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悪食ハンター、今日もダンジョンで死にかける  作者: 三誠堂スナオ
第1章 最底辺から始まる悪食譚
14/14

14話 Fランクハンター、ギルドはじめました

 実に、数日ぶりの快晴だった。

 大学の夏季休暇も中盤に差しかかり、世の学生たちは家族や友人と、それぞれの“夏”を満喫していることだろう。


 ──あの事件から、もう二日。


 (……暇だったよ? めっちゃ暇だった。でも、急すぎない?)


 窓から射し込む眩しい陽射しに目を細めながら、龍人はスマホを見つめていた。

 画面には、昨晩届いた一通のメッセージが表示されている。


 『明日10時。東都市・錦苑三丁目七番六号。白い三階建ての邸宅。チャイムを鳴らすこと。遅刻厳禁』


 ──東都市、錦苑。白い邸宅。


 (なにこの住所……完全に一等地じゃん)


 金欠大学生の龍人にとって、その地名だけで“場違い”の烙印が押されたような気分だった。

 しかも、差出人は──月島紗夜。あのダンジョンで共闘した、元・協会ハンターの彼女だ。


 用件も、目的も、書かれていない。でも、文面に滲む圧の強さは相変わらずで──

 龍人は逆らう選択肢なんて最初から持ち合わせていなかった。


 (いや、せめて……一言ぐらい、理由書いとけよ)


 汗ばんだ手のひらをズボンで拭いながら、龍人は豪奢な鉄柵の前で立ち尽くしていた。

 目の前には、白壁に囲まれた三階建ての邸宅。そのガレージには、外車らしき黒いシルエット。


 (すげぇ……テレビでしか見たことないぞ、こんな家)


 指示通りインターホンのボタンを押すと、数秒後──

 ガチャリ、と音を立てて玄関の扉が開いた。


 「おっ、やっと来たわね。龍人君が一番最後よ。……みんな、もう待ってるわ」


 現れたのは、黒髪をポニーテールにまとめ、白シャツとジーンズでラフに決めた紗夜だった。

 それでも醸し出すオーラは、どこか“デキる女”のそれ。そしてその表情は、どこか──高揚しているようにも見えた。


 「ね、すごくない? この邸宅。外資系の不動産から一年契約で借りられるって知って、即決よ!」


 「……え? 借りたんですか?」


 「当たり前でしょ。買えるわけないじゃない。しかも、借金よ! これからみんなで返していくんだから!」


 満面の笑みでそう言い放つその姿は、どこかで見た“自称・成金成功者”そのものだった。


 (……え? 借金? ……“みんな”で返す?)


 脳が情報の処理を拒否し始める。何故かヤバい気配しかしない。

 そう思いながらも、龍人は靴を脱ぎ──まるでドラマのセットみたいな内装の中へと足を踏み入れていくのだった。




 まるでモデルルームのような玄関ホールを抜けると、天井の高い吹き抜けのリビングへと通された。

 白と木目を基調にした、広々とした空間。その真ん中、L字型のソファに腰かけていたのは──


 「……あ、龍人さん」


 「うおっ、兄貴お疲れ様っす! ってか、すごくないっすかこの家!? テレビで見る社長の家って感じっすよ!」


 「なあ……今、“借金”って聞こえたんだが、大丈夫か?」


 顔ぶれは、あの事件を共にくぐり抜けたポーター三人組。

 それぞれの表情には困惑と不安が浮かんでいたが、龍人の姿を見た瞬間、どこか安心したような空気が流れた。

 そんな場のムードを、ぱんっ、と軽快な手拍子が切り裂く。


 「はいはーい、これで全員そろったわね!」


 満面の笑みで立つのは、もちろん紗夜だった。

 目をきらきらと輝かせながら、どこか勝ち誇ったように──宣言する。


 「ではここに、ギルド《エヴォルブ》の結成を宣言します!」


 「えっ……ギルド?」


 「そう。名前ももう決めておいたの。《エヴォルブ》──“進化する”って意味よ。かっこよくない?」


 胸を張って言い切るその姿は、完全にノリノリだった。そのあまりの勢いに、全員が揃ってぽかんと口を開ける。


 「龍人くんの異能って……食べて、吸収して、強くなる能力でしょ? このギルドの命運は龍人くんに掛かっているからね!」


 龍人は思わず絶句した。


 (いや、そんな軽いノリで……)


 言葉の裏に、彼女なりの覚悟があることはなんとなく察せられた。それでも──ギルドに入るなんて考えたこともなかった。

 大学生で、日銭を稼ぐためにバイトのようにダンジョンに潜っていた身が、いきなり“ギルドの柱”として扱われている。


 (俺なんかで……本当に、大丈夫なのか?)


 「ちなみにギルドって、最低でもハンター5人で結成申請できるって知ってた? で──今ここに、ちょうど5人」


 「え、まさか……」


 紗夜は指を折りながら、にこやかに言った。


 「まず、ギルドリーダーの私。元協会所属のCランクハンター。次に、龍人くん。躍進の鍵を握る、我らがエース」


 「んで、木村さん。割といい人だし肉壁にもなれる。そして、亮くんと翔子ちゃん。龍人くんを補佐してくれる有望なハンター候補生。──全員、あの事件を一緒に生き延びた戦友よ」


 木村が、微妙な顔で口を開く。


 「いやいやいや、俺たちなんてただのEランクだぞ……ってか、肉壁って酷くないか」


 「逆にちょうどいいのよ。Eランクだから、有名ギルドからの勧誘もないだろうし。それに、みんな龍人くんの“秘密”を知ってるでしょ?」


 一瞬、場に沈黙が落ちる。


 「……まあ、そうだな」


 「あれは、絶対普通じゃなかったっすもんね……」


 三人が口々にそう答えるのを聞きながら、龍人は小さく息をのんだ。


 「いや、それでも……俺、まだ心の準備とか──」


 「私、借金までしてるのよ? いまさら逃げられると思ってる?」


 にっこり笑った紗夜の笑顔は、めちゃくちゃ怖かった。


 (えぇ……勝手に借金しただけじゃん…)


 「それに、ね?」


 紗夜はまっすぐに龍人を見つめる。

 

 「──ここにいる全員、一緒に“死地”をくぐって、生き延びた“仲間”でしょ」


 「……っ」


 その言葉に胸の奥が、じんと熱くなった。

 言いくるめられてる感は否めない。でも──不思議と、悪い気はしなかった。


 (……まあ、やってみてもいいかな?)


 紗夜の宣言めいた声が、静かなリビングに響き渡る。


 「というわけで、ギルド《エヴォルブ》──正式に、始動です!」


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