171-175
171記憶の夕べ
まっすぐな道を
蛇行する
曲がりくねった道を
直行する
ぼくの感情を
ぼくは知らない
知らない感情を
ぼくは知っている
記憶の夕べ
未来の真昼
夜は帳を下ろし
迷路な眠り
ボタンの数と穴の数が
合わない
そんな服を着たような
裸婦に似て
172朝、パンを口にするように
階段を登った先に
月がある
朝、パンを口にするように
太陽がある
太陽でも
月でも
無い何かは
川に流されている
水辺で
子どもが遊んでいる
近くで
小魚は
避けている
子どもでも
小魚でも
無い何かは
空で転んでいる
173バターを塗るように
からっぽな空に
感情は満ちて
満ちた空に
感情はからっぽで
カラスと鳩が作曲する
空間的な音楽は
流動性固形物質
バターを塗るように
空は青く
赤い月が出ている
ゴッホが
ごっほんと
咳をする
ゴッホの絵は
売れていない
花売りの
売り子は
歌いながら枯れた花を
売る
174バナナチップス
元気に泣く
悲しく笑う
怒りに任せて方程式の解がある
腹式過呼吸
おやつに
バナナチップスは
入らない
遠足だから
手は近い
175老紳士
白鳥の子は
アヒルに育てられ
成長して
アヒルを醜く見下す
優越感という昼食
午後
雨が降って
白鳥もアヒルも
ずぶ濡れになって
レインコートを着た
老紳士が杖で
雨だれる水面を
コツコツと
鳴らす