第十四話 復讐のセティス
バトル回です
「あなたがそういうなら、してあげてもいい」
暖炉の火の前で、彼の手が髪を撫でた。これは、もう一押しすれば、いけるのでは……。
目を閉じて彼の腕に寄り添う。顎に指が触れるのがわかった。
ドン!!
玄関が激しく叩かれ壊れそうな音を立てている。飛び上がって振り向きざまに、ラグネルは斧を手に取った。
「誰だッ」
ラグネルが外に向かって呼びかける。
さっきの連中だろう。ドアが破られそうな勢いだ、逃げようと彼の手を引っ張った。
「逃げましょ!」
窓を開け、夜の闇の中に飛び降りる。
「ガーネット!」
「私のことを嫌いにならないでね」
彼のシャツでは大きくて動きにくい。シャツを捨て、いつもの黒いワンピースに一瞬で変身した。そのままロッドを振りかざし、ゴーレムを作り出す。
「なっ……」
「大丈夫よ飛んで!」
「……おう!」
赤いガーネットの巨大なゴーレムの手のひらに、ちょうどラグネルは着地した。
「なん……だと……」
「しっかり捕まっててね」
雨の市街を城門に向かって走り出す。追手は三人、同じローブ姿だ。同じ体格、身長。 操り人形だろう。このゴーレムを見て驚いていない。雨の中をどこまでも追ってくる影に向き合う。
「私を誰だかわかってる?」
「もちろん。会いたかったよ」
ローブを脱ぎ捨てると、見た顔が現れる。
「久しぶりだねガーネット」
「セティス、しつこいよー」
元カレとか思われたらどうしよう、と後ろを見る。ラグネルがいないところで始末したいけど、逃げるのも逃がすの無理そうだ。
「ガーネット、アキラは元気?」
「……」
「ダイアモンドナイトを返してもらう」
「……」
「友達だと思っていたのに。悪魔め」
黙っていればつけあがりやがって。
ロッドを振りかざす。
「黒百合の女神に敵対したあなたたちが悪い。……好きな人の前で悪魔とか言われるの迷惑なんだけど。嫌われたらどうするのよ」
城門から出ているし、存分に暴れられる。しかし、そんなことを言っている場合ではない。
「ラグネル様、その手の中から出ないでね。私が守る」
雨のせいで、足元がぬかるんでいる。
セティスは人形師、時間をかければ不利だ。
「幻影を愛した僕がおろかだった」
「幻じゃないわ。私はここにいる」
「魔女め。我らの女神を返せ」
「それは私が決めることではないわ。でも、その口は塞いであげられる。永遠にね」
この街を出ないといけない。
気楽な弁当屋で働いていたかった。
「暁の魔女ガーネットが命じる、炎よ舞え!」
精霊を呼び出し、飛び出した火の玉がセティスの両手を包みこんで燃え上がる。
「ぐわぁ!」
糸で繋がったローブが燃え、中の人形が燃え上がり、倒れた。
「描かれし者よ、我に従え」
自分と同じ大きさのゴーレムを出現させ、攻撃する。頬を殴られたセティスが吹っ飛んだ。
追撃の一打をかわし、セティスはもう一体の人形を操り、剣で切りつけてきた。
「甘いわ」
ゴーレムの良いところは、土があれば無限に生成できるところだ。泥で剣を包みこんでへし折る。
「……ぐッ」
「どこがいい? 耳か首か腕か。選ばせてあげる」
ロッドを振り、ガーネット製の深い黒みがかった赤ゴーレムを作り出す。硬くて頑丈なお気に入りだ。自分の顔で作るのだから綺麗な方がいい。
「もう諦めてよ。アキラはリリーと結婚したし、私にも彼氏がいるのよ」
「……お前は、僕から全て奪った」
「恨むなら自分の姉を恨むことね。リリーは奪われたものを取り返しただけよ」
ふらふらしているがセティスはまだ戦意を失っていない。
諦めていない。
何かしてくる。
赤ゴーレムで襲撃者を取り囲む。
捕獲してアキラの判断を仰ぐか、このまま殴って潰すか。
ラグネルの手前、乱暴に始末するのは避けたい。
どうする。夜が明ける前に決着をつけたい。
「ガーネット! 後ろ!」
ラグネルの声が叩きつける雨を切り裂いた。猛突進してきた大きな犬のような魔物が、足に噛みついている。
「ぐぅっっ……!!」
「死ぬのはお前だ。お前が死んでもアキラがいればいい」
セティスの右手から繰り出されたナイフが、脇腹に突き刺さった。
「……それが、なに?」
頬を殴り返し、距離を取る。そのままセティスは走り出した。
「待て!」
ラグネルが、ゴーレムの手の中から、斧を投げつけた。セティスが操る人形に当たって、折れた。
「逃さないわ……、ぐっぅ……」
追っていたガーネットが地面に倒れ込んだ。その隙にセティスは姿を消した。
「ガーネット! 街に戻るぞ」
ゴーレムの手の中から抜け出したラグネルは、ガーネットを抱きかかえて走り出した。




