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第26話 それぞれの思い

 なんだか長めになってしまった。


 ティマ大陸は小さな大陸だ。ベンゾラ大陸に比べたら四分の一にも満たないほどの小ささである。ベンゾラと違って国に別れているわけでもなく、ティマ大陸自体が一つの国で、その中で村や町があると考えたほうが良い。

 そんなティマ大陸がベンゾラ大陸、いや、この場合はラキオス王国に宣戦布告をしたのだ。ラキオス王国だけならばさすがにティマ大陸の方が面積は大きく、人口もラキオスを上回ってはいるものの、ティマ大陸とベンゾラ大陸では決定的に違う点があるのだ。


 それは、能力を持っているか、持っていないか。


 ティマ大陸では誰一人として能力を持っているものは存在しない。ベンゾラからティマに移り、そこで子供を生んだら話は違うが、能力者がいないティマ大陸では、全員がなんらかの能力を持っているベンゾラ大陸には歯が立たないのである。軍も当然のように優れた能力を持っている人材しか集めず、たとえ五歳でも八十を越えていても誰でもなんらかの能力を所持している。

 ティマ大陸とベンゾラ大陸の決定的な強さの差はそこにあった。


 当然、シヨンはその違いに気づかないほど愚かな首相ではない。ファリスもシヨンとは何度か会っているが、頭もよく理解力も高く、全てが面倒くさいと思っているように見えるが、洞察力はファリスの知っている人の中でもとくに優れている人物だった。

 そんな彼がベンゾラ大陸に宣戦布告をするとは考えられない。考えられる可能性としては、やはり秘書であるレズリーの行いなのだろう。





「ファリス? どうするの?」



 会議を終わらせ、レズリーさんからの宣戦布告の手紙を読み終えたあとに私達は執務室に戻って来ていた。政務は殆ど片付いており、まだいくつか残ってるといっても緊急ではないためまた後日やるとファリスが言ったのだ。


 私の問いかけにファリスは深く溜息をつくと、机の上に置いてあったレズリーの手紙を手に取った。



「どうするも何も、ティマ大陸では俺達には歯が立たない。たとえラキオスだけに戦争をしかけてきたとしても、能力を持っている俺達と違ってあちらの軍の人材は誰も能力を持っていない。能力に寄っては一人では十人を倒せるほどの能力者だってこちら側の軍にはいるんだ。そんなのが十人も集まれば、ティマ大陸の軍など子供をあしらうのも同然になってしまう」

「.....戦争はするの?」

「...できれば避けたい。長い間ラキオスはどことも戦争をしていないからな。殆どが話し合いで解決されているが、今回はそうはいかないだろう。一応戦闘準備はして、軍にも連絡は回してある。しかし、残念ながらティマに勝ち目はない」

「.........」



 ファリスに言われるまでもなく、ティマがラキオスに勝てるわけがないのは分かっていた。いや、ファリスではなくとも、私でなくとも、ラキオスに住んでいる誰もがその発言には頷くはず。だって能力を持ってる時点で既に勝ち負けが決まってるもの。私の能力は炎だ。確かに微弱ではあるけれど、能力を持っていない人にとったら充分自己防衛にはなる。


 はぁ、と再びファリスが深く溜息をついて眉間にしわをよせたまま両目を閉じた。

 ....疲れきってるんだろうな...。



「ファリス? 部屋に戻ってなよ。政務も終わったんだし、早めに休んだ方がいいんじゃない?」

「...ああ、そうだな。そうする」



 あっさりと引き受けたのを見て余程疲れてるんだろうな、と思って、ドアの所で待機していたディナルとロードに呼びかけた。それからフラフラと部屋から出て行くファリスに苦笑を零しながら見送って、ファリスが置いて行った手紙を見つめた。

 読んじゃってもいいかな....。別にファリスも私に見せたくないなんていう素振りはしてなかったし、多分見せたくないと思っていたとしても、それは以前の恋人であった人からの手紙だからだと思ってるし。


