第23話 傷
ああ、もう、存分に罵ってください!
思ったよりも時間がなくてマジでごめんなさいorz
後半をまだ書いていないのですが、これ以上遅れたらさすがに申し訳ないのでここだけ上げておきます。後半はまた後日書き上げます!
本当にごめんなさい!
いつから彼女に依存していたか分からない。いつから彼女のことが大切で大切で堪らなくなったのかも覚えていない。ただ側にいてくれると嬉しくて、安心できて、誰よりも幸せだった。
彼女だって自分を愛してくれて、幸せだと言ってくれた。そんな大切な彼女だから傷つけたくなかった。優しくしたかった。ほかの誰よりも、自分が幸せにして上げたかった。
ああ、それなのに。
結局は、彼女を傷つけてしまった。
「.....レズリー」
「言い訳はやめて!」
躊躇いがちに伸ばした腕が、今度は避けられる。それから今にも泣き出しそうな顔で叫ばれた。
レズリーの後ろに立っているシラを一瞥すると、彼女も顔を真っ青にして泣きそうな顔をしていた。彼女の隣にいるルドとスティラは何が起こっているのか分からず、困惑した表情を浮かべている。騒ぎを聞いて駆けつけて来たサマヘルカは、険悪な雰囲気にレズリーとファリスを驚いて交互に見ているだけだ。
「...どうして、言ってくれなかったの...?」
「.........」
レズリーの震える声だけが、静まり返った玄関に響いた。ファリスは無言で彼女を見つめ、周りの人々が緊張して自分達を見ているのも感じ取れた。
誰も驚いた様子ではないということは、全員がファリスに許嫁がいたのを知っていながらも、誰一人として自分に教えようと思った人間がいなかったということだ。城の者と仲良くなり、城の中のことは殆ど知っていると思っていたのは、恥ずかしながらも自分の思い上がりだったのだ。
何も答えてくれないファリスに、本当に彼には許嫁がいたのだと実感するのと同時に、あまりにも裏切られた気分になって、強く拳を握りしめた。
「...どうして、言ってくれなかったのよ!!」
「レズリー」
「どうして言ってくれなかったのかって聞いてんのよ!!」
顔を上げて、目尻に涙を浮かべながらも憎しみを込めて叫んで来るレズリーに、ファリスは言葉を失った。
なんて言えば、彼女は納得してくれるのだろう。
なんて言えば、信じてくれるだろう。
なんて言えば、いいのだろう。
「......いつか、言おうとは思っていたんだ」
「いつか!? いつかっていつなのよ! 私と結婚したいとか、私と結婚するつもりだとか言っておいて、結局許嫁がいたんでしょう!? 既に結婚する相手が決まってたんでしょう!? そういう存在がいたのに私に隠して、他の人にもバラすなと散々言っておいて、隠したまま私と結婚しようと思ったんでしょう!?」
「...そんなことはない」
「じゃあいつ言うつもりだったの!?」
「.........」
「結婚式前日? 結婚した翌日? いつにしたって、私が傷つくとは思わなかったわけ!?」
「.........」
「なんとか、言ってよ....!!」
目に浮かんで来る涙を必死に拭き取りながら、悔しそうにレズリーが叫んだ。
ああ、何がいけなかったのだろう。
どこから狂っていたのだろう。
どこから、歯車が噛み合なくなってしまったのだろう。
どうして。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
「......すまない」
パァンッッ
「れ、レズリー様っ!」
「..バカじゃないの...。バっカじゃないのっ!!」
平手打ちをかました右手をぐっと握りしめてからファリスを睨みつけると、レズリーは自分の部屋へと走り去って行った。
残された者達は、叩かれたファリスと、レズリーが走り去って行った方向を交互に見つめ、困惑したように顔を見合わせる。ファリスの心配をするべきか、レズリーの心配をするべきなのか。
「...ルド、スティラ」
ファリスに名を呼ばれて、ルドとスティラが彼を見た。ファリスは頬が痛む様子を見せず、頬を押さえることもせず、真っ直ぐとルドとスティラを見た。
「レズリーの様子を見に行ってくれ。俺は、もう彼女に顔合わせは出来ない」
「......かしこまりました」
頭を下げて、スッと下がると、二人はレズリーの部屋へ向かう。彼女の騎士と任命されていたからにはすぐさま彼女の後を追うべきだったが、国王陛下が叩かれたという事実を目の前にして、うまく動くことが出来なかったのだった。
ルドは心配そうな顔をするスティラを横目で見てから、小さく溜息をついた。
「...言った方がいいと、俺も思っていたんだがな」
「...俺もです」
「まあ、好きな女が出来てその女に、実は許嫁がいた、なんて言いづらいのはわかるが...」
「...おまけに結婚をしようと考えていた女ですし」
「そうだよな。はじめてあそこまで好きになった女なんだから、余計言いづらかったんだろう」
