第五話 プレゼント
「城の庭園でデートなんて、あの剣闘士の兄ちゃん、結構遊んでたんだろうねえ」
リリーはアキラが作った肉巻きおにぎりを食べながら、初デートの評価を下した。
「顔はいいし、そりゃ、彼女の一人や二人いたでしょう」
とアキラ。
「そうなんだけど、そうなんだけどさあ」
ガーネットはあのあと、城の薔薇園でお喋りをし、市場で買い物をした。ちょっとした昼食を取って、街のシンボルである教会の素敵なステンドグラスを観光し、夕食前にきちんと家に帰された。
デートコースとしては、きっとこの街の定番なのだろう。
「女の子として扱ってもらってるじゃないか。ちゃんとしたデートだよ」
「本当は彼のお部屋に呼ばれたりしたかった」
「初日でそれは図々しいというものだろ……」
剣闘士とそのファンという関係だ。そんなに急に進展するものでもないだろう。
「なにかプレゼントしたいのだけど」
デート中に武器屋も寄った。
ラグネルは、対戦相手がランク下の時は、自前の斧ではなく、剣を使用している。
「斧が痛むんだ」
「新しいのを買えば?」
「同じものは売ってないんだ。親父が作ったものだから」
なかなか気に入る斧が見つからず、仕方なく別の武器を使っているとのことだった。
「お父さんが鍛冶屋だったんだけど、かなり昔に亡くなられてるんだって」
プレゼントしたいと申し出たが、気持ちだけ受け取っておくとラグネルは笑ってくれた。
「うーん。そりゃ、お気に入りの代わりはすぐには見つからないでしょうね。命を預けられるほどの武器となると」
「じゃあ服とか……」
「私はドレスしか作らないわよ」
強化はしてあげられるけど、とリリーは指を鳴らした。
翌日、ラグネルを試合前に捕まえた。
「なんだ用って」
「イイコトしてあげる」
闘技場の受付に、リリーとアキラが待っていた。
「使ってない斧はあるかしら」
「なんだ薮から棒に」
あるけど、と闘技場の控室に準備してある斧を出す。
「理想の形や刃の厚さ、柄の長さがあったら教えて」
言われた通りに、さらさらとアキラが斧の絵を描いていく。
「……めちゃくちゃ上手いな……」
「僕、絵描きなんですよ」
絵が完成すると、ちょっと待っててとリリーがその斧を、持ち上げて、何かをくっつけた。
「プレゼントは問題ないって受付に聞いてきたわ。私たちからのプレゼント」
リリーが手を触れると、一瞬、斧が煌めいた。
「完成~」
「なんで?」
リリーの手には、絵に書いた通りの大斧が握られている。
「持ってみて」
ラグネルが恐る恐る持ち上げてみると、重さは変わっていない。見た目だけが変わっている。
「ここに、紫の石が嵌めてあるでしょ。紫水晶よ。ここ触りながら『元に戻れ』って念じて」
言われたとおりにすると、元の斧に戻った。
間違いなく父が打ったものだ。言われた通りにするだけで、物の形が変わることに、ラグネルはわずかに恐怖を覚えた。
「じゃあ次は、石に触って、炎の斧になれって念じて」
「……おう、わかった」
さっきの斧の姿を思い浮かべて念じる。すると、大斧に姿を変えた。
「……なんで……」
「あなた、素質あるわね。……次は、石に触りながら炎よ出ろと念じなさい。本気でね」
ぶわっと刃から炎が吹き出した。
ラグネルは魔道士ではない。魔道士と戦ったことはあっても、炎や氷を出せる武器の存在は知っているが、出会ったことはなかった。
まさか、初めて出会った魔法武器が、自分の斧だとは。
「初めてで変化の魔法を使える人は珍しいわ。次の試合はこれを使ってみて」
「私からのプレゼントだからね」
とガーネット。
「ありがとうな。使わせてもらうぜ」
顔しか取り柄がない剣闘士なんて言わせない。初めての魔法の武器に、心が踊るのがわかる。使い慣れた斧が、まるで違うのものになった。
誰が相手でも勝てそうな気がする。
「勝てたら……。いや、次の勝利はお前に捧げるよ弁当屋」
「……!」
思いがけない言葉に、ガーネットは鼻をかきながらうつむいた。
「明日も会いに来いよな」