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第16話 ティマ大陸

なんか、もう.....


ごめんなさいっっ!


「シヨン様」



 部屋に女性の声が響いた。

 入り口に向かうように置いてある机に一人の男性が向かっている。薄紫に銀色がかかっている美しい髪で、俯いているため表情などが見えないが非常に形のいい顔をしている。両側には本棚が二つずつ横に並んでおり、女性が立っている入り口の両側にも本棚が三つずつ横に並んでいる。殆どが何かの資料のように見えるが、男性の右側の本棚は私物で突き詰められていた。



「ん?」



 シヨンと呼ばれた男性が顔を上げずに答えると、女性はそれを入ってもいい合図だと取ったのか、彼の方に足を運んだ。

 彼女もまた薄紫に銀色がかかっている髪で、肩の所で短めに揃えられている。瞳の色は美しいグレー。肌は遠くから見ても分かるくらいに素晴らしい質で、見ているだけでうっとりとしてしまうほどの美貌だった。


 彼女はそのまま手に持っていた何枚もの資料をドサッと遠慮なく男性の机の上に置くと、彼はチラリと顔を上げた。

 そこで初めて彼の顔が見えた。深い青の瞳で紙を見ていて、完璧な位置と形である鼻が美しい顔の真ん中にある。口は引き締まっていて、素晴らしく形のいい唇をしていてる。一瞬見ただけで思わず釘付けになってしまうほどに完璧な顔をしている。


 シヨンははぁ、と溜息をつくと紙に手を伸ばした。



「その前にシヨン様」



 一番上に乗っている紙を手に持った瞬間に女性、レズリーがバンッと勢い良く掌を振り落とした。驚いて思わずシヨンが紙を手放す。それからレズリーに視線を向けると、彼女は咎めるように美しいグレーの瞳で睨みつけて来た。



「なんだよー。今回はちゃんと仕事やるってー」



 子供のように口を尖らせて言うシヨンにレズリーは溜息をついた。



「シヨン様の仕事量に対して文句を言おうとしているわけじゃありませんわ。それに対しては大満足です。私が聞きたいのは、これのことです」



 ピラッとどこからもなくレズリーが一枚の紙を出すと、それを机に突きつけた。

 紙に書いてある文字を見て、シヨンの眉がピクリと上がる。


 紙には『ティマ・ベンゾラ大陸合併作戦』と書いてある。


 シヨンが何かを言う前にレズリーが口を開いた。



わたくしは一切何も聞いていませんが、それはどうしてです?」

「.....いや、まだ準備中で—」

「準備中だろーがまだ貴方の頭の中にあっただろーが私に教えるべきでは?」



 口調が妙に乱暴になったレズリーの言葉を聞いてシヨンの口がひくっと上がった。

 レズリーが苛立って来ると口調が乱暴になるのは誰だって知っている。落ち着いている時と怒っている時の表情が殆ど変わらないため、初対面の人では彼女の気持ちを一切見通すことができないほどだ。それが彼女の長所でもあり、同時に冷酷な人間だと思わされるために、短所でもある。


 レズリーの視線が一切揺るがないまま真っ直ぐと自分の瞳を見つめてくるので、降参するようにシヨンが両手を上げた。



「で?」

「いや、だから見た通りだって」



 レズリーの目が細められる。



「...ベンゾラ大陸と合併するおつもりですか」

「そう書いてあるだろ?」

「認めません」

「レズリー」



 いい加減にしてくれ、というように彼女の名を呼ぶとレズリーは眉を寄せ、紙を押さえていない方の手は強く握りしめられていた。


 レズリー・マクライドはシヨンが知っている誰よりも自分の国を愛している女性だ。

 彼女はティマ大陸のソストナ町で生まれ、二十の時に一度ベンゾラ大陸にいったことがあるが、一年も経つとそこが耐えられなくなりソストナに帰って来てしまった。五年前、仕事でソストナに行った時に、酒場で働いていた時の彼女の働きっぷりにシヨンは一目惚れをした。そこから少なくとも馬車で二日はかかる大きな町のヒンリスに連れて来て、自分の秘書にしてからも彼女は休みがある度にソストナ町に帰るのだった。


