表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

第18話 出会い

過去の話となっております。

「レズリーーーっ!」



 自分を呼ぶ声が聞こえて、洗濯物をしていたレズリーは手を止めた。顔を上げて、薄紫に銀がかかっている長い髪を手で後ろに振り払う。それから声がした方へ視線を向けると、中から小太りの中年女性が長いスカートを掴みながら走りよって来る。ティマ大陸では珍しくない、薄紫に銀色がかかっている髪が左右に激しく揺れている。

 その光景に笑いを浮かべて、レズリーは立ち上がった。



「ちょっとエルーラさん。お昼作ってたんじゃないの?」



 エルーラと呼ばれた女性は息を切らしながら屈んで両手を膝に置いたが、それも少しの間だけであり、それからバッと顔を上げた。



「それ所じゃないよ! あんた、ベンゾラ大陸へ行くって本当かい!?」



 エルーラの言葉にレズリーの目が見開いた。

 ベンゾラへ行くという話は、エルーラには最後に話そうと思っていたのに。



「え、どこで聞いたの?」

「さっき買い物の帰り道でマーガレットが声をかけてきたんだよ! 知ってる様子なのはあの子だけじゃないようだし、なんで町の人は知ってるのにアタシは知らないんだい?」

「いや、エルーラさんには最後に話そうと思ってて....」

「普通は最初に話すだろう! 相変わらず変な子だねっ。洗濯物は置いときな! これからアタシとあんたで重要な話し合いをするんだから!」



 そう言ってから強引にレズリーの腕を掴むと、二人はズカズカと家の中へと入って行く。



 エルーラ・ベネットはレズリーの両親の親友であり、両親が亡くなってしまったすぐ後からずっと一緒に暮らしている。自分よりも三十以上も年上なのにも関わらず、レズリーは彼女のことを姉のように感じており、大切な友人のようにも感じていた。優しくもあるが、時には厳しく自分を接する所は母のように感じて、レズリーはこの上なくエルーラに感謝をしていた。


 ベンゾラ大陸、正確に言えばラキオス王国を訪ねると決めたのは三ヶ月ほど前である。ソストナ町で生まれ育ち、ソストナ以外の空気に触れた事がないレズリーは、学校や講義などでよく耳にする『ラキオス王国』のことが気になったのだった。

聞く分には、殆どベンゾラ大陸がこの世界を成り立たせていて、そのベンゾラ大陸の中心の国であるのがラキオス王国らしいのだ。自分よりも一つ年上の男性が王をやっているらしく、見事な働きっぷりだというのも聞いている。また、先代の王達は全員二十までには妃を迎えているらしいのに、彼は見向きもせずに一人で全ての政務をこなしているというのだ。


 自分達が住んでいるティマ大陸は非常に小さく、王がいたとしても殆ど象徴としているだけであり、真剣に政務に取りかかることは殆どない。あまりにも弱いので、周りの領土に侵入して国を大きくさせることも出来ず、殆どベンゾラ大陸の一部になっていた。

 レズリーはいくら小さくてもティマ大陸を愛しており、芯がとても強い大陸だというのも分かっているつもりだった。ベンゾラを実際に見たことはないため、ティマ大陸に来ることもせずに自分の国同様に扱ってくるベンゾラが一体どれだけの大陸なのかを見たかったのだ。

 それでもティマを、いや、ソストナ町を離れることはとても悲しいことであり、何よりもエルーラを一人で置いて行くのは後ろ髪を引かれる想いだった。

 だからこそ、どうしてもエルーラに告げるのに戸惑ってしまい、だとしたら最後に告げようと決めていたのだった。



 レズリーがそういうと、エルーラは一度酷く無防備な顔をしてから大きく笑い声を上げ始めた。

 その光景にレズリーが眉を潜める。



「ちょっと、笑わないでよっ。これでも一生懸命考えてたのよ!」

「わ、分かってる、分かってる分かってる。あっはっは...っ! そんな心配してたのかい、あっはっは!」

「.........」

「ご、ごめんごめん! そう睨むなって!」



 ムスッとした表情で睨みつけて来るレズリーの肩をポンポンと叩いてからエルーラはもう一度笑い声を上げた。それからしばらくしても落ち着かないのを見て、レズリーは椅子から腰を上げる。

