深海光 第4話: 結成
「…………楽しむ」
「そう、話の流れで夕暮さんのこと満足させなきゃ、みたいに思ってるかもしれないけどさ、そんな真面目に考えなくてもいいんだぜ?」
鈴之介が夕暮さんに「だろ?」と同意を促す。
彼女はもちろんと言わんばかりに胸の前でサムズアップした。
「私は確かに深海くんが面白いところに連れていってくれるんじゃないかって思って声かけたけど、意識しなくてもいいよ。面白いことっていうのはいつだって自然にやってくるものだからさ」
「自然に……」
「そう!楽しもうって思ってさえいれば、面白いことは自然とやってくるの!引き寄せの法則ってやつ?」
……僕にも、何かを楽しみたい気持ちはある。どんな物事に対しても、誰の目も気にせず、楽観的に取り組むことができたなら、きっと幸せだろう。
……僕は、また何かと理屈をこねて卑屈にならないだろうか。いや、きっとそうなる。
「みなさん、もう班は組まれましたか。もうそろそろ三分ですが、先に進んでもよろしいでしょうか」
風祭先生のアナウンスを聞いて、ふと辺りを見回してみると、もうすでにどこも班のメンバーが確定しているようだった。
それはつまり、鈴之介にも夕暮さんにも、もう他の選択肢はないということだ。
「だとよ。もう俺たちで組むしかなさそうだぜ」
「そうだよ!一緒に大阪をエンジョイしようよ!」
多分、これから僕が何を言っても特に意味はないだろう。
それに、僕らだけ不自然に時間を取っていたら悪目立ちしてしまう。
そうしたら、また僕の自尊心が傷つくだけじゃなく、彼らまで恥をかいてしまう。
とりあえず、今は、三人で班を組むしかないか……。
「……いいよ。三人で組もうか」
「よし。そうこなくっちゃ」
「やったー!楽しくなるよー!」
意気揚々とハイタッチを交わす二人を前に、僕は苦笑していた。
僕と班を組めることのどこにそんな喜びを覚えるのだろうか。
「その……先に言っておくけど、夕暮さんの勘が外れることになったらごめん」
「いいよいいよそんなー!私のわがままだからさ。あと、勘じゃなくてオモシロセンサーね!」
「それ大事?」
「大事だよ!なんでもないことにも名前を付けると面白いでしょ?」
「分からなくもないけどー……」
「あと、これからは夕暮さんじゃなくて水萌って呼んでね、お二人さん!」
「おう、いいぜ、水萌ちゃん」
「……」
「光くんもだよ〜」
「……水萌さん」
「うーん、さん付けか。まあ、それも面白いからいっか!」
一体彼女の面白いの基準は何なのだろうか。僕が水たまりを踏み歩く姿を見てそういう理屈を考えないようになったとは言ってけど。
「じゃあ、改めてよろしくね!光くん!鈴之介くん!」
いつのまにか普通に僕たちも名前呼びするようになっていた水萌さんは、星が瞬くようなウィンクを放つと、僕たちに力強いサムズアップを向けた。
今更だけど、決めポーズか何かなのだろうか。