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第8話 監禁

少し長めです。

 もがいた。

 正直、死ぬ程もがいたけど、口を塞がれていることもあって声を出すことなんて全然できなかった。頭の中があまりにも混乱して、気持ちが恐怖で埋め尽くされていたため力をつかいたいにも集中が出来ず、炎を出す事もできなかった。


 周りの者が誰一人起きず、クレアはそのまま引きずられる。どうして誰も起きないのかは、恐らくこの男達の中の一人の能力だろう。世の中にはたくさんの能力があるため正確にはどういう能力なのかは見当もつかない。

 ただ、ここで騒いでみんなに危害を加えないためにも、大人しく連れて行かれたほうがいいのかもしれない。


 動きをとめたクレアを見て、一人の男性がニッと口角を上げた。



「諦めたか。それ以上もがいたらあそこにいる奴らを一人ずつ殺して行く所だったのに。残念だ」



 ゾクッとした。

 ますます頭の中は混乱と恐怖でいっぱいになり、クレアは目を見開いたまま大人しく引きずられて行く。

 目隠しをされ、右も左も分からずひたすら引っ張られて行くと、五分ほどして男達の足音が止まり、自分の体もとまった。目隠しを取りたい衝動に襲われるが、ここで取ったら何が起こるか分からないため、一応取らないでおいていた。

 ここで炎をつかうこともできるのだが、もしもファリス達の所に男達の仲間がいたら、テレパシーでも使って、クレアが暴れだした瞬間に殺して行くかもしれないのでその考えは一応止めておいたほうがいいだろう。

 するとこれからどうしようか―



 カキンッ



 クレアの思考は剣と剣がぶつかる音で遮られた。



「おいっ!」

「どうした!」



 男達が一気に走り去る音が聞こえたので、思わず目隠しを取ると、遠くで何人かが乱闘してるのが見える。クレアは誰が闘っているのか気になったものの、一回周りを見回した。

 先方に馬車が見える。恐らくあれに自分を乗せる気だったのだろう。馬車が見えて、森に囲まれているのが分かるが、今の現在地がちっとも分からない。

 クレアは一度現在地も放っておいて、乱闘の方へ走って行く。

 すると、



「ロード!」



 予想外の人物に思わずクレアが叫んだ。

 クレアの叫びにロードは剣で一人の男を切ってから、すぐさま彼女の側へと走りよる。クレアを背にロードは息切れながら彼女に話しかけた。



「クレア様! ご無事ですか!?」

「い、一応平気よ。でも、ロード、どうしてここに?」

「水汲みに行っていて、戻って来たらクレア様の姿が見当たらないので、くっ!」



 剣を振り落としながら、



「陛下やディナルさんを起こそうとしてもちっとも目が覚める気配がないのでっ!」



 一人の男が剣を突き出して来たが、ロードは剣で容赦なく彼の腕を切り落とす。男の絶叫が響き、血が飛び散り、その光景に思わずクレアが息を呑む。



「能力を使って周りを見回すと、クレア様を連れて歩く奴らが目に入ったので急いで追って来たのですよ! 間に合ってよかった!」

「能力って、あんたの透視ってどこまできくのよ!?」

「見える所までは見えるんですよ! ぐっ!」



 ロードはクレアをここまで連れて来た男の剣を受け止めると、倒れた彼の喉にピタっと剣をつきつけた。



「この方はラキオス王国の王妃なる者だぞ」

「ぐっ...そんなことは、承知の、上、だ!」

「貴様――ぐっ!」




 頭に鋭い痛みが走り、ロードのうめき声とともに意識がなくなった。









「――ア様...レア様....! クレア様!!」



 ロードの声にバチっと目が覚めた。私を心配そうに覗き込んでいる彼の薄い緑の目と視線がぶつかった。起き上がろうとすると、頭に鋭い痛みが走ったので、一つうめき声を上げてから再び頭を下ろした。

 ....これは、相当強く殴られたかな...



「クレア様、ご無事ですか?」

「私は、一応平気よ。.....ちょっと頭が痛むくらいで。ロードこそ大丈夫?」

「俺も大丈夫です。殴られたといってもそこまで強く殴られたわけではありませんので」



 彼の言葉に安心すると、私は周りを見回した。どうやらどこかの牢獄に放り込まれたようだ。でも部屋が一つしかないところをみると、ここは特別に監視されている牢獄なのかな、と思う。

 試しに炎を出して鍵を溶かそうとするけれど、一向に溶ける気配がない。それどころか熱くもならない。

 .....まあ私を閉じ込めることを事前に計画していたのならば当然っちゃ当然だけど。



「どうやら閉じ込められたみたいね.....」

「申し訳ありません。俺がついていながら....情けない」

「いいのよ。ロードのせいじゃないわ。むしろあの時助けに駆けつけて来てくれたこと自体奇跡だと思ってるもの。それよりも、ここはどこだか分かる?」

「牢獄の門についている紋章を見る限りでは、ウルッシア軍の仕業かと」

「ウルッシア?」



 でも、ウルッシアは確か戦争の真っ最中.....