 それほどに故郷を愛し、ティマ大陸を愛している彼女に取って、合併というもの酷なことであった。

 何よりもこの世界を成り立たせているベンゾラ大陸、いや、ファリス・アステルカが支配している大陸の一部になってしまうことは、彼女に取っては非常に悲しくて、悔しいことだった。五年間も彼女を見ていると、心底ベンゾラとファリス国王を嫌っていることが分かる。



「例え一人取り残されたとしても、私は一人で戦います」

「何言ってんだよ。ここ十年間はベンゾラに支配されているようなもんだろ?」

「でもまだベンゾラの一部にはなっていないでしょう」



 食い下がるレズリーにシヨンが溜息をついた。



「レズリー、いい加減にしてくれ」

「貴方は私のようにこの国を愛していないからそういうことが言えるんだわっ」



 充分に言葉に怒気を含めてから、レズリーは踵を返して部屋から出て行った。

 一瞬呼び止めようとしてからシヨンは頭を横に振った。たとえあそこで呼び止めたとしてもかける言葉はない。


『私のようにこの国を愛していない』


 レズリーの言葉が頭の中に残り、シヨンは目を閉じた。



「....きっびしーなぁ...」










「クレア様! いい加減にしてください!」



 ジェシカの言葉にはっと目が冷めた。

 そうだ。もうハシェンドからは帰って来たんだっけ。っていうかまだ帰って来て二日しか経ってないのにいきなりジェシカの授業はキツイって。



 一週間ほど前に、私とファリスは一言も口を聞かないままルノアードに別れを告げて、ハシェンドを後にした。ウルッシアとロースディバには合併話が回ったばっかりだから少し混乱していて、落ち着くまでには非常に時間がかかりそうで私達には何もできないらしいので帰って来てしまった。

 ラキオスへの帰り道で、馬車に乗っている間も、一緒に馬に乗っている間も一言も喋っていなかったから周りの人達が居心地悪かったのは分かっていた。それでもなんとなく口を聞く気にはなれなかった。

ファリスも同じだったのだろう、少しピキピキしていたのは馬を見ていれば分かることだった。


 はぁ、と溜息をつくと、紙に何かを書き込んでいたジェシカが顔を上げた。

 そういえば、私の部屋に無断で入れるのってファリスとジェシカと侍女達だけだよなー。いや、無断で入るのはファリスだけでジェシカや侍女達はちゃんと私が部屋に到着するまでは待っているんだけど。



「クレア様、何かお悩みでもあるんですか? ハシェンドからお帰りになってからいつも溜息をついているような気が....」

「え、うそ。そんなに溜息ついてる?」

「私が見ている限りでは....」



 苦笑を浮かべるジェシカの言葉に、はじめて私が周囲に分かるほどに悩んでいる態度だったのが分かった。

 いや、悩みというか、どうやったらファリスと再び話せるようになるかなぁ、って悩んでただけで。


 ........................。


 悩みだな。



「そんな大きな悩みじゃないんだけどさぁ....」

「陛下に関することですか?」



 ピシャリと言い当てて来るジェシカの言葉にうっと顔が歪むと、ジェシカはクスクスと可愛らしい笑い声を上げた。ドア越しに聞いているスティラがその声に微笑を浮かべたに違いない。

 ....そういえばどうして私の部屋って防音じゃないんだろう? これでも女なんだからプライバシーの問題とかあるじゃない? いや、別に防音にしないといけないほどに何かをするわけじゃないんだけどさ。


