好きな服のままで
私は今日、しなければいけないことがある。
それはー・・・
今日発売の新作ジャケットを買うこと!!!
学校では仲良い人なんていないから、ファッションに没頭することが私の唯一の楽しみ。
(楽しみだなぁ〜♡)
と、店に向かいながら考える。こんなこと学校の人たちが見たらびっくりするだろうな。
学校での私は、趣味とか、好きなことを学校の人にバレることに抵抗があるからと思って、the 真面目って感じで振る舞っている。だから、絶対にここで学校の人に会うわけにはいかない。そんなことを思っていると、店に着いた。
新作ジャケットのコーナーへ向かう。
…え?あれは・・・
同じクラスの初崎海くん⁉︎
よりによって隣の席の初崎くんにこんなところにいるところでばったり会うなんて...でも、初崎くんは学校屈指のイケメン枠。さらにすごく髪が長い。だから、初崎くんにいろんなことをしてほしいと考える人は少なくない。かくいう私もその1人だ。初崎くんにいろんな服を着てほしい。そう考えずにはいられないのだ。そして今、初崎くんは私の近くにいる。
...チャンスかもしれない。その時、
「柄山さん?」初崎くんに声をかけられた。
いつのまにか初崎くんに見つかっていた。びっくりしたが、
「...はい。」そっけない返事。その後、初崎くんから想像もしなかった返答が返ってきた。
「柄山さんもここの新作買いに来たんですか?」
...ん?も、ってことは...
「初崎くんはここの新作を買いに来たんですか?」
「そうですよ。意外でしたか?」
「い、いえそんなことはありません。」
びっくりしてすぐに返答を返す。冷静になって思ったことを聞いてみる。
「...初崎くんも意外でしたか?」
「何がです?」
「その...私がこんなところにいること...です。」
「意外...とは感じませんでした。人が、何が好きでどこにいるのかは、自由だと思ってます。」
!私の中で、何かが動いた気がした。
「...!ありがとうございます!私も、新作ジャケットを買いに来たんです。よければ、連絡先交換しませんか?」
「わかりました。隣の席でしたが、あまり話すことは無かったので、改めてよろしくお願いします。」
「はい!よろしくお願いします!」
私は、学校屈指のイケメンの連絡先を受け取り、初崎くんに服を来てもらうチャンスは、先延ばしとなった。
次の日ー・・・学校で、初崎くんに声をかけている生徒を見かけた。
「ねえねえ初崎くん!初崎くんってなんでそんなに髪を伸ばしてるの?」
「んー私が好きだからです。長い髪が。私のこの長い髪は、伸ばせば伸ばすほど、私の誇りになります。もちろん、ケアをするためとか、伸びすぎた時とかはほんの少しだけ切りますけどね。」
へーそーなんだ...
「すごいね!かっこいい!ねね、今度さ演劇部でやる劇のお姫様役が残ってるんだけど、初崎くん綺麗だから、女装とかやってみない?絶対似合うよ!」
「絶対にやりません。」
即答。
「えー⁉︎なんで⁉︎絶対似合うのに!もったいなーい!」
「私は男です。髪が長いからと言って女性を演じる気にはなりません。以上です。では。」
そう言って、初崎くんは去っていった。声をかけていた人たちは、ぽかんとした様子で、去っていく初崎くんを眺めていた。私は、自分の芯を持っている初崎くんをかっこいいと思っていた。
教室でー・・・
「おはようございます。柄山さん。」
「おはようございます。初崎くん。」
初めて向こうから挨拶されたかもしれない。私がさっきの話聞いてたこと知ってるのかな・・・と思っていたら、初崎くんから話しかけられた。
「...柄山さん。さっきの演劇部部員との話、聞いてましたか?」
驚いた。自分から聞いてくるとは。
「...はい。聞いてました。」
私は少し気まずそうに言う。
「そうですか。」
初崎くんは少し不機嫌そうな様子だ。おそらくよほど女装することを誘われたのが嫌だったんだろう。でも、初崎くんは、新作ジャケットを発売日に買いに来るくらいには服が好きだ。だから、女装をすることで初崎くんの服好きを傷つけたくない。たとえそれが私のおせっかいだとしても。
「私には、あんな風にはっきりと自分の意見を言える初崎くんがかっこいいと思いました。」
初崎くんが驚いたような顔を見せる。そして少し微笑み、
「ふふ、ありがとうございます。おそらくあの話はいろんな人に聞かれています。だから、柄山さんもあの話を聞いていたのか気になったんです。」
そうなんだ。ん?
