#9 魔力測定
教室の扉が開き、淡い緑髪が揺れる。
如月 沙羅。1-E担任。
「まずは…入学おめでとう。
ここは、“成績の低かった者のクラス”と呼ばれています」
クラスの誰かが「ひぃ……」と言った。それにしても、はっきりと言い切ったな。
「現に、今までもEクラスから優秀な人物が輩出された例は少ないわ。それに、成績が低い人が努力している間も、高い人は待っていてくれない」
一理ある。というよりそんなことはみんな分かってるんだよな。
「ゆっくりホームルームと言いたいところだけど、まずはここにいる全員に…自分の現在地を知ってもらいたい。よってこれから、魔力測定室に行きます」
沙羅先生の声と共に、1-Eの三十人はぞろぞろと移動を始めた。
校舎一階の奥に設置された“魔力測定室”。白い壁と巨大な測定器が並ぶ、いかにも魔法学校って感じの空間だ。
「ここで今日は魔力測定を行う。過去に測ったことのある人もいると思うが、成長の初期値として重要だ」
沙羅先生が指で軽く空気を切ると、測定器が淡く光った。
「まずは説明します。
魔法使いの平均魔力値はだいたい300前後。
そして、うちの難関試験を突破した今1年生は、それだけでも平均値500前後はある」
なるほど。
「君たちEクラスなら、400あれば十分に高い方よ」
教室の空気が少しざわつく。
そりゃそうだ。ここにいるのは121位~150位までの落ちこぼれクラスだ。400が高い方と言われても「妥当ですね」としか言いようがない。それだって一般的な魔法使いよりは高いのだから。
「ちなみに、教師陣はどんなに低くても600はある。魔法を教える以上、それくらいは必要だから」
隣で、いかにも普通って感じの二人組の男子が小声で呟く。
「先生ってやっぱすげぇ…」
そう呟いたのは、霞 瑞翔。めちゃくちゃ普通。強いていえばサラサラとした銀色の髪がちょっと羨ましい。
「うん…足元にも及ばないよね…」
隣でコクコク頷いているのが、神無月 理紅虎。こいつの傍らにはいつも召喚獣のフェンリルがくっついている。モフモフしてるしこれはこれで羨ましい。
そこで、恐る恐ると言った感じで魅亜が手を挙げる。
「さ、沙羅先生は……どれくらいなんですか?」
いつも元気な魅亜ちゃんも、沙羅先生の前だと緊張しているな。しかし好奇心には勝てない。
俺も気になる。入学式の時点で「あの人普通じゃねぇ」って本能が言ってたし。
沙羅先生は少しだけ目を細めた。
「ふむ。久々に測定してみましょうか。みんな、よく焼き付けておきなさい。教師というのは、こういう存在よ」
そう言って測定器の前に立ち、指を添える。
一瞬の静寂。
次の瞬間、測定器が爆音と共に光り、数値が跳ね上がった。
885。
クラス全員が息を呑んだ。
「……マジかよ」
「レベルが違う……」
「平均の倍以上……」
少し離れたところで、一際大きな声が聞こえる。
「すげー!すげすぎる!先生ってこんなにやべぇんだ!俺もぜってぇー885を出してやる!」
無茶苦茶なことを叫んでいるのは、二四万 虹矢って言うらしい。総合順位149位。俺より1個だけ上。この学校の中では間違いなく落ちこぼれ。
「あそこまでの熱意をお前は持てているのか?」と聞かれたら、まあぼちぼち頑張るとしか言いようがないが……。
沙羅先生は涼しい顔で言った。
「これでも私より上はいる。
校長の助川 劉は900。
あの人には、まだ一歩届かないわ」
そう言えば入学式の時、昴もそんなこと言ってたな…。
魅亜がぽつりと呟いた。
「やっぱりとんでもない学校来ちゃったんだな、私」
うん、同感。みんなそう思ってる。遥花に至っては、魅亜の服の裾を掴んで震えていた。
登場人物紹介
●霞 瑞翔
【性別】男
【適性】水
【総合順位】124位/150人
【学科】123位/150人
【実技】126位/150人
【髪】灰色
【瞳】茶色
突出した才能のない平凡な少年。性格も至って普通で年相応。同じく普通の感性を持っている理紅虎とはすぐに打ち解けた。人間観察が趣味。
●神無月 理紅虎
【性別】男
【適性】風
【総合順位】123位/150人
【学科】111位/150人
【実技】135位/150人
【髪】青緑色
【瞳】紅色
自然を愛する心優しい少年で、召喚魔法の使い手。
相棒のフェンリルとは幼少期から行動を共にする。
瑞翔とは特に気が合い、普通の時間を共にできる心地よい存在。
●二四万 虹矢
【性別】男
【適性】なし
【総合順位】149位/150人
【学科】148位/150人
【実技】148位/150人
【髪】茶髪
【瞳】虹色
魔法使いとしてはなんの才覚にも恵まれず、適性は致命的な「なし」。
とにかく負けず嫌いで、訓練に余念がない。江戸っ子のような乱暴な口調が特徴。