 そうか。



「私達が介入するのを知って、止めに入ったってわけね....」

「その可能性が非常に高いですね」

「まったく。なんてことしてくれるのよ。今が何時くらいだか分かる?」

「まだ真夜中ですよ。陛下達に使われていた能力が解けたのなら、今はきっとクレア様を必死に探しまわってるところだと思いますが」

「....ファリス、私がここにいるって分かるかしら」

「そうですね。俺も慌てていて置き手紙もなにも書いて来ていないので...」

「そうよね」



 二人で黙り込んだ所で、いきなり牢獄の奥の方にある廊下の扉が開いた。二人でその方向を見ると、一人の男性を中心に五人ほどの男女が入って来た。

 ....多分、あれが私達を誘拐した人達だ。

 隣にいるロードを見ると、彼はただ真っ直ぐ見つめていた。ただ、見ている方向があの人達ではない所を見ると、多分透視でこの建物の構造を見ているんだろうと思う。なんて便利な能力。


 男達は無言で私達の牢獄へ近づいて来ると、およそ一メートルくらい手前で立ち止まった。私はその男達を睨みつけ、ロードも彼らに視線を移す。私達の前に立っていたのは、四十代くらいの厳しい表情をした男。濃い金髪はオールバック風になっており、深い茶色の瞳は私達を、正確にはロードを、睨みつけた。



「....余計な虫が入ったのは予想外だったな」

「申し訳ありません、隊長。あのまま逃がして王妃の場所をファリス国王に教えかねないということで連れて来たのですが」

「それで良い。よくやったな」

「恐れ入ります」



 滅多に褒められることがないのか、隊長と呼ばれた男が後ろにいる男性にそう言い放つと、彼は嬉しそうな顔になった。


 私は目の前にいる男を精一杯睨んでやった。



「何が狙い」

「自己紹介もさせてくれませんか、王妃」

「これから先関わる気がない人の名前なんて知りたくないわ」

「....噂通り非常に強気な性格でございますね」



 噂通りって何。私の性格ってもしかしてベンゾラ全体に回ってるの?

 いや今はそんなことはどうでもいい。とにかくこの状況が一体なんなのかを確かめないと。



「お前がいるということは、やはりここはウルッシアだな、ルドルフ」

「さすがですな、ロード殿」



 ルドルフと呼ばれた男がニッと笑ってロードに話しかけると、ロードの目が鋭くなった。こんな怖い顔したロードは始めた見た気がする。

 慌てて彼に声をかけた。



「ろ、ロード! 知り合い?」

「クレア様はこの世界に入って間もないですから知らないのも当然ですが、彼は、ルドルフ・キトラス、ウルッシア軍の隊長です」

「隊長!? ってことは私を誘拐しろと命じた人ってこと?」

「そういうことになります」



 驚いて男を見ると、確かに周りの奴らとは着ている服とか、どことなく違う。

 ....今まで気づかなかった私って一体....



「ルドルフ。これは一体どういうことだ」

「どうもこうも見たままですよ。貴方達に戦争の邪魔をされるわけには参りませんので、邪魔をさせてもらった次第です」



 相も変わらずニヤニヤした顔を崩さずにルドルフが言う。

 その気色悪い顔に思わず鳥肌が立った。こいつ....何人もニヤニヤしたまま殺せるような人だ。分かる。あの目は。



「貴方が邪魔をしたって、ファリスがハシェンドにつくのなら意味がないじゃない」



 私の言葉にチッチッチとルドルフが指を振った。

 ムカつく。



「何もご存知ないのですね、王妃。戦争を止めるには、国王と王妃、二人の承諾が必要なのです」

「私が承諾してることなんて、ファリスはとっくの昔に知っているわ!」

「王妃がそこにいなければ意味はないのですよ。王妃。それに、ファリス陛下は王妃がいなくなったと知れば、大騒ぎして戦争どころではなくなってしまいます」

「........」



 鋭い指摘に思わず黙り込んだ。

 ルドルフの言う通り、ファリスは私がいないと分かれば、きっとラキオス軍全員を出動させて私を探そうとしかねない。彼は本当に、私のことは大切にしてくれているから。

 隣にいるロードも同じことを考えているのか、黙り込んでしまっている。

 そんな私達を見てルドルフはフン、と鼻で笑った。



「王妃の能力を承知の上でこの牢獄はつくらせてもらいました。どれだけ能力をつかってもこの牢獄から出る事は不可能ですよ」

「そんなこと分からないわ」



 私の反論にルドルフは再び笑った。



「せいぜい頑張ればいいでしょう」



 それだけ言い残すと、ルドルフは出て行った。


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