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第17話 ファリスとレズリー

 目の前の紙の束をただただ睨みつけていると、隣に座っているジェシカが苦笑を浮かべた。珍しく部屋に入って来ているルドとスティラは困惑した表情をしている。


 手を上げて紙を掴もうとして、躊躇してから手を降ろした。それから溜息をつく。

 もう、さっきから何十回もこの行動を繰り返している。



「クレア様? 無理して見なくてもいいんですのよ?」

「....そうなんだけど、さ...」



 さすがに、気になるんだよね。

 いや、私の立場で気にならない女なんていないと思うんだけどさ。


 .....見てしまって、いいのだろうか。










 遡ること三十分前。



「れずりー、まくらいど?」

「はい」

「え、誰それ」



 サマヘルカが苦虫を噛み潰したような顔で答えると、私はすかさず疑問をぶつけた。だけれどもそれ以上は何も言わないので、私は眉を寄せると後ろに振り向いた。

 驚くことにルドもスティラも、ジェシカまでもがやりにくそうに下を向いている。ルドに関してはあまりにもきつく眉を寄せてるから跡が残ってしまわないかと心配するほどだった。


 訴えるような視線で三人を見つめていても、誰も何も言わない。


 ......何なのよ。



「何が起こったのかを教えてくれるんだったら、説明も最後までしてよっ」



 苛立ったような口調でサマヘルカに言うと、彼は一度口を開いたが、一瞬躊躇ってから再び閉じてしまった。

 ああ、もう! なんだっていうのよ!!

 眉を寄せたまま彼を睨みつけて、執務室に入ろうとすると、あろうことにサマヘルカが腕を掴んで来た。


 ....王妃の座について二年しか経っていない私でも、国王や王妃に気安く触ってはいけないことは分かっている。その証拠に、私が王妃になってから気安く触ってくるのはファリスとレイラさんだけだ。レイラさんだって一度『失礼しますね♪』とか言ってから触って来るし。

 時々ルドとかスティラとかも断りなしで腕を掴むこととかあるけど、それは私が危険にさらされた時とか、危険なものから遠ざけるためとか、やむを得ない時のみ。


 特に危険でもないのに、私を止めるためだけに腕を掴む事はすごく無礼だということを知っている。


 驚いて目を見開いてサマヘルカを見ると、彼は私と同じくらい驚いた表情をしてからパッと腕を放した。



「も、申し訳ありません、王妃様! 本当に、いや、普段ならこんなことはしないんですが....!」

「...いや、別に私はいいんだけど...」



 私は、別にいいんだけど。

 そう呟いてからドアを見ると、その視線を追ってサマヘルカが恐る恐る視線を動かした。


 ファリスがものすごい形相で彼を睨みつけている。



「へい、かっ...っ!」

「今、クレアの腕を、掴んだな?」

「と、咄嗟に! 誰も入ってはいけないと思っていましたので!」

「....腕を掴んだな?」

「も、申し訳ありません!!」



 ひたすらペコペコと頭を下げるサマヘルカを見て、申し訳なくなって彼の肩に手を乗せた。



「サマヘルカ。顔を上げて平気よ。私は別に構わないから」

「いえ、そんな...っ!」

「............」



 言って笑いかけると、隣にいるファリスが睨みつけてきたのが分かった。

 構うもんか。



「......サマヘルカ、手紙のことは説明したか」



 てっきり怒られるのかと思ったから驚いてファリスを見ると、険しい顔つきでサマヘルカに問いかけた。サマヘルカも絶対に怒られると思っていたのか、一度マヌケな顔をしてから口を開いた。



「あ、その、差出人だけですが」

「.....クレアに、レズリーのことを説明しておいてくれ」



 驚くサマヘルカを放っておいてそれだけ言い残すと、ファリスは再び執務室に籠ってしまった。



 .......ファリスが、違う女の人を呼び捨てにするのは聞いた事があるけれど、『レズリー』と言った時のファリスの口調は、なんか違った。何かを大切にしているような、強く言い過ぎたら壊れてしまうのではないかと恐れているような、そういう言い方だった。