 いいかな、と思ってカサッと手紙を開いた。



『ラキオス王国 ファリス・アステルカ陛下、

 ティマ大陸、シヨン・リグリー首相の代理として、秘書であるレズリー・マクライドが書かせていただいております。

 経緯を省いてお話いたしますが、ベンゾラ大陸とティマ大陸の合併の話は聞いております。当初は侵入をするともシヨン様から聞いておりますが、その計画を知ったシヨン様が合併をすると言い出した話も知っております。

 残念ですが、その合併話は断らせていただきます。それでも尚ティマ大陸と合併をすると言うのであれば、戦をはじめることに私達は躊躇いません。

 首相シヨン・リグリー代理、首相秘書レズリー・マクライド』



 達筆の文字で書かれている短い手紙を二回ほど読み通してから、私は軽く溜息をついてから手紙を折って机に置いた。

 なんというか、とてもじゃないけど国の王に対する口調ではない気がする。気がするっていうか絶対に違うと思う。一般人がこんな無礼な手紙送ったらサマヘルカが激怒するのが目に見えてるけど、レズリーさんからっていうのもあってさすがに黙認したかな。

 一言で言ってしまうと、冷淡な手紙だと思った。五年以上経っているというのにファリスへの怒りもにじみ出ているのが分かる。一体いつまで恨み続けるんだろう....。


 

「...まさか私がこのことを知ってるとは思ってないだろうなぁ...」



 独り言を呟いてから座っていた椅子から腰を上げて、私は執務室から出た。側で待機していたルドとスティラが歩いて行く私の後を無言についてくるのを見ると、何も聞く気はないってことかな。

 礼儀正しい子達で助かるよまったく。


 そのまま部屋に戻ると、窓の外を眺めながらジェシカが椅子に座っていた。

 だけど何かを見てるわけでも何かを探してるわけでもない。なんだか変だと思って私は近寄った。



「ジェシカ?」



 ビクッとジェシカの肩が大きく跳ねて、目を大きく見開いたまま振り向いた。



「クレア様! すみません! ぼーっとしてしまって!」

「...いや、平気だけど。大丈夫? 具合が悪いんだったら講義はまた明日でも構わないけど...」

「いいえ、大丈夫です。すみません」



 小さく頭を下げてから私を座らせると、既に隣にあった資料やら何やらをジェシカが拾い上げて机に乗せた。それから上に乗っていた紙を取って私に渡して、ジェシカも筆を持った。

 だけど動かない。....やっぱり絶対おかしいって。



「...ジェシカ。何があったのか説明してくれないと、講義サボるわよ?」

「クレア様っ」



 困ったようにジェシカが叫んだが、私は筆を置いて腕を組むと、じっとジェシカを見つめた。眉を寄せたままジェシカもしばらく困ったように見つめ返していたけれど、やがて諦めたのか自分も筆を机に置いた。

 それから私の前にあった紙を取ると、私が勉強するために置いてあった紙の山の上に戻した。



「いや、何も講義をやめるとは言ってないんだけど...」

「クレア様に、言わなければいけないことがあるのです」

「言わないといけないこと?」

「はい」



 ジェシカに限って私に言わないといけないことなんて見当がつかない。だってたとえジェシカが何かのスキャンダルを起こしていたとしても、こうやって城に留まってるってことは対したことじゃないってことだし。ファリスもジェシカに対して警戒を見せてなかったんだからジェシカのどこかが危険だとも思わないし....。

