80 心の整理
主人公/キャプテン 小西 丈
過去編ヒロイン 西条 ゆきな
丈とゆきなは昼から落ち合い、目的の夜景が綺麗に見える場所近くで観光をしていた。
2人はソワソワしながら会話していたため、何を話したか何を食べて何の味かさえ曖昧であった。
丈は女性経験は多いが恋愛感情を持っていなかった故に、いざこういう風になるとどういう振る舞いをしていいか分からなかった。
ゆきなはシンプルに男性と付き合ったことがないため、タイミングや雰囲気づくりが分からなかった。
「い、いや~今日はいい天気だねっ」
「え?あはは確かにね!天気よくて良かったよ~」
今日は曇りである。夕方から晴れる予報だが。
ぎこちなく歩く2人。食べ歩きが有名な観光地であり、かつ休日のため人で賑わっていた。
「人多いね…」
「そうだね、はぐれないようにしないとね…」
丈は、昔の癖で無意識にゆきなの手を握った。ゆきなは何かに当たったと勘違いして驚き、咄嗟に手を引いてしまった。その拍子に足を挫き倒れそうになった。
「あ!」
「危ない!」
丈はゆきなの肩に手を回し、間一髪で転倒を防いだ。日頃の仕事での瞬時の判断が活きた場面であった。
「大丈夫?ゆきなさん」
「う、うん…ちょっと足捻っちゃったかも…」
2人は人波を抜けてベンチを探し座った。
「丈くん、ありがとう」
ゆきなの肩を支えながら付き添った丈にお礼を伝えた。
「全然いいよ、仕事でよくこういうことしてるしっ!」
「さっき丈くんの手だったんだね…ゴメンね誰かに手が当たっちゃったと思って…」
「そうだったんだ…良かった…色々と」
丈は安堵の表情を浮かべ、胸を撫で下ろした。
「嬉しかったよっ」
ゆきなはにこやかに微笑んだ。その破壊力に直撃した丈は、唇を噛みにやける顔を必死で抑えた。
そこから2人は吹っ切れたのか、緊張はほぐれ普段通りの会話をできるようになった。
「足良くなったら、あそこのみたらし団子食べに行きたい」
「足もういいの?もうちょっと休んでも良いんだよ?」
「へいきへいきー」
挫いた足の痛みもひいてきて歩き始めた2人。お互いに行きたいところを巡りながら時間を潰した。
「あれ?私の職業言ったことなかったっけ?」
「んー、あるけど詳しくは」
歩き疲れたため小休憩で、パフェを口に入れていた。
「研究しててさ、人体冷凍って聞いたことある?」
「あー、病気とかしてこの時代じゃ治せない人がするやつ?」
「そうそう、そんな感じかな。それの改良したイメージ」
「へぇ~なんか難しいことしてんだね」
「従来の人体冷凍は維持費とかもあって実質お金持ちしか使えなかったの。だからリーズナブルにしてるんだけど…」
「どうしたの?」
「んーと、冷凍前に身体に特殊な細菌を投与して、解凍後の後遺症とかを克服するようにしてみたけど、それがネックで誰もやりたがらなくて…」
「なるほど…まぁまず人体冷凍するって人自体が集まらないしね…」
丈のちょっとした正論に何も言えないゆきな。
「やってみようかな?人体冷凍」
「え!?」
急なことにハッと驚くゆきな。
「ここで了承するものじゃないよ!?じっくり考えないといけないことだし、それに親さんとか…」
「親なら全然いいよ、小さい頃死んじゃったし」
「え…?」
「あ、気にしないで。みんな同じ反応するし大丈夫大丈夫」
「そうなんだ…」
「話戻すけど、良ければね。これって今すぐどうとかしゃないよね?」
「う、うん!まぁ予約?みたいな感じかな。自分の意思でこのタイミングでやりたいとか出来るよ」
「じゃあ、俺が第1号だね!」
「本当にいいの?無理してない?」
「不謹慎かもだけど、寿命以上の未来に興味あるし」
丈の話にたじたじになりながら、とりあえずその場は承認して後日また話すことになった。
「ここ何かお店作るのかな?」
「確かにね、工事してるね。何が出来るか書いてないけど、大きそうだね」
日も暮れ始め、夜景スポットまでの地点に工事中の張り紙がある場所があった。
「こういうのみてると、上からなんか落ちてくるイメージがある」
2人はよくあるドラマなどの話をしながら通りすぎた。
夜景スポットに到着した丈とゆきな。今日は曇りのためか数組のカップルしか居なかった。
「人数的にはラッキーだけど、見れるかな…」
