映画館(ホラー)
その映画館に俺が迷い込んだのは、学生の時だ。反抗期真っ盛りの俺は、父親と喧嘩して家出して、途方に暮れていた。そんな時だった。
当てもなく歩いている時に、一つの映画館を見つけたのさ。
名前は忘れたが、とにかく古い映画館だった。
「何か見てくか……」
俺は適当に近くの部屋へ入った。
俺の他にも何人か部屋にいた。その中に、俺と変わらない年齢の女の子が座ってた。俺は何となくその子の横に座った。
「そろそろだよ」
女の子はそう言って俺に微笑んだ。
まもなく、映画が始まった。それも、白黒の音無し映画。
不気味な映画だったよ。ただ、狂った女が踊ってるだけの映画だ。
いや……本当にあの女狂ってんだよ。ミルク瓶を胸元から出して飲んだり、子供みたいに近くの馬のおもちゃに乗ったり、鞄を持ってゆらゆら動いたり、首を吊る真似をしてみたり……とにかく不気味だった。
で、最後の最後にその女、自分の胸をナイフで突き刺して死ぬんだよ。白黒のくせに、血の表現がやけにリアルだった。
「これね。貴方の人生」
声が聞こえて横を見ると、女の子が俺を見て笑っていた。
その女の子……よく見ると、踊ってる女と同じ顔をしていたんだよ。
その後のことはよく覚えてねえけど、今でも包丁を見るのは少し怖えんだ。
これで最後の作品になります。読んでくださった方々、どうもありがとうございました。