 思考を巡らせながらもじっとして座っていると、覚悟を決めたのかジェシカが顔をあげた。



「それが、レズリー様のことなんですが....」

「レズリーさん?」



 意外な名前に素っ頓狂な声を上げてしまった。いや、だってレズリーさんのことを話すと思った人の中にジェシカは入れてなかったから、つい....。



「レズリーさんのことがどうかしたの?」

「...クレア様は、レズリー様の苗字をご存知ですか?」

「苗字...? そうね.....えーと....まら、まくら、まり....」

「....マクライドです」

「あ、そう、それっ! ....がどうかした?」

「レズリー様についての資料はクレア様もご覧になっていると思うのですが、レズリー様の苗字は、両親が他界するまでは違ったんです」

「えっ、うそ、そうだっけ」

「はい。苗字は、元はルーストーラです」

「ルーストーラ....」



 そういえば確かにどこかで読んだなと思って苗字を自分でも繰り返して言ってみたけど、その瞬間に気づいた。目の前ではジェシカがどこか悲しげな瞳のまま私を見てる。



「.....待って。ちょっと待って。ジェシカの苗字って....」



「私の名はジェシカ・ルーストーラです。レズリー様は、私の異母姉でございます」











 夕飯を食べ終わって自分の部屋に行こうと思ったんだけど、ファリスが夕飯に来ていなかったから心配で様子を見に行くことに決めた。そーっとファリスの部屋の扉を開けると、普段なら跳ね起きた所を何の音も立てずに眠り続けている。

 .....珍しいこともあるもんだ。そういえば、ファリスの寝てる所ってあんまり見ないんだよなぁ。同じ部屋で泊まる時だってなんだか知らないけどいつも私より先の起きてるし。


 勝手に部屋に入って椅子に腰を降ろして、私は数時間前にジェシカに言われたことを思い返した。

 ジェシカは『異母』と言っていた。ってことはジェシカとレズリーさんは異母姉妹ってことになるんだけど、ジェシカもレズリーさんも互いにレズリーさんがラキオスから去るまでは知らなかったらしい。レズリーさんがいた期間は丁度ジェシカが母親のソフィーと一緒にティマに帰っていたから会うこともなかったし。帰って来た後にファリスからレズリーさんの存在を聞かされたソフィーがジェシカに言ったらしい。

 ソフィーは三年前に既に亡くなってしまっているから、ジェシカとレズリーさんは互いに唯一の肉親ということになる。


 ....なんだかとても重い話題を聞いてしまった気がする....。



「....クレア...」



 そこで名を呼ばれてはっと顔をあげると、ファリスが起き上がって私を見ていた。



「ファリス...」

「...何やってるんだ?」

「え、えと、夕飯にファリスがいなかったから心配で見に来ただけなんだけど....」



 ふぁ、とあくびを漏らすファリスを見ながら言うと、ファリスは少し驚いてから侍女瞬殺の笑顔を私に向けた。それからちょいちょいと私に向かって手招きをする。

 ....えっ..。



「おいで」

「...いや、なんでだし」

「いいからおいで」

「........」



 有無を言わさずに手招きを繰り返すファリスに渋々近寄って行くと、ベッドに近づいた所でファリスが私を引き寄せた。そのまますぽっと私を腕の中に閉じ込めると、首筋に口付けを落とす。



「ちょ、ちょっとっ」

「いいだろ。飢えてるんだ」

「サラッとそういうこと言わないで!」



 首の周りを唇が這っていき、頬を登って来た所で快感で思わず身震いした。その動作に耳元に唇を寄せていたファリスが笑うのを感じた。ま、負ける者か!

 


「ちょ、ファリス! 聞きたいことがあるんだけど!」

「....聞きたい事?」



 唇の動きが止まったことに安堵の息を漏らしてから、私は身体を捻らせてファリスに向いた。



「ジェシカのことなんだけどね」

「...ジェシカ?」



 予想外の名だったのかファリスが怪訝そうに眉を寄せた。



「ジェシカとレズリーさんが姉妹だって、知ってたの?」

「............」



 黙りこくった。

 つまり知っている、ということだね。ファリスって妙な所ですっごく分かりやすいよね。


 じっと見つめていると、目を瞑ってから一度だけファリスが頷いた。



「レズリーが去るまでは知らなかった。ジェシカも彼女の母親のソフィーも丁度ティマに帰っていた所だったから、ラキオスに帰って来て、レズリーがきたと知らせたあとに二人が姉妹だと発覚したんだ。ろくでもない父親だったからソフィーは知らせたくなかったらしい。レズリーのこともどこか毛嫌いしていたな」

