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深海光 第5話: 単語帳

 家に帰ると、ちょうど中学から帰ってきた妹のすすむと玄関で鉢合わせた。


「お兄ちゃんおかえり」

「……ただいま」


 進は今朝、僕を起こしにきたとき、本棚を見て意味深な顔をしていた。恐らく、実妹がいるのに妹モノのラノベを集めていることを気持ち悪がっていたのだと思うけど、今の進から特別嫌悪は感じられない。


「お兄ちゃん何かあった?」

「いや、何でもないんだけど……」


 少なくとも学校では、水萌さんと班を組むことになるというイベントはあった。

 とはいえ、妹に話すようなことでもないし、そもそも僕は困惑はしたものの、愚痴があるわけでもないし、口に出す理由がない。


「……あ、あのさ」

「……ん?」


 僕が靴を脱いで玄関に上がると、進は何やら緊張した面持ちで僕の前に立っていた。


「その……本棚のことなんだけど」


 進がそう言うと、僕は何も悪いことをしていないのに、悪戯がバレた子どもみたいに冷や汗をかいた。

 やっぱり、あのことを気にしていたのか。


「単語帳、捨てちゃったの?」


 ……どうやら、僕の想定とは違うことが気がかりだったらしい。


「……捨ててないよ。ただ、もうあんまり使わないから、押し入れに閉まった」

「……そうなんだ」


 多分、進は英語を楽しんで勉強しなくなった僕のことを心配している。


 一歳年下の進とは二年間一緒に中学に通っていた。

 中学に通っている間、進は僕のことを慕っていた。

 あの頃の僕は、好きなことにも得意なことにも真っ直ぐで、それでいてそれが成績に表れていたから。

 自分で言うのもどうかと思うけど、理想のお兄ちゃんだったのだと思う。


 でも、僕はあの時から何事にも消極的になっていった。

 変にプライドが高いせいで、失敗を恐れるようになった。


 妹の期待を裏切り続けるのは、ずっと心苦しい。

 それも、誰が言ったかも分からない声がきっかけでここまで落ちぶれたのだから、余計に。


「……あ、そういえば」


 進がパッと表情を切り替えて軽い声で言う。


「あのラノベってそういうことだったりする……?」


 …………そっちにも言及するんかい。

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