#13 属性攻撃演習
翌朝。
赤ノ寮を出るとき、瑞翔が「今日もがんばろうね」とか言ってきて、俺は適当に「おう」と返した。
でも今日の本番は、そこじゃない。
1-Eクラス担任・如月 沙羅の “属性攻撃演習” 第1回。
1-Eクラスの初めての“実践授業”は、校舎裏にある半屋外の広い訓練場で行われる。
砂地のグラウンドに風の流れが一定に制御されていて、魔力の暴走を即座に抑える結界が張られている。
「全員そろったわね」
沙羅先生が腕を組んで前に立つ。
その横顔だけで、昨日見せた“規格外”の気配を思い出す生徒も多かった。
「今日やるのは、自分の属性の“初動”。
魔力を外に出す感覚をまず身体で覚える。――危なくなったら、私が止めるわ」
その言葉の瞬間、空気がふっと軽く吸い上げられるように揺れた。
先生が一歩踏み出しただけなのに、だ。
風が触れた場所が“線”として残り、微細な渦を描く。
激しくはない。むしろ静かで、緻密で、目が離せない。
……やっぱ、すげぇな
昨日の数値の衝撃より、生で見る風の制御のほうがよほど心臓にくる。
「こんな感じ。じゃあ――前から順に」
桜 遥花から始まり、順々に生徒が前へ出ていく。
遥花は両手を胸の前にそっと重ね、ゆっくり砂地に魔力を落とす。
土の粒子が柔らかく盛り上がり、小さな芽のような形を作る。
「お、おぉ〜……癒し系……」
「なんか優しい魔力……」
クラスがざわつく。遥花は照れて小さく笑った。
次に魅亜
手を震わせながらも、指先に小さな火を灯す。
火力は弱いが、その色は鮮烈で、生来のポテンシャルを感じさせた。
「い、いけた……!」
「魅亜ちゃん、やればできるじゃん!」
沙羅先生も頷く。「悪くないわね」
理紅虎はフェンリルを呼び寄せ、風と同調させるように砂をひとすくい舞い上げた。
瑞翔は、水の珠をひとつだけ作り、慎重に浮かせる。小さくても安定していた。
そして――
「次、天竜 玲磁」
俺の番が来た。さて、どうするか……。
瑞翔が小さい声で理紅虎に聞く。
「そう言えば玲磁の適性って、なんだっけ?」
「確かに聞いてなかったなぁ…」
無意識に深呼吸する。
俺の魔法をまともに外に出したことなんて、ほとんど無い。
それこそ入学試験の実技の時以来だ。
手を前へ。
――その瞬間。
カチリ、と空気の歯車が噛み合う音がした。
見えない“線”が世界のどこかで曲がったような、微かな違和感。
「っ……!」
瑞翔が気づく。
魅亜と遥花も、息を呑んだ。
地面の影がわずかに伸び縮みし、
風の流れが一瞬だけ“逆再生”する。
「ちょっと玲磁くん! 制御が――」
沙羅先生がすぐ動いた。
風がバンッと弾け、玲磁の前に盾のような渦が展開する。
歪みはその風に吸われるように、すぐ消えた。
「……危なかったわね。初日にしては上出来だけど」
先生は目だけで俺の肩を止める。「深呼吸して。戻っていいわ」
「……うーん……仕方ないか」
俺は額の汗をぬぐう。
ほんの数秒の出来事だったが、世界が一瞬だけ軋んでいた。
周りの生徒たちがざわめいている。
「い、今の何…?」
「なんか、風の動きが…よく分からないけど、違ったよね」
「風魔法…じゃないよね?空間自体が、なんかよく分からないけど…なんだったんだろう、あれ」
「もう1回見てみたいけど…」
そこへ――
「いや〜、やっぱり見に来て正解だったな!」
朗らかな声が響いた。
柵の外にリュウ校長が顔を出している。
「校長……」
沙羅は額に手を当てる。「また勝手に来て……」
しかしリュウ校長は気にせず、玲磁のほうへ歩いてくる。
ただ――
その目は、さっきまでの柔らかさと少し違っていた。
まるで未知の魔導書を見つけた魔法使いのように。
「天竜 玲磁。今の……“現象”って言うべきか。
いやぁ、面白いな……。いや、本当に……なんだあれは?」
「……俺にも詳しくはわかんないです」
「だろうな!」
校長は嬉しそうに笑う。
「俺もわかんねぇ!」
…え?
校長ですら“わからない”――?
「“時魔法”ってのはな…歴史上、一度も記録がない」
その言葉に、周囲は戸惑いを隠せない。魅亜がおそるおそる口に出す。
「時魔法…?そんなの、聞いたことない…遥花ちゃんも、初めて聞くよね…?」
遥花は黙ってコクコクと頷いていた。
そう、俺の適性はどうやら生まれた時から時属性らしい。
……そして歴史上、俺と同じ適性を持った魔法使いは一人もいなかった。
登場人物紹介(改訂)
● 天竜 玲磁
【性別】男
【適性】時
【魔力値】-100
【総合順位】150位/150人
【学科】未受験/150人
【実技】150位/150人
【髪】黒に銀メッシュ
【瞳】銀色
世界初の時魔法に適性を持つ。
学科は寝坊して受けられなかった。
実技では時魔法を披露したが、誰も知らない現象だったため評価不能。
しかし不合格にするには惜しい逸材として校長の推薦で合格を果たした。
実はかなりのイタズラ好き。