「...傷つけない様にしていた行為が、結局、隠し通すことで余計レズリー様を傷つけることになるとは、きっと考えていたんでしょうけどね...」
二人は、ファリスの騎士であるディナルとロードと共に殆ど生まれた頃からこの城に通っている。それは四人の父親が先代国王と皇太后の騎士であり、その父親の父親もまた、王族の騎士をやっていたからだ。騎士という立場は代々受け継がれて行くものであり、それはよそ者を受け入れて裏切られる確率を減らすためのルールである。また、幼い頃から信頼関係を築くことも目的としている。
そのため、ルドとスティラはファリスの騎士達ほど彼の側にいなくても、ファリスの性格は分かったつもりでいた。
コンコン、と控えめに王妃部屋の扉を叩く。返事はないが、どう考えてもこの部屋にいるとしか考えられない。
ルドとスティラが顔を見合わせる。
「レズリー様。ルドとスティラです。陛下はいらっしゃいません」
「入れていただけますでしょうか」
沈黙。
「.......入っていいわ」
「.....失礼いたします」
「失礼いたします」
扉を控えめに開いて、顔だけで中を覗いてから二人は部屋に足を踏み入れる。緊急事態ではない限り、騎士は王妃部屋や王室に足を踏み入れることは禁じられているが、今はどう考えても緊急事態であろう。
レズリーは椅子に座って窓から町を眺めていた。いつ見ても美しい長い髪は、結い上げられてはいるものの、緩く結ばれているためかパラパラと肩に落ち始めている。それでも直す様子は見せず、こちらに振り返ることもせずに、レズリーはただじっと窓の外を眺めている。
いつのまにか部屋に来ていたシラが胸の前でギュッと手を握っており、ひたすら泣きそうな顔をして下を向いていた。レズリーが走り去って行った時に追いかけたのだろう。陛下が叩かれたというのにレズリーを追いかけたのは、本当にレズリーのことを好いているのだな、とルドは思った。
「...レズリー様、これからどうなさるおつもりで?」
「あ、ルドさんっ」
「今聞かないでどうするつもりなのだ、シラ」
「....っ、だ、だって、今は心の整理をするべきでは—」
「ティマに帰るわ」
バッとシラが顔をあげ、ルドとスティラが驚いて目を見開く。後ろの三人の反応を背中で感じながらも、レズリーは振り向かない。自分の言葉が三人に対してどれほどの衝撃かも分かっていながらも、振り向かない。
ああ、もう。
どうでもよくなってしまった。
「れ、レズリー様! 気分を害したのがわた、わたくしのせいなのでしたら、も、申し訳ありません! 本当に、本当に申し訳ありませんっ!」
必死にシラが頭を下げるが、レズリーは振り向かなかった。
「シラのせいじゃないわ。誰のせいでもないの。誰かを責めようと考えてるわけじゃないの。私が愚かだったのよ。...知り合ってたった二日間で結婚をする仲になろうと考えていたことが、間違っていたの。ファリスを愛していたのは事実だけれど、愛情だけではやっていけないでしょう?」
「そ、そんな! 陛下もちゃんとレズリー様を愛しております!」
レズリーが悲しそうに瞳を伏せた。
「そうだとしても、既に結婚をする存在がいたのに私と結婚をしようと考えていた彼に、今までと同じ様に愛情を注げるほど出来る女じゃないのよ。私は」
「....そんな....」
「間違っていたのよ、何もかもが。もう出会い方からして間違っていたわ。こうなるのは当たり前のこと。明日にはここを出るからね。ファリスには言わないで。というか、今の情報はこの部屋から出ない様に心がけてちょうだい。分かった?」
「....はい」
やはり泣きそうなシラの声に微笑んで、レズリーは振り向いて自分の騎士二人を見た。
その顔が、あまりにも穏やかで、
「貴方達もね。ファリスには絶対に言ってはだめよ。これは、私からの最初で最後の、本気の命令だから」
その様子が、あまりにも凛々しくて、
「.....貴方様の、仰せの通りに」
「...かしこまりました」
反論する言葉など、見つからなかった。
翌朝、隣の部屋のドアを開けて足を踏み入れると、もう何ヶ月も当たり前に置いてあった私物が、何一つ置いてなかった。ファリスはただ寂しそうに瞳を伏せてから椅子に腰を降ろした。
それから、同じ様に寂しそうな顔でドアの所に立っているシラに、小さく笑いかけたのだった。
きっともう、二度と巡り会うことはない、愛しい人の姿を思い浮かべて。
つ、ついに過去編が終わりましたー。
いやぁ、ここまで来ましたね。全八話?ですかね。で、構成されているファリスとレズリーの過去、いかがでしたでしょうか。
作者が文才に恵まれていないために、所々残念なことになっておりますが、そこは温かい目で見守ってくれればと....っ、願ってます....っ!
さて、ファリスとレズリーの過去を知ってクレアがどう動くのか楽しみです!
あれ!私が作者なのに!
ここまで読んでくれてありがとうございます。
(また次回遅れたら本当にごめんなさい。いっそのこともう存分に罵ってください。遅いふざけんなバカヤローと)