第14話 安心
更新が遅れてすみません(汗
「お前はバカなのか」
いや、そんな眉を潜めていうことでもないじゃん。別に。
「バカじゃないよ。普通でしょ?」
「自分を誘拐して、命の危険までせまったというのに、お前はウルッシアを責めないのか?」
「ファリスだって理由を聞いたでしょ? 私を誘拐したくらいでベンゾラから切り離すなんて可哀想よ」
「お前を誘拐した『くらい』で? 自分の地位を分かってて、そんなことを言っているのか?」
「当然よ」
ふん、という私を見てファリスは大きな溜息をついた。
だって、本当にそう思う。自分達の国の最初の王の墓が破壊されそうだったから対抗しただけなのに、そんなのでベンゾラから切り離すのは酷だと思う。確かに私を誘拐して、脅しもしたけど、あれは全て自分達の最初の王の墓を破壊されないためだったのだ。
それなら、罰を与えるだけでいいじゃないかと思う。
見ての通りファリスは私の言い分に納得はできずにいて、何がなんでもベンゾラから切り離したがっている。
私は自分の置かれている立場はちゃんと分かってるし、確かに王妃を誘拐したのだから切り離すというファリスの意見に筋が通っていないと言っているわけではないけれど...ファリスは多分、王妃云々よりも自分の妻を誘拐したからという理由で半分判断してるような気がするし。
「クレア、この問題でお前の見方は俺とは違うことは分かっている。だが、俺の妻で、俺が気に入らないからという理由でウルッシアを切り離そうとしているわけではない」
「え?」
私の考えていることを分かっていたかの様にいうファリスを、私は驚いて見つめた。
違うの?
「じゃあ、やっぱり王妃を誘拐したという罪が重いから?」
「....お前は王妃を誘拐するという行為が、どれだけ重罪なのか分かっているのか?」
「そりゃ、重いだろうなとは思うけど」
「やっぱりお前は自分の立場を分かっていない」
「分かってるよ!」
「なら」
力強く言われて、ビクっと体が跳ねた。
ファリスは眉間にしわを寄せたまま立ち上がった。
「反論するな」
私達はウルッシアから再びハシェンドに戻って来て、今はハシェンド城にいる。
ルノアード首相は用事があるから出かけていて、今この城にいるのは私達だけだ。今はもう遅くなってしまったからか、戦争についての会議は明日にすることになった。ウルッシアに対しての罰も各国の首相の意見も必要だし、ウルッシアは今は混乱しているからだ。
どうやらロースディバもウルッシアの危機を嗅ぎ付けて、更にファリスから連絡があったことでしばらくは待機するだろうとのこと。
.....さっき、怒らせちゃったかな。
確かに私は、まだ王妃の座について二年しか経っていないのに、ファリスはもう十年も王としてこの国を統一している。当然、政務については、私は口出しできるような立場じゃない。
やっぱり、私は何も分かってないのかな。
コンコンと扉が叩かれて、どうぞと小さく呟くと、控えめに扉が開いた。顔を出したのは、意外にもディナルだった。
「ディナル....」
「陛下と痴話喧嘩をして、落ち込んでいるんじゃないかと思いまして」
ディナルの言葉に、私は下を向いた。
っていうか、どうしてルド達じゃなくてディナルが来るの?
「.....ファリス、怒ってる?」
私の言葉にディナルは微笑んだ。あまり笑う人じゃないから少し驚いてしまった。
「怒っていませんよ。陛下がああなのは、王妃様を心配してのことです」
「....分かっては、いるんだけど...」
「陛下は過保護ですからね。王妃様が危険な目にあうかもしれないというのに、当の本人はちっとも気にしていないというような言い方をするからああいうふうに強気な言い方になってしまったのでしょう」
「気にしてないわけじゃないのよ?」
「分かっていますよ。陛下もちゃんと。あの方はよく王妃様のことを見ていますから。後で、話しにいってあげてください」
「うん...」
ディナルは頷くと、失礼しましたとだけ言って部屋から出て行く。
ずっとファリスの側にいることもあって、よくファリスのこと分かってるなぁ、って思わずにはいられない。そりゃ側近だし、ファリスが王子だった頃から側にいるんだからそれはそうなんだろうけど、まるでファリスを代弁しているように聞こえることが、たまにある。
彼の言う通り、ファリスに話しにいこう。
扉を開けると、両脇に立っていたルドとスティラが驚いて私を見た。ファリスの部屋に行って来ると告げると、二人とも優しく微笑んで見送ってくれた。
私の周りって、優しい人がたくさんいて心強いなぁ...
