第十三話 仲直り
ラグネルと話していいとアキラが伝えたことで、ガーネットははりきって仕事に行くようになった。リリーは、アキラの甘さを笑ったが、好きにしたらいいと、自分の仕事に戻っていった。
この日は、マリー食堂に仕出しの注文が入っており、ガーネットはずっと鶏肉と芋を揚げていた。注文の料理を届け終わったのは、すでに日がくれていて、おまけに雨が降り出した。
帰りが遅くなったら、馬車を呼んでもらえと言われてはいたが、今日は店から離れた貴族の屋敷から直帰だ。
まあ大丈夫だろう、と傘を差して歩き出したのがまずかった。
「弁当屋だな」
答える前に囲まれた。全員が黒いローブを纏っていて、顔が見えない。
背中に走る痛みに思わず叫んだ。
「っ!?」
何かで殴られた、が、痛みで体が動かない。棍棒か、あるいは槍の柄か。
油断した、と振り返る余裕もない。髪を強引に掴まれ、顔を覗きこまれる。
「銀髪に紫の目の女、依頼された通りだ」
全員が仮面をつけていて顔は分からない。だが、心当たりならある。
全員片付けようと右手に力を込めたその時、
「おい何してる! その女を離せ」
ラグネルの声に振り返る。
斧の刃から吹き出した炎が、襲撃者たちを追い払った。
「おい大丈夫か、なんでこんな時間に一人で」
「配達の帰りだったの……、ありがとうラグネル様」
「怪我してないか」
「大丈夫、話せて嬉しかったわ。帰るね」
「おい待てって、背中叩かれて大丈夫なわけねえだろ。ほら」
手を取られて立ち上がるも、バランスを崩して寄り掛かる。
「痛いんだろ。無理するな」
脇から手を入れて、ひょい、と抱え上げられた。強くなった雨に打たれながら、家まで運ばれた。
ラグネルの部屋は二階で、お姫様抱っこをされたまま運ばれる。
すぐに暖炉に火を入れて、「これしかないけど」とシャツを渡される。後ろを向いたまま、
「この街は人さらいが多いんだよ。奴隷として売れるから。一人で歩くな」
と叱られる。
「人さらい……。そうね。片付けてしまえばよかった」
「お前が強いのは知ってる。でも心配しちゃ悪いのか」
「そんなこと……ないけど」
大きいシャツを羽織って、濡れた制服を暖炉の前で干す。
「危ない目に遭ってほしくねえし、人を殺さないでほしい。自分を大事にしろ」
「ハダカ同然の女の子に言うセリフ?」
「ああ。男女の仲にも順序ってモンがあるだろ。……仲直りしようガーネット」




