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船井鈴之介 第1話: 俺にできないこと

 大阪遠足出発前の朝。

 数クラスずつ校内の駐車場に集まって、バスに乗り込む準備をしていた。


 昨夜は雨が降ったが、今日は幸い雲一つない快晴で、残暑が洗い流されたような澄んだ空気は、まさしく秋晴れというに相応しい快さがあった。


 バスの座席は、俺と光が後方右側で隣の席同士。光は窓側だ。

 通路を挟んで左隣には水萌ちゃんもいる。

 彼女は早速何かオモシロセンサーで感じ取ったのか、今にも駆け出しそうにソワソワしている。


「水萌ちゃん、何か面白いことでもあった?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた!」


 このセリフ好きなんだろうな。

 俺はそういうノリ嫌いじゃないぜ。

 隣の光は「また言ってる……」ってため息吐いてるけどな。


「光くん! 君は今朝、靴下を履き替えていたね!」


 窓の外を眺めて物憂げにしていた光が、急に名前を呼ばれて咳き込んだ。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫……慣れてないだけ……」


 普段光を名前で呼ぶのは俺だけだから、驚いたんだろうな。先生やクラスメイトも基本は深海さんか深海くん呼びだし。


「そう? じゃあ、本題に戻るけど……光くん、君は今朝教室で靴下を履き替えていたね!」

「そーだけど……それがどうかした?」

「靴下を履き替えた、それはつまり、また水遊びをしていたということだよね!」

「……一応言っておくけど、水遊びではないよ」

「そうなの?」

「そーなんです」


 水萌ちゃんは「ふむ……」と一瞬考えてから、特に気にする必要もないと判断したのか、話を続けた。


「ともかく、光くんが水たまりで濡れていたのは事実。それはつまり、楽しみで仕方がなかったってことでしょ?」

「どうしてそーなる」

「だって、きっと何か面白いことが起こるぞって、待ちきれなくなって水たまりに足突っ込んじゃったんでしょ」

「別に、僕は面白いことが起こるなんて期待して水たまりを踏み歩いているわけじゃない」

「ふーん?」


 光は自分の悪癖について、すすんで人に語ろうとはしない。

 光は今も自分のことを大切に思っているから、他人から見て変なやつだとは思われたくないんだろう。

 水たまりを踏み歩く理由を聞かされている俺は、心を許してもらえている気がして嬉しいが。


 ただ、俺はずっと光に後ろめたさを感じている。

 俺は光に言うべきではない言葉を言ってしまったことがあるからだ。


 光は中学のあの英会話演習の時からしばらく、目に見えて落ち込んでいた。

 誰から見ても、何が理由でそうなったのかはっきりと分かるくらいに。

 だから、俺は心配になって光を励まそうとした。

 だが、その励まし方がよくなかった。

 俺は光に、「光が得意なのはあくまで受験英語だから仕方ない」と言ってしまったのだ。

 本当は、今まで習ってないことをできないのは当然だと、誰でも最初は失敗はするものだと、そんな簡単なことを伝えたかっただけだった。だが、俺は伝え方を間違った。

 俺の伝え方は励ましではなく、ただの否定だ。お前にはできないと決めつけているだけだ。

 俺は、光が酷く傷ついたような顔をしていたのを覚えている。

 これについて光から責められたりすることは一度もなかったが、俺は光が卑屈になってしまった一因は俺にあると思わずにはいられない。


「まぁ、なんでもいいよ! 今光くんの頭の上にはオモシロセンサーのアイコンが表示されてるから、きっとすぐに面白いことが起こるよ!」


 俺が思うに、水萌さんは光自身に対してあまり興味がない。

 光の先にある面白いことに出会うために、光を利用しているんだと思う。

 だけど、それで構わない。

 俺は誰でもいいから、光の心に土足で踏み入れられる人が欲しかった。

 俺には決してできないことができる人を探していた。

 光自身を見ていない、水萌さんなら、それができるんじゃないかと、俺は考えている。

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