「うーん…微妙かな」
若干不安な2人は、刻一刻と近づく運命の時間に、脈が速くなっていることを感じ始めた。
次第に話さなくなり沈黙が続く。少し離れた所にいるカップルの話し声で全くの沈黙を避けることが出来ている状況だ。
「あ!星!見えてきた!」
近くにいたカップルが空を指差して、話している声が聞こえた。
つられて空を見た丈とゆきな。すると、雲の隙間から星空がさしてきた。キラキラと光る空に2人は見とれていた。
「綺麗っ」
「うん、スゴい綺麗」
呟くだけでそれ以上の言葉は話さなかった。
丈はゆきなの手に手を伸ばした。すると、ゆきなはその手を握ってくれた。
「ねぇ、付き合わない?」
「え?あ、うん」
少しの沈黙があり、丈が聞き返した。
「え?付き合ってくれるの?」
「う、うん…!なんなら私から言うつもりだった」
「ありがとっ…!」
「私こそありがとう!これからも宜しくお願いします!」
「よろしく!てか、緊張して肩凝った!」
「本当それ!」
案外さらっと終わり安堵して、今日初めての素の笑顔が溢れた。
「あそこの軒下に行こう!」
手で頭を覆い小走りに駆ける丈とゆきな。告白成功からしばらくして、また曇りはじめ雨が小降りながら降ってきた。
「濡れちゃったね…」
「せっかくいい日なのにっ!」
丈とゆきなは工事中の場所まで戻ってきており、止んだタイミングで帰ろうと話した。
一息つき、丈が話し始めた。
「本当にありがとうね、こんなに好きになったの始めてでさ」
「それは私の台詞だよ、私には勿体ないくらい」
「そんなことないよ!俺は絶対ゆきなを、、」
俺は絶対ゆきなを幸せにすると決意を言おうとしたが、ゆきなの視界にダンボールがあり、そこから犬が顔を出していた。
「え?犬?」
と、ゆきなはなるべく雨に当たらないように軒下から出て、犬の元に駆け寄った。
丈は心の中で拳を握り、なんて間の悪い犬め~!!と思っていたが、ふと頭上を見た。
「昼くらいはここにいなかったのに…誰がこんなヒドイことを…」
ゆきなは雨の中濡れていた犬を抱きかかえた。その時丈が何か大きな声で呼び掛けていたが、しっかり聞こえず丈の方を見た。
丈は慌てた顔でこちらに走ってきた。危ない!と聞き取れた時、上を見ると工事中の場所から鉄骨が落ちてきていた。
固まってしまったゆきなの視界がグラッと揺れた。後から気づいたが、丈が犬を抱えたゆきなを押していたのだ。
ゆきなは尻もちをつき、目をつむった。その瞬間目の前で鉄骨が地面に落ちた甲高い音が襲った。
「きゃあ!!」
ゆきなが目を開けると、数本の鉄骨が落ちていて危なかったと思った矢先、鉄骨の隙間から腕が見えた。
「丈くん!?」
周りを見渡しても丈がいない、まさか!?と思い、駆け寄った。
違うことを願いながら顔を覗くと、そこには丈がいた。犬はなき、ゆきなは思考が停止し、脱力してしまった。
それから病院に着くまでの記憶が曖昧になっていた。
聞いた話によると、同じ夜景を見にきていたカップルが音に気づき、現場を発見して救急車を呼んでくれたそうだ。
丈には身寄りがいないので、医師からの説明を受けることになったゆきな。ショックで上手く医師の話が理解出来い中、唯一分かったのは、もう起きることはないということだ。
さらに、気づいた時には病室のベッドの上で寝ていた。待合室で倒れていたそうだ。医師曰く、極度の緊張と心理的ショックで倒れたとのことだった。
目を開けると、ゆきなの両親が心配そうに付き添っていた。
起きたゆきなは両親と看護師の制止を振り切り、丈のいる病室に向かった。
そこには身体中から管が繋がり、まさしく機械に生かされた状態の丈がいた。あの時の光景がフラッシュバックし、その姿に涙が止まらず廊下で泣き崩れた。
自傷行為の危険があり、鎮静剤を打た。そのお陰か落ち着きを取り戻した。両親のあんな泣いている姿は初めて見た。
「もう大丈夫なの?ゆっくり休んでもいいよ?」
両親は少しぎこちなくゆきなに話しかけた。
「うん、心の整理はついたよ。それに私、決めたことがあるの」
ありがとうございました。
若干1話との整合性取るために無理やり感ありましたが、過去編はこれにて終了しました。
次回からは現代編に戻り、ラストスパートとなります!




