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悪食ハンター、今日もダンジョンで死にかける  作者: 三誠堂スナオ
第1章 最底辺から始まる悪食譚
12/14

12話 Fランクハンター、巨人を穿つ

 轟音とともに、床が砕けた。

 巨体を揺らして突進するゴウ──いや、もはや人の姿を留めぬその怪物は、まるで暴走する岩壁のようだった。


 「っ──来るわ!」


 サラが跳躍し、ギリギリでその突進をかわす。

 だが、衝撃波に巻き込まれ、軽く空中でバランスを崩す。


 一方で、龍人は避けなかった。

 いや、避けられなかった──それほどに速く、重い。


 「ぐっ──!」


 腕を構えて防御するも、その巨腕と真正面から激突した瞬間、鈍い音と共に龍人の体が吹き飛んだ。

 岩壁に叩きつけられた背に、ヒビが走るような痛みが走る。息が詰まり、足元がふらつく。


 (重さも……パワーも、桁違いだ……!)


 それでも、立ち上がった。

 拳を握り直し、前を睨む。


 「──なんとか、ヘイトは稼ぎます。」


 「了解。やれるだけ……やってみるわ」


 息を整えながら、サラが短剣を手に舞う。

 龍人が真正面から挑発し、ゴウの注意を引きつける。その背後から、サラが素早く回り込んで斬撃を叩き込む。


 ──が。


「効かねぇよォ!!」


 ゴウの咆哮とともに、サラの刃は岩のような外殻を掠めただけで弾かれる。

 龍人の拳も、装甲に打ち付けられても、ただ振動するだけで傷ひとつつかない。


 (……硬すぎんだろっ!)


 龍人の目が細まる。


 (サラさんの刃も、俺の拳も、こいつの装甲は剝がせない……!)


 それでも、立ち止まる時間はない。


 ──そして、次の瞬間。


 「──くっ!」


 ステップのタイミングが、わずかに狂った。

 追撃を避けようとしたサラの足元が滑り、体勢が崩れる。

 バランスを取り戻す前に、ゴウの拳が迫った。


「サラさんっ!!」


 龍人が叫び、駆け出す。だが──間に合わない。

 

 そのときだった。


 「お嬢ちゃんから、どきやがれぇッ!!」


 割って入ったのは、あの中年ポーターだった。

 ゴウが持っていた大盾を構えて、サラをかばうように立ちふさがる。


 ──ドガァッ!!


 鈍い音と共に、男の身体が吹き飛ぶ。

 サラが呆然と見上げる中、彼はゴウの拳を“半分受け止めるように”逸らしたのだ。


 「……っ!」


 龍人が目を見開く。

 中年男は地を転がり、吹き飛ぶ──が、大盾を支えに立ち上がる。

 

 「ははッ…おじさんナイス!!」


 龍人が叫ぶ。

 吹き飛ばされながらも立ち上がった中年ポーターに、サラが目を見開く。


 (……ありがとう。今の一撃、食らってたらマズかったわ……)


 そのわずかな猶予の中で、龍人が再びゴウへと向かって駆ける。


 「おい、どこ向いてんだよ! 岩野郎!」


 龍人の拳が、巨体を揺らす。

 その一撃と挑発に、巨人の敵意が再び龍人へと向けられる。


 「チッ……クソガキがぁ……ッ!」


 ゴウが怒声と共に巨腕を振り上げ──振り下ろす。 

 その隙に、サラが立ち上がる。握りしめた短剣の柄に、今にも震えそうな手。

 だが、彼女の足取りはまっすぐだった。


 「ふぅ……まだやれる。こんなとこで、死ねないもの」


 龍人が引きつけ、サラが駆ける。

 ふたりの即興の連携が、再び始まった。


 サラはその舞うような身のこなしで、ゴウの攻撃をいなし、かすかに外殻を削る。

 その間も、龍人は距離を保ちながら、思考を深めていた。


 (あのとき……)


 ジャイアントパウンドの魔石を喰った、その時から芽生えた“感覚”。

 巨獣から放たれた、あの灼熱の火球。

 肌を焼き尽くすような熱量が、自分の中にも流れ込んだ──


 (あの感覚は……まだ、ここにある)


 ただの直感ではなかった。それは、確信だった。


 (出せる。俺にも、あの炎が……いや──)


 龍人の中で、魔力が騒ぎ出す。喉の奥が焼けるように熱い。体中が警鐘を鳴らす。


 (ただ吐き出すだけじゃダメだ……。もっと圧縮しろ。極限まで凝縮して──一撃で、ぶち抜く!)


 そして、龍人は叫んだ。


 「サラさん……ちょっと、お願いします!!」


 その声に、サラが顔を上げる。彼の“何か”を感じ取り──頷いた。

 

 「……了解!」


 サラの剣舞が変わった。命を燃やすような速度で踏み込み、踊るように駆ける。


 「ふッ……!!」


 視線を集めるように、大きく動く。身を翻し、ゴウの注意を奪う。

 その間、龍人は立ち尽くしていた。全身の魔力を喉奥へと集中させる。


 吐き気すら感じる膨大な熱が、喉元に集約されていく。

 喉が焼ける。歯が軋む。目の奥が痛む。

 

 それでも──圧縮する。


 龍人の身体から、蒼い魔力が立ち昇る。

 それは魔石を喰ったときとは違う。

 

 喰らい、変化し、今──“放つ”段階へ。


 周囲の空気が……熱を帯びていた。

 ただ暑いのではない。肌がビリビリと焼けるような、魔力の圧。


 龍人の視線が、まっすぐにこちらを向く。サラはそれだけで察した。


 (これは──来る……!)


 サラが飛び退く。

 

 ゴウが魔力の圧に、振り返るが──

 ──時すでに遅かった。


 龍人が咆哮と共に、口を大きく開いた。

 

 次の瞬間──


 喉奥から放たれたのは、火球。

 ただの火球ではない。

 灼熱を圧縮した──極限の業火。

 

 拳大ほど蒼い光弾が、一直線にゴウの胸へと突き進む。

 一瞬、時間が止まったかのように、龍人とゴウの視線が交差する──


 「──なっ、なん……っ!?」


 反応する間もなく、それは命中。 そして──爆ぜた。


 轟音と共に、広間が揺れる。

 光と熱と爆風が、すべてを呑み込んだ。

 

 咄嗟に身を伏せたサラの耳に、爆音と岩が砕ける音が響き渡る。

 瓦礫が降り注ぎ、空気が焼け焦げる。


 ──そして。



* * * * *



 炎が収まったあと、そこに立っていたのは──燃え尽きたゴウの姿だった。


 「なんで…だ。なん、で俺が……」


 ふらふらと歩きながら、ゴウは呻く。

 

 「お前みたいな、Fランクにいいっ!!」


 叫びながら駆け出すゴウ。だが、龍人は一歩も引かない。


 掴みかかろうとしたその瞬間──龍人の拳が、ゴウの顔面を穿った。


 「さっきから、うるせぇんだよボケええ!!」


 巨体が吹き飛び、地を転がり、崩れるように沈む。


 ──重く、鈍い音が、広間に響いた。


 ……しん、と、静まり返る。


 誰も、何も言わなかった。灰と硝煙の中に、ただ一人。


 立っていたのは──Fランクハンター、九頭龍人だった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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