表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/64

第五話 プレゼント


「城の庭園でデートなんて、あの剣闘士の兄ちゃん、結構遊んでたんだろうねえ」

 リリーはアキラが作った肉巻きおにぎりを食べながら、初デートの評価を下した。

「顔はいいし、そりゃ、彼女の一人や二人いたでしょう」

 とアキラ。

「そうなんだけど、そうなんだけどさあ」

 ガーネットはあのあと、城の薔薇園でお喋りをし、市場で買い物をした。ちょっとした昼食を取って、街のシンボルである教会の素敵なステンドグラスを観光し、夕食前にきちんと家に帰された。

 デートコースとしては、きっとこの街の定番なのだろう。

「女の子として扱ってもらってるじゃないか。ちゃんとしたデートだよ」

「本当は彼のお部屋に呼ばれたりしたかった」

「初日でそれは図々しいというものだろ……」

 剣闘士とそのファンという関係だ。そんなに急に進展するものでもないだろう。

「なにかプレゼントしたいのだけど」

 デート中に武器屋も寄った。

 ラグネルは、対戦相手がランク下の時は、自前の斧ではなく、剣を使用している。

「斧が痛むんだ」

「新しいのを買えば?」

「同じものは売ってないんだ。親父が作ったものだから」

 なかなか気に入る斧が見つからず、仕方なく別の武器を使っているとのことだった。

「お父さんが鍛冶屋だったんだけど、かなり昔に亡くなられてるんだって」

 プレゼントしたいと申し出たが、気持ちだけ受け取っておくとラグネルは笑ってくれた。


「うーん。そりゃ、お気に入りの代わりはすぐには見つからないでしょうね。命を預けられるほどの武器となると」

「じゃあ服とか……」

「私はドレスしか作らないわよ」

 強化はしてあげられるけど、とリリーは指を鳴らした。


 翌日、ラグネルを試合前に捕まえた。

「なんだ用って」

「イイコトしてあげる」


 闘技場の受付に、リリーとアキラが待っていた。

「使ってない斧はあるかしら」

「なんだ薮から棒に」

 あるけど、と闘技場の控室に準備してある斧を出す。

「理想の形や刃の厚さ、柄の長さがあったら教えて」

 言われた通りに、さらさらとアキラが斧の絵を描いていく。

「……めちゃくちゃ上手いな……」

「僕、絵描きなんですよ」

 絵が完成すると、ちょっと待っててとリリーがその斧を、持ち上げて、何かをくっつけた。

「プレゼントは問題ないって受付に聞いてきたわ。私たちからのプレゼント」

 リリーが手を触れると、一瞬、斧が煌めいた。

「完成~」

「なんで?」

 リリーの手には、絵に書いた通りの大斧が握られている。

「持ってみて」

 ラグネルが恐る恐る持ち上げてみると、重さは変わっていない。見た目だけが変わっている。

「ここに、紫の石が嵌めてあるでしょ。紫水晶よ。ここ触りながら『元に戻れ』って念じて」

 言われたとおりにすると、元の斧に戻った。

 間違いなく父が打ったものだ。言われた通りにするだけで、物の形が変わることに、ラグネルはわずかに恐怖を覚えた。

「じゃあ次は、石に触って、炎の斧になれって念じて」

「……おう、わかった」

 さっきの斧の姿を思い浮かべて念じる。すると、大斧に姿を変えた。

「……なんで……」

「あなた、素質あるわね。……次は、石に触りながら炎よ出ろと念じなさい。本気でね」


 ぶわっと刃から炎が吹き出した。

 ラグネルは魔道士ではない。魔道士と戦ったことはあっても、炎や氷を出せる武器の存在は知っているが、出会ったことはなかった。

 まさか、初めて出会った魔法武器が、自分の斧だとは。

「初めてで変化の魔法を使える人は珍しいわ。次の試合はこれを使ってみて」

「私からのプレゼントだからね」

 とガーネット。

「ありがとうな。使わせてもらうぜ」

 顔しか取り柄がない剣闘士なんて言わせない。初めての魔法の武器に、心が踊るのがわかる。使い慣れた斧が、まるで違うのものになった。

 誰が相手でも勝てそうな気がする。

「勝てたら……。いや、次の勝利はお前に捧げるよ弁当屋」

「……!」

 思いがけない言葉に、ガーネットは鼻をかきながらうつむいた。

「明日も会いに来いよな」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