ファリスの部屋の前まで来ると、らしくもなく緊張をしてしまった。大広間で言い合いをして、夕飯も私は部屋で食べたから、かれ これ三時間くらいは口を聞いていない。
.....せっかく側にいるのに、こんな嫌だな。だからここまで来てるんだけど。
覚悟を決めて扉を開けようと腕を上げたら、それと同時に目の前にあった扉が開いた。触ったつもりはないのに勝手に開いたのかと思ったら、ファリスが私と同じくらい驚いた顔をして立っている。
「クレア...」
「ファ、りす」
二人の間に沈黙が流れた。
なんでこんなに気まずい?
「え、と、何か用?」
「こっちの台詞だ」
「だよねー....」
やりにくそうに顔を逸らすと、ファリスが溜息をつくのが聞こえた。
「さっきは強い言い方をして悪かったと、謝りに行こうと思っていたんだが」
「あ、私も、私がしっかりしてないから、ああなっちゃって、謝ろうと、思ってて」
「.......」
同じことを考えていたのか。それが分かって私達はクスリと笑い合った。するとファリスは横にどいて私に手招きをする。
....入れってこと?
「え、でも、もう寝るよ?」
「だから?」
「.......」
だめだ。ここで言い合っても無駄だ。ここは素直にいうことを聞こう。
渋々頷いてファリスの部屋に入る。扉を閉めた瞬間にいきなり壁に押し付けられたと思うと、ファリスが貪る様に私にキスをしてきた。驚きはしたものの、しばらく会っていなかったから許せるかなと思って、なすがままにされる。
珍しく抵抗しない私を、ファリスは一瞬唇を離して、少し驚いて私を見ていた。
「...抵抗しないのか?」
「...しばらく、離れてたしね」
小さく微笑むと、ファリスも一瞬笑って、再び激しくキスをされる。意識がもうろうとしてきて、腰に力が入らなくなる。ズッと落ちそうな所をファリスは容易く腕を回して支えると、背中にもう片方の手を回す。
私も必死に理性を保っていようと彼の首に腕を回した。
ますますキスが激しくなった。
ファリスのことが好きだと感じていなかった時と、感じている時と、こんなに違うんだな、って思った。
好きだと感じていなかった時は、何も、本当に何も感じてなかった。一生ここで、籠の中の鳥のように生きるんだから、って。半分諦めていた。それでも抵抗はしてたけど。
でも、好きだと分かってからは、幸せだと感じることができた。本当に、ファリスは私のことを大切にしてくれてるんだって思えたから。
やっとのことでファリスが唇を離してくれた時は、あまりにも意識がもうろうとしていて視界が揺らいでいた。そのまま壁に背を押し付けたまま地面に座り込んだ。ファリスは私をお姫様だっこすると、ふわりと自分のベッドの上に乗せる。
「....どさくさに、紛れて、何しようとしてんの、よ...」
思う様に言葉が出なくて、とぎれとぎれになってしまった。ファリスは私の言葉に微笑むと、一度だけ優しく口づけをした。
「どうやら俺の気持ちが通じたらしいからな。久しぶりだし、別にいいだろ?」
「...久しぶりって....今は、戦争について、やんないといけないんでしょ.....」
「平気だ」
こっちはあまりにも力が抜けていて、話していてやっとだっていうのに、ファリスは息一つ乱れていない。それどころか私を見つめる瞳はどこか欲望が感じられる。
「お願い、ファリス...マジで疲れてるから、寝かせて...」
「........分かった」
『分かった』の前に長い沈黙があったが、納得してくれたので私は微笑んだ。やっぱり私のことを大切にしてくれてるなぁ....
「だけど、俺の部屋で寝ろ」
「....何、それ。嫌なんだけど...」
「抵抗していいのか?」
「..........分かったわよ...」
私の言葉にファリスはもう一度微笑んで、最後に二回、短くキスを落とした。
更新していない間にたくさんの人に読んでもらえて幸せです(泣
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回は出来るだけ早く更新できるように頑張ります。