 その動作にやっとエルーラの笑い声が落ち着いた。



「待ちなって! ごめんごめん、笑って悪かったよ。でもさ、レズリー。あんたはアタシの心配なんてしなくてもいいんだよ?」

「....でも私がいなくなったからエルーラさん一人じゃない。家事とかはどうするつもりなのよ」

「あのねぇ、あんたが来るまでどうやって家事こなしてたと思ってんのさ? 家政婦でも雇ってたと思ってんのかい? こう見えても体力だけは有り余ってるんだよ。あんたがいなくたってどーってことないさ」

「....でも—」



「いいかい?」



 エルーラの言葉を聞いても渋るレズリーの言葉を遮って、エルーラは彼女の後ろに回ると両肩に手を乗せた。



「アタシはね、今までずーーーっと一人で暮らしてたもんだから、誰かと一緒に暮らすのには慣れてなくてね。だからあんたが来た時は不謹慎にも結構嬉しかったんだよ。だけどさ、アタシがあんたの世話を見てるからとか、恩があるからとか、そういうくっだらない理由であんたの自由を奪って、こんな所に縛り付けることはしたくないんだよ。ベンゾラにどうしても行きたいのなら行けば良いさ。そんで嫌になったらここに戻ってくればいいし、ベンゾラに住みたかったらそこに住めば良い。アタシゃ止めないよ。アタシとあんたは家族だからこそ、離れてたって平気さ。な? レズリー」



 話している途中で肩が震えだしたレズリーに優しく微笑みかけてから彼女の顔を覗き込んだ。下唇を噛みながら静かに涙を流している彼女の額に口付けを落とすと、エルーラは彼女を優しく抱き締めた。



「行きたい所に、どこへでもお行き、レズリー。アタシは、いつでもここにいるから」

「.......っ、...ひっく...」



 一度しゃくりあげてから頷くレズリーを感じて、エルーラは微笑んだ。













「陛下、出かけるのなら誰かを連れて行った方がよいのでは?」



 入り口の目の前まで来た瞬間に後ろから響いて来た低い声に、ファリスは心中溜息をついてから振り向いた。

 自分の第一騎士であるディナルが木で出来ている剣を何本か持ちながらこちらを見ている。彼は将来ラキオス城を守る者に剣術の稽古をしている。といってもやはりファリスの第一騎士であるため、彼が許す時にだけであるが。

 今は稽古をしている中庭へ行く途中なのだろう。


 今度は音を出して溜息をつくと、ファリスはディナルに言い放った。



「じゃあお前がくればいいだろ」



 瞬時にディナルの眉が寄る。



「.....稽古があるんですが」

「俺が許せば稽古をするんだろう。今は許していない。出かける。今すぐついてこないんだったら一人で行く」

「どこのわがまま子供ですか」

「................」



 言った瞬間にファリスの絶対零度の視線がこちらを見たため、ディナルは溜息をつくと何本もの剣を近くの壁に立てかけた。



「分かりましたよ。行けばいいんでしょう行けば」

「無理して来なくてもいいぞ」

「行きますよ」



 それからすぐ側の部屋に入り、自分の本物の剣を取り出して来る。



 ....町へ出かけるくらいでこれだ。

 これだから王は面倒なのだ。



 町へ入った瞬間に人々の注目が自分に向いたのを見て、ファリスは眉を寄せた。



「....慣れないな」

「王の座についてからしばらく経つんですから慣れてください」

「そんなことを言われてもな—」



「ないって言ってるでしょーが!」



 ファリスが話をしている途中で、路地裏から強気な女性の声が聞こえた。思わず二人してそちらに視線をやると、深い赤のローブを羽織って、四、五人の男性に囲まれている女性がいた。こちらには背中を向けているが、フードはかぶっていないので、薄紫に銀色がかかっている長い髪なのが伺える。

