63 Give up to dreams
ヨルはマシューのいる実験室へ向かっていた。長い廊下を歩き、目的地の部屋を目指した。ヨルに限らずだが、地上へ降りた際に武器や装備一式が壊れてしまっていた。
なので、修理と新調を頼んでおりマシューにできたと連絡があったため部屋に向かっている途中なのだ。
ヨルは目的地に着きドアをノックした。中からマシューの声が聞こえ、入ってよいとのことだったのでドアを開けた。すると、向い合わせのソファにマシューが座っており、こっちこっちと手を振っていた。マシューの正面には誰かが座っていた。気になり顔を見ると、デイビスだった。
「あれデイビスさん?」
ヨルの呼びかけでハッとなり顔を見た。なにやら集中してタブレット端末のようなものを見ていたようであり、ヨルは少し申し訳なく思った。
「ああ、ヨルか。どうしたんだ?ここで」
「マシューさんに修理とかをお願いしてて」
デイビスはそうかと答え、再びタブレットに目を向けた。なにを見ているのだろうと気になっているヨルに気づいたマシューは、デイビスの代わりに答えた。
「これはビータの設計図だよ、みんな知らないかもだけどデイビスは昔エンジニアを目指していたんだ」
「え?そうだったんですか?」
「まぁな、だけど昔のことだ」
マシューの言葉に驚くヨル。デイビスはアイディール部隊に召集されるまでは、エンジニアになりたくて勉強をしていたのだ。なりたい理由は簡潔でカッコいいからであった。子どもの頃の話でありシンプルな理由であり、何度も見学などをしていた。
今回も色々と落ち着いてきたため、マシューにお願いしてビータの設計図やこれまで製作した発明品を見せてもらっていた。
「じゃあ、おれはこれで。ありがとうマシュー」
デイビスはソファから腰を上げた。マシューにお礼とヨルにも挨拶し実験室を後にした。
ヨルは純粋な疑問をマシューに聞いてみた。本人にはなんとなく聞きづらいことである。
「デイビスさんはなんでエンジニアになるのをやめたんですか?」
「んー、ちらっとしか聞いたことないけど、使命感だって言ってたかな?」
「使命感…」
マシューはデイビスの言葉を思い出そうと視線を上にして思い出していた。ヨルはマシューに向かい合うようにソファに座った。
「元々エンジニアを目指してたけど、ユートピアでは皆のために戦えることが誇りみたいなものだろう?それで自動的にエンジニアの道を諦めたのだろうと考察してみた」
「私と似てる」
ヨルは小声で呟いた。ヨルも元々は大人しく生活をしていたのだが、ユニークに目覚めアイディール部隊に召集された。ヨル自体は夢などは特になかったため、戸惑いながらもアイディール部隊に入った。
だが、デイビスはエンジニアという立派な夢を諦め、戦いに身を投じている。しかし、諦めきれていないのはすぐに分かる。何故なら諦めたのならこうしてマシューの元へ来ないだろうと。
「デイビスさんと話してきます」
「お、ヨルならそういうと思ったよ。私からは言いづらいが言伝てとして、夢を諦めるなと伝えてやってくれ」
「はい!」
こうしてヨルはマシューの実験室を出た。しばらくして、ヨルは目的の武器や装備を忘れて置いていってしまった。
「あ」
「デイビスさん」
「ん?ヨルか、今日はよく出会うな」
デイビスは、これから走るつもりで訓練所でストレッチをしていた。ヨルも訓練着に着替え合流し、一緒にストレッチを始めた。
「ヨルは本当に成長しているな」
「そうですか?」
「ああ、顔つきが精悍になった。誇りあるアイディール部隊のメンバーだ」
デイビスはヨルの顔を見つめ褒めた。ヨルは恥ずかしく控えめに頷いた。
「デイビスさんも誇りあるアイディール部隊のメンバーですよ」
「ありがとう、ユートピアの民のためにこれからも頑張らないといけないな」
デイビスは前屈をしながら返した。ほどよく筋が伸び気持ちよくなっていた。
「エンジニアになる夢って…」
「ん?ああ、マシューから聞いたのか。昔の話だ、今はアイディール部隊として戦わなくてはいけない。それが今のおれの使命と夢かな」
「それって本心なんですか?」
「そうさ、誰かのために戦うなんて素晴らしいだろ?」
「そうかもしれないですね…」
「ユニークに目覚めて、戦うための素質を見いだされた。だからやるんだ」
「それって…夢を諦める理由になりますか?」
「ヨル…」
ヨルはまっすぐな瞳でデイビスをみた。
「私も似た経緯で戦いに身を投じました。だけど、デイビスさんにはやりたい夢があるなら、使命感とか誰かのためとかだけでじゃなくて、自分のためにも戦わないといけないですよ!」
ヨルはひとしきり話して、ふと我に返った。その時のデイビスの顔がキョトンとしており、我ながら自分らしくないことを言ってしまい恥ずかしくなってしまった。
「あわわわ、今の言葉は忘れてください!」
頭を下げデイビスに謝るヨルに、デイビスは微笑んだ。
「自分のために、か…いいことを言うな」
「え?」
「アイディール部隊に選ばれてからはがむしゃらになって頑張ったよ。夢を振りきるために…でもそういうことじゃないんだよな…戦うにしても終わってからの目標がないとな」
「え、それって」
「戦いが終わったら、またエンジニア目指すかな…」
「デイビスさん!」
「ありがとうヨル、感謝する」
ありがとうございました。
ヨルとデイビスの絡みはほとんどないので、絡ませてみました。似た経緯の2人なので分かりあえるところがあったんですね。