「....そうなんだ...」

「ジェシカが教えてくれたのか?」

「ええ。なんだか妙に思い詰めた様子だったから、聞いたらいろいろと話してくれたの」

「ジェシカらしい。お前に隠し事はしたくないんだろうな」

「いい子だよねー」



 私がそういうとファリスはふっと少しだけ笑った。







 その日の夜。窓から満月なのが見えて、外に出ようと思って寝間着の上にショールを羽織った。一度ファリスに引き止められたけど、満月なんて滅多に見られるものじゃないから行くと言い張ったら、ルドとスティラを叩き起こして私と同行させた。

 ....まったく、鬼なんだから。



「ごめん、ルド、スティラ。私は寝かせてあげたかったのに」



 後ろについてくる騎士二人に振り返ると、二人は苦笑を浮かべた。



「クレア様の気に病むことではありません。それに、私達も警備が薄い城の外で王妃様を一人で置いて行くわけにはいきませんし」

「どうしてみんなそろいも揃って心配性なのよ、まったく」

「陛下はクレア様のことを大切にしているだけですよ。俺達もクレア様の騎士として同行するわけには行きませんので」



 ....いくら警備が薄いっていったって兵士は絶対にいるし。城の壁の上を登るのだって能力がない限りは無理。たとえ登ったとしても絶対に兵士に見つけられるから別に護衛はなくてもいいと思うんだけどな。


 外の庭に続く扉を開けると、警備をしている兵士が驚いて私達を見た。滅多に人がこないからかな。



「王妃様!」

「驚かせてごめんなさい。満月が綺麗だから外に出てみたくて」

「いいえ。私どもに謝る必要はございません。ただ、王妃様の前にも一人出て来たので」

「え?」



 この庭には兵士達がいるといっても誰かが入ってくることは滅多にない。

 それにこんな時間に庭に来るなんて、そんな物好きな人が私意外にいたとは驚いた。とはいえ、月が一番よく見えるのはこの庭からだから気持ちが分かるといえば分かるけど。


 すぐ後ろにルドとスティラを感じながら上を見上げると、まん丸な月があってわぁ、と思わず感嘆が零れた。

 そこで、



「...王妃様」



 あまりにもびっくりして大きく肩が揺れて、ルドとスティラが瞬時に護衛体勢に入った。だけど振り向いてその人物を確認すると、剣にかけていた手を降ろした。

 立っていたのは、シラだった。



「シラ...」

「こんばんは、王妃様」

 


 小さく笑って私に礼をするので、つられて私も頭を下げてしまった。三人がおかしそうに私を見たけど。



「こんな時間で、何やってるの? シラ」

「王妃様こそ。私は今日は満月なのを見てここに出て来た次第でございます。ここからだと月が一番よく見えますので」

「あら、私もそうよ」

「そうですか」



 一瞬だけ気まずい空気が流れたと思うと、シラが近寄って来た。昼間のことでまだ何か言う事があるのかなと思ってると、シラが深く頭を下げた。



「......シラ?」

「...昼間は、申し訳ありませんでした」

「....あぁ....」



 レズリーさんの、ことか。



「そんな、謝らなくてもいいのに。私も別に怒ってるわけじゃないし」

「いいえ、そういうことではないのです。侍女の分際であれほど無礼な口を王妃様に聞いてしまったのを深くお詫びしたいのです」

「...シラ...」



 顔を上げて欲しくて、一歩だけシラに近寄った瞬間だった。



 バシュッ、



 風を切る音と共に、私の身体を矢が射抜いた。







 遅れてしまってすみませんでした。もう一つの小説に取りかかっていたらいつの間にか.....。

 最近時間の流れが速い気がするんですが私だけですか?



 私は外国住みなので、東北地震についてはすぐには知らなかったのですが、あまりの被害にテレビの前で釘付けになってしまいました。私の家族や友人は今の所無事だと確認が取れていますが、油断はできません。

 皆様もご家族や友人が無事であるよう祈っております。



 ここまで読んでくれてありがとうございます。

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