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深海光 第7話: 一人ぼっち

「着いたー!」


 大阪駅でバスを降りた僕たちは、夕方までは基本自由散策なので、早速海遊館に移動していた。


 水族館に来るのは小学生ぶりかもしれない。

 中学生の頃は、夏休みも冬休みも、特に遠出をする機会がなかったし、なんなら家で勉強をしていることが多かった。

 そもそも、誰かと外で遊ぶということ自体がとても久しいように感じる。


 非現実感というか、浮遊感のようなものを感じながら、僕は落ち着かない気持ちでチケットブースに並んだ。


 大体十五分くらいして、僕たちの順番が間近に迫ってきたところで、僕はリュックから財布を取り出そうとしたのだけど——。


「あれ」


 僕は全身に冷や汗をかいた。

 ……財布がないかもしれない。


 どこかで落としたか……いや、学校から今までリュックから財布を取り出す機会はなかった。

 スリの可能性も低い。リュックのチャックを開けて手を奥底に突っ込んで盗もうとしていたら流石に気づくし、隣を歩いていた鈴之介と水萌さんも止めるだろう。

 となると、そもそも家に忘れてきていたか……。


「光、どうかしたか?」


 鈴之介がリュックの中を漁る僕の異変に気がついた。

 こういう時の鈴之介の声色は決まって優しい。

 きっとどんな問題が起きていたとしても寛容に受け止めてくれると思わせてくれる声だ。


「えっと……」


 僕は彼らに要らぬ心配や不安を煽りたくない。

 だけど、もうすぐ僕たちの順番が来てしまう。順番が来てその場で財布がないなんて言えばもっと迷惑になる。

 それなら、僕一人が抜けて、二人で先に水族館を回ってもらった方がいい。


「あ、ごめん。ちょっとどこかに財布落としたっぽいから、二人とも俺抜きで先に入っててもらえるかな」

「え、ほんとに? やばいじゃん」

「いやいや、当てはあるから。すぐに見つかるよ。十五分くらい遅れちゃうかもしれないけど、二人にはあとで追いつくからさ。大丈夫」


 僕は彼らが反応する間もなく、半ば強引に列を抜けた。

 僕を呼び止めるような声がしたけど、振り向かずにその場を後にした。


 二人に迷惑をかければ、それは罪悪感になって、今日一日中僕を蝕むだろう。

 罪悪感は、僕が感じる負の感情の中でもとりわけ取り払うのが難しい。

 直接的に他者が絡むことだから、水たまりを踏み歩くという個人的な行為で上書きできるものでもない。


 幸い、今時スマホ一つあれば電子マネーをチャージできる。財布がなくたって、チケット代は払える。

 チャージにはクレジットカードが必要で、僕は持ってないから電話で親を説得して番号やら何やら口頭で共有してもらう必要があるけど、遅れて追いつくというのは嘘にはならない。

 追いつきさえすれば、鈴之介と水萌さんが僕抜きで水族館を楽しむことに後ろめたさを感じていたとしても、それは後を引かない。


 僕は海遊館の側にある天保山マーケットプレイスという施設に、逃げ込むように入った。

 どうやら色んなショップやレストラン、アクティビティなどが揃う総合レジャー施設らしい。


 二階のフードコートや土産店の賑わいから人の視線を感じるのが怖くて、僕はあまり人がいない三階に移動した。

 自分で一人になったのに、制服を着た高校生が一人で歩いていると変な目で見られる——いや、正直に言えば一人ぼっちだと思われるのが恥ずかしい。


「はは……」


 僕は自分の拗れまくった性格に対して乾いた笑いが出た。


 とりあえず、人気のない非常階段付近で親に電話をかけよう。

 そう思った瞬間だった。


「光!」


 背後から僕を呼ぶ声がして、そこには少し息を切らしながら早歩きでこちらに向かってくる鈴之介と水萌さんの姿があった。

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