「なぜ私が聞いていたのか気になったんですか?いろんな人に聞かれているのなら、私に聞く必要も、無いように思えます。」
「!それは...」
初崎くんが口籠る。しばらく黙った後、初崎くんは、
「そ、その...柄山さんは...初めて服のことで話せた人...だから...嫌われたくなかったんです...。」
と顔を真っ赤にしながら話していた。初崎くんの見せる初めての表情にまた私の中で何かが動く。きっと今私の顔も赤いだろう。だって、私も嬉しかったのだから。初めて自分の趣味を共有できたことと、もしかしたら初崎くんにいろんな服を着てもらえるかもしれないということが。
「...ありがとうございます。私も初崎くんが最初に趣味を共有した人です。一緒ですね。」
「ふふ、そうですね。その、もしよろしければ、これから一緒にいろんな服を買いに行きませんか?」
え?えーーー!?まさか...こんなタイミングで私の願望が叶うなんて!それにしても...初崎くんって行動力がすごいな...いつのまにかここに来てた...でも、せっかくの自分の願望が叶うチャンス!目一杯楽しまなきゃ!
「えと...じゃあまずはこの、細いカーゴパンツにテーラードジャケットで、インナーはポロシャツで着てもらえますか?」
私は、初崎くんを捲し立てるように早口で、着てほしい服を言ってしまった。
(あ...やば!つい捲し立て...)
私は少し焦りながら初崎くんの顔を見る。
すると、初崎くんは、嬉しそうに、
「わかりました!着替えて来ますね。」
〜着替え中〜
わ、私今、願望叶えてる?楽しすぎ〜!
〜着替え後〜
「どうですか?」
きゃーーー!かっこよすぎ!最高!
「似合ってます!すごく!」
初崎くんは少し笑った後、
「ふふ、ありがとうございます。さて...
次は柄山さんが着てくれる番ですね?」
あ、そっか。私も初崎くんがコーディネートしてくれた服を着るのか。楽しみだなぁー♪
「では、オフショルダーのジャージトップスに、デニムでお願いできますか?」
「はい!着替えて来ます!」
着替えている間、初崎くんが渡してくれた服をもう一度まじまじと見る。(何この服。めっちゃ可愛い〜!初崎くんファッションセンス抜群すぎ!早く着よ!)と思いながら着替える。
着替え後〜
「どうですか?」
「似合ってます!なんでも似合いそうですね。」
と、初崎くんが嬉しそうに言う。それにつられて私も嬉しくなり、照れる。すると、初崎くんは少し考えた後、
「これから、この服で出かけませんか?」
何それめちゃくちゃ楽しそう!と思って
「はい!行きましょう!」
と元気な返事をかえし、服屋を出る。
「...............。」
ーーー・・・
私と初崎くんは、夕方までプリクラや、ゲーセン、またもやショッピングなどをして、時間を過ごした。
「とても楽しかったです!ありがとうございました!またいつか、今日みたいなこと、やりましょう!」
「ふふ、はい。ありがとうございます。それでは私はこれで---…」
「ちょっと待ちなさい!」
え?誰だろう。初崎くんと知り合いなのか、それとも全くの他人なのか、初崎くんは驚いたような顔をしている。
「つ、紬....」
どうやら知り合いらしい。私は、紬って子と初崎くんの会話を邪魔したくなかったから、早々に立ち去ろうとするが、
「待ちなさい!そこの女子!あなたにもこの話し合いに耳を傾ける必要があるのよ!」
私にも関係する話だったようで、去ろうとする足取りを止める。初崎くんは、紬さんがなぜ急に話しかけてきたのか気になっている様子で、「なぜ急に話しかけてきたんですか?」
と聞く。紬さんは、
「あんたがショッピングモールで女子といることが不愉快だったから、今まで思ってたことも含めて言いにきたの。」
と返す。そして、紬さんはそれを話し始める。
「ねえ、海、あんたが急に髪を伸ばし始めるから何かと思えば、『自分の誇りになれるものがひとつ欲しいから』って、ふざけてるんじゃないの⁉︎誇りになれるものなんて大袈裟に言って、結局自分が注目されたいだけじゃない!」
初崎くんはずっと黙って紬さんの話を聞いている。すると、初崎くんが口を開いた。
「...。まず、誇りになれるものが欲しいというのは本当です。そうでもしないと、私の存在意義はありませんからね。だから、髪を伸ばすことで、それは私の誇りになるんじゃないかと思ったんです。」
そうなんだ。だから、女装をすることを極端に嫌がるのか。自分の誇りを汚されたくないから。紬さんは、驚いたような顔をしている。私は、初崎くんに、行き場のない、言葉に表せないような感情が湧き出ている。そんな中、紬さんは我に返り、初崎くんに問う。
「じゃあ、この女子を巻き込んで遊んでたのも、自分の誇りのため?」
