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第二話 闘技場勤務なのに弁当屋に助けられた一日

2話目です。

誤字直しました。


 明日も会いたい。

 引っ越してきたばかりの家で、ガーネットはテーブルに突っ伏していた。


「あまりにも理想……! ああいうのを探してた」

「わかったわかった。ガーネット、荷物を自分の部屋に運んで」

 荷物といっても、服が入ったバッグが数個あるだけで、ガーネットの持ち物はほとんどない。

「良かったじゃないか、素敵な人と出会えて。彼氏になってくれるかはともかく」

 台所で、食器を片付けていたアキラが笑った。リリーの夫で、ガーネットの父親である。

 青髪に大きな青の瞳の少年は、小柄で、食器棚の上に片付けようとして椅子を引き寄せた。椅子に乗って、食器棚に皿を収める。

「この国には引っ越し屋さんみたいなのはないんだな……。コンビニもないし」

 リリーとガーネットが闘技場で遊んでいる間に、荷物を解き、ベッドを整え、食材を買ってきてスープを作ったりと忙しく家事をこなしていた。

「明日も闘技場行っていい?」

「別にいいけど、お金はあるの?」

「今日の払い戻しを賭けるから」

 男にハマるのはいいけど、ギャンブルにハマるのはどうなのかな。

 一抹の不安を感じながら、アキラはかまどに火を入れ、スープを温め直した。



 翌日、ガーネットは一人で闘技場へ出かけた。受付で、ラグネルの試合があるか確認する。昔は剣闘士だったに違いない、筋骨隆々とした受付に話しかける。

「今日は夕方に一試合あるだけだ」

「昨日の受付の子は? 今日はムキムキなのね」

「俺はここのオーナーだ」

「そうなのね、ごめんなさい。お弁当作ってきたんだけど渡せるかしら」

「あー、お嬢さん、外部の人間からの食べ物は受け付けてないんだ。毒が入ってるかもしれないからな。契約してるところで食事は準備してる」

 金がかかっている以上、貶めようとする輩もいるだろう。納得し、弁当を渡すのは諦めた。

 その業者は毎日、闘技場の客にも弁当を売っていると教えてもらった。


 闘技場からほど近いところに、マリー食堂はあった。働かせてくださいとガーネットは頭を下げた。闘技場で売り子をすれば、試合はいつでも見られる。試合の日程なども確認できるだろう。

「じゃあ、今日から売り子をしてくれるかい?」

「まかせて」


 弁当を売りさばき、あっという間に日が暮れた。なんとかラグネルの試合に間に合い、賭け金を払い、立見席に駆けつける。

「三番さん頑張ってー!」

 精一杯張り上げた声に、ラグネルが振り向いた。


「あいつ……。昨日の」

 一番後ろの席から、飛び上がって手を振っている。


 本当に、今日も来たのか。

 軽く手をあげ、声援に答える。

 闘技場では、基本的に飛び込みの客が相手になる。

 自分のランクを上げるために、格上の相手に試合を申し込むことがあるが、毎日出場するわけではない。勝てば賞金が入るが、いつ出場するかは本人たちの自由だ。

 安定収入を得るために、多めに出場することもできるが、たまたま当たった相手が強くて死ぬこともある。

 降参すれば試合は終わる。しかし戦士は負けを認めたくない生き物で、無理をして命を落とす者も多い。

 無理をしないことと命を大事にが、職業として剣闘士を長くやるコツだ。


 今日の相手は、飛び込みの剣士だ。

「国一番の斧使いに挑戦できるなんて光栄だ」

「そっか。あんがとな。腕を一本ぐらいで勘弁しといてやる」

「ほざけ!」

 繰り出された剣撃は意外と鋭く、斧を引いてかわす。

 たぶん俺より若いんだろうなと、素早い身のこなしに感心する。流れるような二打目が頬をかすめる。かわしたつもりだったが、足首を蹴られ、よろめく。

「うおっ」

「もらった!」

 体のバランスが崩れたまま、左手に装備した盾で、相手の剣を打ち払った。

「ぐっ……!」

「……悪いな」

 体勢を立て直し、奪った剣で、軽く切り払う。殺すほどの強敵でもない。再度、盾で頭を殴り飛ばして、気絶させた。

 

「勝者ラグネル!!」

 審判を兼ねるオーナーの声が響く。歓声が湧き上がる中、控室に引き上げた。



「お疲れ様、今日も勝ったわね」

「おう、昨日のお嬢ちゃん。なんで控室にいるんだ」

 昨日とは違う、メイドの制服っぽい赤いワンピースを着ている。

「マリー食堂で弁当の売り子を始めたの。毎日あなたに会えるから」

「俺のために? 応援してくれてありがとな。後ろの方にいただろ」

「もう前の席はいっぱいだったの。さっきの試合もとても良かった、よろけたふりして盾で殴って気絶させた」

「あれは本当によろけたんだ」

「斧が痛むのを気にして、気絶だけで済ませたんでしょう」

「……なんだって」

「骨を切ると、刃が痛むから」

「おい、お嬢ちゃん。あの後ろの席から、俺の斧が見えたっていうのか」

 今まで、客から斧の心配をされたことはなかった。

「光の反射よ。傷んでる刃は反射が乱れるの」

「……」

「今日もあなたのおかげで、倍になったわ。ありがとう三番さん」

「ラグネルだっつってんだろ」


 ひらひらと手を振って、ガーネットは帰っていった。

 俺を見に来る街の女たちは、武器がどうとか言ってきたことはない。おそらくまだ12、13歳だろう。どこでそんな知識を得たのだろう。

 そんなことを考えながら帰路につく。


「おいラグネル」

「あ? なんだお前ら」

 自宅近くの路地で、男たちに声をかけられた。

「まぐれ勝ちしやがって。お前のせいで大損だ」

「賭け事は自己責任だろ。俺は仕事をしただけだ」

 読みが外れた腹いせに、剣闘士に文句を言う連中は後を絶たない。短剣だの棍棒を持っているが、職業として剣闘士をやっている相手に、そんな装備で大丈夫かと言いたくなる。

「みんなやっちまおうぜ!」

 その時、後ろからカツカツとヒールの音が迫ってきた。

「何してるの!」

 ほうきの柄で、数人の頭を殴り飛ばす。

「なにしやがる!」

「うるさいわね」

 ほうきの柄で相手の首を殴りつけ、息が詰まったところで、胸を突く。

「ぐ……はっ」

 さっきのお嬢さん、だ。

「三番さん、無事? 大丈夫?」

「おう……。ありがとう」

 さっさと消えろ、とお嬢さんは暴漢どもの股間を蹴り上げた。

「賭け事で負けたから、剣闘士を襲うなんて。ひどいことするのね」

「……お嬢ちゃん、強いんだな……」

「ちょっとだけね。それじゃまた明日」

「待て待て、女の子を一人で帰せないだろ。家まで送る」

 さっきの連中と鉢合わせしないとも限らない。助けてもらったのは自分の方だし、家族に礼を言わねばならない。

「お手をどうぞ。……ほうきは俺が持つから」

「……」

 じゃあと、差し出した手を、彼女はおずおずと握り返した。   

「お嬢ちゃん。お名前を伺っても?」

「……私は……ガーネット」




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