 その髪の色を見てファリスは少し目を見開いた。


 幼い頃の教育係が一度だけ自分に言ったことがあった。確かティマ大陸の話をしており、挫折した時に聞いたのだ。

 ティマ大陸のある地域では、たとえ家族でなくともそこの地域や、その周りに住んでいる人々は薄紫に銀色がかかっている髪の色をしていることが多いというのだ。

 ラキオス王国、それ以前にベンゾラ大陸であの色の髪を持っている人は皆無に等しい。いるとしたらティマ大陸の住人しかいないのだった。



「陛下?」



 ファリスが路地裏の女性を見つめているのを見て、ディナルが声をかけた。



「彼女はティマ大陸の住人だな」



 唐突なファリスの言葉にディナルは眉を上げた。



「....なぜそうお思いに?」

「ティマ大陸の一部に住んでいる人々はあの色の髪を持っていると、昔教育係に聞いたことがある」

「....それってもう十年以上前のことですよね」

「生まれた頃からの事柄を全て覚えているんだ。俺の記憶力はいいとかの次元じゃなくて、何かを忘れることが出来ないんだ」

「前々から思っていたのですが、その能力って面倒くさくなりませんか?」

「なる」

「........」



 きっぱりと言い放つファリスを呆れたように見つめてから、ディナルは女性に視線を移した。



「ところで、助けてあげないんですか?」

「それが俺の役目だとか言うんだろ」

「お分かりでしたらどうぞ役目を果たしてください」



 ディナルの言葉にファリスは溜息をついてから、女性と男性五人に近寄った。

 彼らはファリスが近づいて来ていることに気がつかず、女性の肩を掴むと勢い良く背中を壁に押し付けた。女性の顔があまりの痛さに歪んだ。



「どう見てもどっかの金持ちなお嬢様だろ。いいから出せよ。俺達も女相手に手をあげたいわけじゃねぇんだよ」

「だからないっていってるでしょ! 何回言えば分かんのよこの分からず屋!」

「んだと!?」

「分からず屋って言ったのよ! ここまでされてら普通金なんて出すわよ!! 大体金持ちのお嬢様なんて金には無頓着なんだからあげるに決まってるでしょーが!」

「それは失礼だろ!」

「あんたどっちの味方よ!」



 女性と男性の訳の分からない言い争いにファリスは混乱したように眉を寄せた。それから女性に視線を移す。



 目を奪われた。



 形のいい眉はキツく寄せられており、美しいグレーの瞳は男を精一杯睨みつけていた。美しい髪は壁に押し付けられた勢いで乱れているが、それでも彼女の美しさを際立たせている。

 ファリスは、ここまで美しい女性を見た事はないと思った。


 思わず惚けて彼女を見ていると、やっとのことで彼女がこちらに気づき、今度はファリスが睨みつけられた。

 立場上睨みつけられたことはなく、思わず後ろを振り返ってしまった。



「あんたよあんたっ! 見てるんだったら助けてよね!」

「.......」



 女性の言葉に男達が振り返り、そこに自分達の王が立っているのを見て、瞬時に血の気が顔から引いた。女性を掴んでいた男は瞬時に彼女を離すと、地面にひれ伏せた。他の四人も同じような動作を取る。

 ただ一人取らなかったのは女性だった。彼女は困惑した表情で男達とファリスを交互に見つめているだけだ。


その姿に、ファリスは思わず口角を上げた。



「ディナル」

「なんでしょうか」

「王として認識されていないというのも、面白いな」



 そういうのと同時に女性の目は見開き、ディナルは溜息をついた。



「おおおおおおおうううう!?」

「貴方は困った方ですね」



 女性が叫ぶのとディナルが言い放つのは同時だった。










 これが、ファリスとレズリーの出会いだった。



多分しばらく過去の話になるかと思いますので、ご了承くださいorz

図々しいですが、感想・評価をお待ちしております><


ここまで読んでくれてありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