初崎くんは、紬さんからの思いがけない質問に、驚いたような顔を見せる。私も、まさか自分の話になるとは思ってなかったため、少し驚く。
「...っ、柄山さんは私の初めて趣味を共有した人です。私の誇りは関係ありません。私が一緒にいたいと思ったんです。」
その言葉につい照れてしまうが、そんな間はなく、話は進む。
「ふうん。誇りに思うことを作ろうとしているあんたと、趣味に没頭できるこの女子。完全に不釣り合いだとは思わなかったの?」
私のことを褒めてるのか褒めてないのかよくわからない人だな...と思ったが、紬さんの言っていることは、初崎くんを追い詰めるための発言でしかない。この発言を初崎くんはどんな気持ちで聞いているんだろう。すると初崎くんはしばらく黙った後、
「確かに柄山さんと私では、不釣り合いですね。趣味を共有できる間柄なんて、私には絵空事だったのでしょうか。」
と、初崎くんは自嘲気味に笑う。私はこの言葉に表せないような気持ちをようやく理解した。
「....そんなこと、ないです。」
「え?」
大きく息を吸って、話す。
「初崎くんは、服が好きです。それに行動力もあって、優しいし、顔がいいです。服だっていろんな服が似合います。髪を伸ばすことで誇りになると一口に言っても、髪を伸ばし続けるのは大変です。初崎くんは男の子だから、髪を伸ばしていることで指される後ろ指も、多かったはずです。そんな中、髪を伸ばし続けることが出来る初崎くんの精神力は、とてもすごいと思います。」
止まらない。私が感じていた言葉に表せないような気持ちは---・・・
「こんなに初崎くんにいいところがあるのに、存在意義がないなんてこと、絶対にないです。それに、私と初崎くんが不釣り合いなんてことも、絶対にないです。むしろ私の方が初崎くんに不釣り合いです。初崎くんには、服をずっと好きでいて欲しいんです。初崎くんのことを、悪く言わないでください。」
私の話に区切りがついた時、紬さんが、
「...話が長い。それに、さっきから聞いてたら、あんた海のこと大好きじゃん。」
そう、これが私の言いたかったこと。そして、言葉に表せない気持ち。
「はい。大好きです。だから私は、自分で自分を卑下する初崎くんが、ほっとけなかったんです。」
初崎くんは、驚いたような、照れてるような顔をしている。私も、目に涙を溜めて、顔を赤くしている。紬さんも、驚いている。その場に沈黙が流れ、私は我に帰って、いきなり恥ずかしく感じた。そして私は逃げるようにその場を立ち去った。
「....っでは!私はこれで!」
取り残された2人は、顔を見合わせて、空気を読むように解散した。
〜次の日〜
昨日たくさん話しちゃった。引かれてないといいな....しかも大好きって言っちゃったし...。......うん、まあ初崎くんが来たらまた考えよ。
「きゃーーーー!」
耳を劈くような悲鳴が聞こえた。(え?何?)そう思っていると、初崎くんがやって来た。そこで、私は衝撃的なものを目にした。
「おはようございます。柄山さん。」
私が目にしたのは、初崎くんが髪をバッサリと切った、ショートヘアの姿だった。
「お、おはようございます。初崎くん。」
初崎くんが髪を切ったことに関してさまざまな感情が渦巻き、言い淀んでしまった。
(どうしよう⁉︎初崎くんが髪を切ったの、私のせいなんじゃ...!でも自分から聞くのは恥ずかしい...!でも知りたい...!『なんで髪バッサリ切ったの?』って!でも、クラスの人からしたら私がいきなり初崎くんに話しかけるのはおかしいだろうな...)どんどん感情がわからなくなって言っている時、初崎くんに声をかけられた。
「柄山さん。少しいいですか?」
「はい!なんでしょう?」
初崎くんは、かばんを降ろし、椅子に前のめりに腰掛けて、私の目の前で、話し始める。
「...ありがとうございました。」
(え?)「ど、どういうことですか?私、初崎くんに感謝されるようなこと、した覚えがない...です。」
「私は昨日、柄山さんが言ってくれた私のいいところを聞いて、少し、自分に自信が持てたんです。だから、髪をバッサリ切ったのは、自分に自信を持つという決意表明と、その気持ちにさせてくれた柄山さんへの感謝の意味があります。柄山さんのおかげです。ありがとうございます。」
私は、髪をバッサリ切った理由が私だったことに驚いた。初崎くんの話にはまだ続きがあるのか、初崎くんがまた話し始める。
「それで...その...私も...柄山さんのことが...好きです..。よければ、お付き合いして...くれませんか?」
「....っ!」私の顔が真っ赤になる。少し黙った後、
「....はい...。」私は顔を覆い隠しながら、声を頑張って出す。嬉しい気持ちと、恥ずかしい気持ちを交えながら、2人の、友達でもあり、恋人でもある関係は続いていく。ーーーー完