 なんとなく胸が痛んだけれど、決してそれを嫉妬と認めることはせずに無言にサマヘルカについていった。



「陛下が仰るのなら、王妃様にも説明いたします」

「....お願いするわ」

「....レズリー・マクライド様は、今から六年前にベンゾラを尋ねて来た女性でして、とある事情で陛下と非常に親しくなった女性でございます」

「...........」



 無言になった私をチラリと見てから、サマヘルカは一つの部屋に入った。部屋の前で立ち止まって待つ私を、ルド、スティラ、ジェシカの三人が心配そうに見ている。

 紙を探し回す音が少しだけ響いてから、サマヘルカは一つの紙の束を持ちながら出て来た。


 それを無言に差し出して来る。



「....受け取ってください、王妃様。ここにレズリー様の全てが記されております。王妃様は、彼女が一体誰だったのかを知る権利があります」

「...........」

「無理に、とは言いません」

「..........」



 どうすれば、いいんだろう。

 受け取った方がいいのかな。

 .....でも、受け取ったら、ここに書いてあることを知ったら....後悔をする気がする。



「...クレア様...」



 後ろからジェシカが心配そうに呼ぶ声がした。ルドとスティラが心配そうに見ていて、サマヘルカが戸惑っていることも分かる。

 私は一度息を吸ってから紙の束を受け取った。


 サマヘルカが弱々しく笑った。












 そして現在に至る。

 ...受け取ったのはいいものの、やっぱり開けることに戸惑ってしまっている。部屋に戻って来て紙を机に置いて、開けようとしたんだけど....

 いくら王妃だからって、人のプライバシーを勝手に侵害するのはよくないと思う。思う、んだけど....


 震えだした指で一枚目の紙をめくる。


 隣でジェシカが心配そうに見ているのが分かる。ルドとスティラも心配そうに見ている。

 そんな三人の心配を感じ取りながらも、資料に目を通し始めた。



『レズリー・ルーストーラ。現在レズリー・マクライド。ティマ大陸、ソストナ町生まれ。現在の時点で二十六歳。十六歳の頃に母親が病により他界。二年後に父親が同様の病で他界。両親他界後に名をレズリー・マクライドに変更。両親共に兄妹なし。母親寄りの祖父と祖母は十二年前に他界、父親寄りの祖母は五年前に他界、祖父は病により殆ど動けない状態。二十の時に一度ベンゾラを訪れ、ラキオス王国国王ファリス・アステルカと肉体関係になる』



 そこまで読んで私は紙を机に振り落とした。

 バチンッという大きな音にジェシカの肩がビクっと跳ねた。後ろでルドとスティラがやりにくそうに足下を動かすのが聞こえる。



「..........なに、これ」

「クレアさ—」

「これは何!?」



 呼びかけられたジェシカの言葉を遮る様に叫び声を上げた。知らない間に涙が頬を伝っている。

 私の叫び声に驚いて目を見開くジェシカを睨みつけた。誰でも良かった。誰でもいいから誰かを責めたかった。



 肉体関係ってなに。

 なんなのよ。


 それは、それはつまり、






 _________....ファリスと愛し合ってたってこと? 

 





「クレア様!」



 ジェシカの声と共に肩が掴まれて、はじめて椅子から落ちていることに気づいた。スティラが私を受け止めていて、ルドが水を私に差し出して来た。

 震える手でそれを受け取ってから飲み込んだけど何も味がしない。いや、水だから味はないんだけど、多分、今の状態の私だったら何を飲んでも味がしなかったと思う。



 .....ショックだった。

 ファリスに、私以外の女がいたことが。たとえ過去のことだとしても、それでも。



「...クレア様」

「...な..に?」



 小さく声をかけてくるルドに震える声で答えると、彼は眉を寄せたまま口を開いた。







「お話ししましょう。六年前の、陛下と、レズリー様のことを」
















感想・評価などを貰うと創作意欲がむくむくと湧くので、どうかよろしくお願いします><

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