第六話 魔物使いマイネ
今日の相手は、闘技場のNo.2・マイネだ。
長いウェーブがかかった黒髪に、ローブを纏っている。ベルトには鞭が複数本差してあり、新しいものを買ってはラグネルに見せてくる。
「ラグネル、今日もいい身体をしているね」
「……触るな」
「おやおやおや、つれないじゃないか。今日は、弁当屋の女の子は応援に来ていないのかい?」
「……」
魔物使いと表向きはなっているが、扱う魔物が、触手のように蔓を伸ばす植物系魔物であったり、うにょうにょと足が10本以上ある海に住む海洋性魔物だったりと、要するに触手使いなのだ。
ラグネルは、この男が苦手だ。
闘技場で戦い始めた頃から、数年、負け続けている。あげくに観客の前で鎧を溶かされたり、下着を脱がされかけたりと、別の意味で見世物にされてきた。
それだけでも飽き足らず、顔を合わせれば食事に誘い、部屋に来いだとのしつこく関係を迫られる。
「せっかく、私と戦うんだから、彼女にも見てもらいたいじゃないか」
ガーネットの前で、ひん剥かれるのは、どうしても避けたい。
「いい加減、ご飯ぐらい行こうじゃないか。君は剣闘士には向いてないよ。私が大切にしてあげるから」
「剣闘士をやめたとしても、お前の言いなりにはならねーよ」
自分の希望をグイグイ押し付けてこられるのが、めんどくさい。
その時、試合前だというのに、客席から歓声が聞こえてきた。
「……なんだ?」
「行ってみよう」
案内されて、それぞれの入場ゲートから闘技場へ出た。
「フレー! フレー! ラグネル!」
客席の一番前で、ガーネットがなにやら踊っている。
応援してくれているようだが、タンクトップとミニスカートの可愛らしい衣装で、客席が盛り上がっている。彼女のコールで、ラグネルに賭けた客が大声で同じように叫んでいる。
「なんだありゃ……。可っ愛……」
こんなに盛り上がっているのは久しぶりだ。
今日は勝てるような気がする。
闘技場に出ると、マイネは腰のバッグから何か取り出した。
「さあ、ラグネルやろうか。今日こそ君の体をもらうよ。小娘に取られるというのも癪だからね」
「やなこった」
マイネが魔物を呼び出し、こちらに放つ。触手の生えた巨大な目玉だ。
「キモいんだよな……」
こういうのは、どこから捕獲してくるのだうか。数本の触手を切り落とすと、そこから、ぬるぬるとした液体が吹き出してくる。
「うわっ!」
足を取られ、バランスが崩れる。
「ほらほら、捕まえちゃうよ。彼女の前でぬるぬるにされてるの見てもらおうね」
「くっ……! 変態が」
触手に足を捕まれ、宙吊りにされる。
「まずは私のを口でしてもらおうかな?」
すると、客席からガーネットが叫んだ。
「石に触って!!」
「……!」
斧にはめ込まれた石に触れて念じる。
「斧よ……、炎よ出ろ!」
途端に、斧の先から炎が吹き出して、触手を燃やした。
「マイネ、今日こそ片付ける」
「……ほう。魔法の斧を……。魔法なんて使えなかったくせに……」
「へへっ、いい斧だろ」
そのまま目玉の中心を叩き斬る。
マイネは後ろに飛び退り、降参とコールした。
踵を返し入場ゲートまで逃げる。逃げ切ってしまえば、試合はそこで終わる。
「おいっ、ふざけんなよっ」
しかし、降参すればそれ以上の戦いは認められない。剣闘士を雇うのもタダではないからだ。
「勝者ラグネル!」