 ああ違う違う。脱線してる。そんなことはどうでもいいんだって。



「いや、まあ、えと....うん」



 ジェシカの瞳がじーっとこちらを見るので小声で言うとジェシカがにっこりと笑った。



「そうだと思いました。他言はしませんので存分に相談してくださいな♪」



 ....え、ちょ、待って。何この流れ。

 今って講義中だよね。



「あの、ジェシカ? その、今って講義中だよね? なんで恋愛相談に乗ろうとしてんの?」

「クレア様も帰って来たばかりですから少しくらいは休憩を取りましょう」



 出たよ。

 自分に取って都合のいい時だけ休憩にするんだからもー。

 眉を寄せてじとーっと見てても、ジェシカはニコニコ顔を崩さない。さぁなんでもぶつけなさい、って言ってるような顔だ。


 しばらくしても溜息しか漏らさない私を見て、ジェシカはしびれを切らしたのか、口を開いた。



「そういえばお帰りになってからちっとも陛下と話している所をみたことがないんですが、喧嘩でもしたんですか?」

「.....いや、まあ、うん。そんな所かな」

「なるほどー」

「何がよ」

「クレア様がそれだか悩むということはいつもの喧嘩ではないということですよね」

「まあ、そういうことになるのかな」

「なるほどなるほどー」

「だから何がよ」



 そんな『なるほど』連発されてもこっちとしてはちっとも解決策じゃないんだけど。



「あっ! クレア様ってもしかして、陛下への愛を自覚したんですか!?」

「.....そんなサラリと愛とか言わないでくれる? 聞いてるこっちが照れるんだけど」

「そうだと思いましたー。いやー、長い道のりでしたねー」



 ほんとこの子って私と話してる時ってくだけた口調になるよね。いつからこんな口調になったのよ。

 ファリスに対してはバカ丁寧な話し方なのに。


 じゃなくて。



「ちょ、長い道のりってどういう意味よ」

「だってクレア様ってずっと陛下を想ってらっしゃったのにちっとも自覚しないんですもの」

「...あれ、そんなに明白だった?」

「すごく態度に出てるんですがクレア様がちっとも自覚なさらないのでもどかしいったらありませんでしたよ!」

「.........」



 そんなに分かりやすかったんだ。

 ってゆーか私自身が自覚してなかったんだから分かりやすいも何も、私からしたら何かしてるつもりじゃなかったんだけどな。

 ......私って結構城の人に見られてるんだなぁ。



「それで愛を自覚した後に喧嘩してしまったんですね?」

「だから愛、愛って連呼しないでよ。恥ずかしいってば」

「お二人が喧嘩するのは珍しいことじゃないんですが、今回は少し雰囲気が違うから心配していたんですよ」

「だからね—」



「へいかっっ!!!」



 廊下から響いたサマヘルカの大きな声に私は途中で言葉を切って、驚いて二人して顔を上げた。

 そのまま慌てて私の扉の部屋を開けて廊下の方を見ると、丁度ファリスを追ってサマヘルカが角を曲がる所だった。私とジェシカは目を合わせてからルドとスティラに視線をやると、二人が困惑した表情で見返して来た。



「何があったの?」



 問いかけるとスティラが頭を横に振ってから口を開いた。



「分かりません。いきなり陛下が部屋を飛び出したと思うと、サマヘルカ様が続いただけですので....」

「変ね」

「はい」

「様子見てくるわよ。ついてきて」

「あ、はい」



 私はあまり命令しないからなのか、一瞬私の命令口調に驚いてからルドとスティラが歩き始めた私の後を慌ててついて来た。少し戸惑ってからジェシカも控えめに後ろにつくのが分かった。

 それを見て、スティラが少しだけ歩くスピードを遅くする。

 .....まったく。私とジェシカが同時に危険にさらされた時はどうするのやら。


 角を曲がるのと同時に、サマヘルカが執務室から飛び出して来た。



「サマヘルカ!」



 呼びかけると彼は驚いて振り向いて、私の姿を見つけると一度だけ戸惑った。



「何が起こっているの?」



 彼が何かを言う前に問いかけると、一度チラリと執務室を見つめてから小声で話し始めた。



「....手紙が、届きまして」

「手紙?」

「はい。ティマ大陸から」



 『ティマ大陸』と聞いた瞬間に思わず目が見開いて、私はファリスがいる執務室を見た。

 宣戦布告の手紙とかなのかな。宣戦布告すれば戦争になるのかよくわかんないけど。とゆーかティマ大陸ってすごく弱いからベンゾラには敵うわけないと思ってたんだけど。



「入っても良い?」

「だ、だめです!」



 言いながら扉のノブを掴むのと同時にサマヘルカが叫んで、困惑した表情で彼を見た。



「どうしてよ?」

「...入っては、なりません」

「だからどうして?」

「....だから、その....王妃様はご存知ないと、おもうのですが....」



 言葉を濁すサマヘルカをますます困惑した顔で見つめる。



「....手紙は、ティマ大陸の首相であるシヨン・リグリー様の秘書、レズリー・マクライド様からだからでございます」



 後ろで、私の騎士二人とジェシカが鋭く息を吸う音が聞こえて、ただごとではないと分かった。


今回は少し長めでした。


もうほんと最近謝ってばっかですよねorz

本当にすみませんでした><


ここまで読んでくれてありがとうございます><

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