第十九話 アキラの目的
年上から父上って呼ばれるの、いいですよね
言われたことないけど。
※誤字直しました 2024/09/18
ラグネルは船の揺れで目を覚ました。部屋に窓がないため、時間がわからない。
廊下に出てみると、すでに起き出している人々が食堂に向かっていた。
朝食はガーネットと一緒がいいだろう。顔を洗い、甲板に出てみると、まだ薄暗い中、運動をしている一団がいた。その向こうにアキラの姿を見つけた。
「おはようございます、ラグネルさん」
アキラが気がついて右手を上げた。
「おはようさん。もう親子になるんだし、敬語でなくていいぜ。俺はなんて呼べばいい? 父上とか親父殿とか」
「年上に父上って呼ばれるの、すごく……、イイですね……。でも、アキラでいいですよ」
「そっか。じゃあ俺のこともラグネルでいい」
「わかりました」
もうすぐ夜明けです、とアキラが水平線を指さした。
「船旅はあんまりしたことなくてな。なんでカルコスに行くんだ」
「ああ……。食料をまとめ買いするのと、あなたの斧を直せるかもと思って」
「なんだって?」
「あの斧は、カルコスの物ではないかと。もしあなたの故郷がカルコスなら、きっとお父上のお師匠がいたと思うんです。それなら直せるかもしれません」
「それだけのために?」
食料なら、きっとラウネル王国でも調達できるはずだ。斧だって、気にいる気に入らないかはともかくとして、ラウネル王国で探したっていい。
「……あなたは、リリーが作った炎の斧を使えた。素質があります。僕たちと同じ。ですが、もともとの斧は、あなたの父親が打ったものです。ですから、斧を直して使ってほしいんです」
「なんの素質だ」
「神々の石を使える器」
「石を使えるからって何ができる?」
「神々の力を使えるようになります。この大地の無限の力を」
「……」
振り返ったアキラの表情は、登ったばかりの太陽の光で影になり見えない。
「リリーは、黒百合の女神の力を使えますが、使いこなせないんです。あまり興味がない。ガーネットは僕と同じ、精霊ガレの力を使えます」
世界を支配したいとか、だいそれた望みを持っているわけではありません、と笑う。
「状況に支配されるのではなく、抗う力があれば、誰もあなたを脅かさない。僕たちが望んでいるのは、平穏で、安定した暮らしでしょう?」
「……確かに」
「あなたはきっと新しい器になれる」
「なぜ言い切れる?」
「一度、成功しているから」
それは、ガーネットのことだろうか、と彼女の父親を見つめる。
親子というには、年が近すぎる気がする。リリーとガーネットが魔女という事実を踏まえれば、アキラが別の能力を持っていても、おかしくはない。
「僕は、この世界で、自分の常識が役に立たないことを知りました。だったら、常識は壊してもいいんです。自分が思う限界も、幻想なんですよ」
「……ごくごく、常識的な能力の戦士には、耳が痛いよ」
「それは、今現在の話です。これから強くなればいい。かつて、僕が言われたことです」
セティスに命を狙われているし、幾度も戦いを乗り越えてきたのだろう。
「僕は、リリーを守りたい。セティスは別の神の守護があり、容易に倒せなくなってしまいました……」
セティスは、シャルルロア王国の、前の女王の弟。ダイアモンドナイトの力を引き継いだ。
「石自体は遠くにあるのですが……。執着がすごくて」
「あいつは、ガーネットを恨んでるようだが」
「ガーネットと僕を、両方恨んでいるんです。姉である女王の求愛を突っぱねたリリーのことも。死ぬまで追ってくるでしょう」
女が好みの女王も、そりゃあいるだろう。
詳しいことは、リリーも含めて聞いてみよう。
一方だけの話を鵜呑みにするのは危険だから。
「安心しろって。俺もいる」
「ラグネル」
「俺がその器かはわからねぇけど、俺達はもう家族だろ。助けるよ」
朝飯にしようぜ、とラグネルはアキラの手を引いて、歩き出した。
きっとラグネルは、新しい器に成り得るだろう。誰かを救うために力を尽くす優しさ、それこそが魔法だから。
「リリーは起きて来ないでしょう。ガーネットを呼んできてください。食堂で待ってますね」




