へいへい」
険悪になるどころか、妙に慣れた雰囲気。
兄妹としての距離感があまりに自然で、周りの生徒が少し微笑むほどだ。
陶之介は肘をつきながら、そのやりとりをニヤついて眺めていた。
「平和だな、お前ら」
俺もその空気に思わず笑ってしまう。
⸻
教室全体に目を向けると、それぞれの“距離感”がはっきりと表れていた。
昴は少し離れた端の席に座り、こちらを一度だけ手を挙げて挨拶。
落ち着いた雰囲気で、それでいて気配が強い。
その近くに瑞翔と理紅虎が座り、仲良く会話している。
控えめだが穏やかで、理紅虎のフェンリルが机の下で丸くなっているのがちらりと見える。
――というか瑞翔の奴、最初は俺の隣にいたのに、悪ガキ共の気配を察するやいなや向こうに移動したらしい。
遥花は入口付近で一瞬だけ足を止めた。
玲磁を見つけて表情がふわっと明るくなったが、すぐ近くに皓と陶之介の姿が目に入ると、
(……こわい)
という顔で、そっと別の席に座った。隣には魅亜もいる。
それを遠くで見ていた瑞翔は「ああ……」と察していた。
そのさらに後方。
学年1位の女…佐々峰 莉亜が一度だけこちらを短く見た。
目が合った気もしたが、すぐに前を向いて姿勢を正した。
まるで“感情を見せない”訓練を受けているかのような静かな動き。
そして、もっと後ろ。
佐々峰家の二女、紫亜が気配を押し殺すように座っていた。
目線だけは鋭く、悪ガキたちの方向へと注がれている。
その意図は誰にも読めない。
⸻
全員が席に着いた頃。
扉の向こうで杖をつくような、ゆったりとした足音が響く。
1-A担任、魔法史の式神 詳が教室に姿を現した。
スキンヘッドに琥珀色の瞳。
威圧はないのに、空気が一瞬で澄み渡る。
「諸君。ようこそ――魔法史へ」
声は穏やかだが、確かに教室全体に届く。
「まずは安心してほしい。私は叱らぬ。怒鳴らぬ。
眠ってしまったら、静かに起こす。それだけだ」
悪ガキ三人の誰か一人でも笑うかと思ったが、
皓も陶之介も、なんとなく背筋が伸びた。
みんな、他の教師とは異なる“深さ”を感じていた。
授業が始まる。
式神先生の板書は驚くほど丁寧で読みやすい。
やがて、名家の歴史の項目に差しかかる。
「では――この年代の六大名家について、
どの家が、どの魔法災害を鎮めたか。答えられる者はいるかね?」
迷いなく、ひとりの手が上がる。
学科では学年トップの紫亜だ。
静かな声で、的確に、完璧に答えていく。
式神は満足そうにうなずいた。
「見事だ。学科一位の評判は、本物のようだな」
莉亜は横目で妹の答えを見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。
遥花も思わず「すご……」と呟く。
俺は椅子に寄りかかりながら、歴史の授業を聞いていた。
だが、ある瞬間だけ、式神がこちらを見た気がした。
「――天竜。
きみは、まだ史書に名のない“空白の章”かもしれぬな」
1年生が勢揃いしている中での名指し。
何を意味しているのかは分からない。
ただ、なぜか嫌な感じはしなかった。
授業は続いていく。
●幸崎 弥来
【性別】女
【適性】雷
【学科】61位/150人
【実技】6位/150人
【髪】黄色ショート&一部黄緑色
【瞳】黄色
学科はやや苦手だが、実技では兄の皓と同様でAクラスの上位に迫る強さ。
明るく活発で、誰とでも仲良くなれる。
兄とはいつも言い合いをしているが、お互いに理解し合っているため大喧嘩にはならない。




