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9.策謀の影

ラーカンが薬剤室に私を迎えに来てくれた。彼はドアを軽くノックし、中を覗き込むと一瞬だけ戸惑った表情を見せた。その後、落ち着いた歩調で私の方に歩み寄ってきた。


「王女殿下。先程、昼食を抜かれていると宰相が探し回っていますよ。」ラーカンは優しく私に声をかけた。


「あ!!忘れてた!!」


ラーカンはスティグルを少し睨みつけ、彼の意図を探るような鋭い目を向けた。その視線に対して、スティグルは冷静なまま応じた。


「私は協力関係にあります。怪しまないでください。」スティグルは穏やかな口調で言った。


ラーカンはスティグルの言葉に一瞬ためらいながらも、深く息をついて頷いた。その後、私の方に視線を戻し、優しく微笑んだ。


「では、殿下。宰相が心配していますので、急いで戻りましょう。」


ラーカンが私の腕にそっと触れ、薬剤室の出口に向かって私を導く。私たちが出口に向かって歩き出すとき、スティグルが背後から静かに見守っているのを感じた。その目には一瞬だけ切なさが浮かんでいた。


私がラーカンと共に薬剤室を出ると、彼は一瞬私の顔をじっと見つめた。


「殿下、彼は本当に信頼できるのでしょうか?」


私は一瞬考え込んだ後、微笑んで答えた。

「ここ数日間、私があそこに通ってても無事でしょ? スティグルは信頼できるわ。」


ラーカンはしばらく黙って私を見つめ、深く頷いた。

「分かりました、殿下。ですが、気をつけてください。私たちは常に監視されています。」


「分かってるわ、ラーカン。ありがとう。」


ラーカンと共にしばらく廊下を歩きながら周囲の景色に目をやった。薬剤室から離れるにつれ、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。廊下の大きな窓から差し込む陽光が温かく感じられた。


「昼食の時間が微妙になっちゃったわね…おやつの時間だわ。」とつぶやきながら、食堂に向かって歩き始めた。


その時、壁に掛かっている時計が視界に入った。時計の針は既に昼食の時間をとっくに過ぎていることを示していた。


「軽食を部屋に運んでもらうようにしようかしら…」


私は歩みを止め、少し考え込んだ。時間がずれてしまったことを思い、軽食を部屋で取ることに決めたその瞬間、重厚な足音が近づいてくるのが聞こえた。


振り向くと、宰相バルサザール・クロウリーが私のもとへとやってきた。彼の歩き方は威厳があり、一歩一歩が静かに廊下に響いていた。


「王女殿下。お時間よろしいでしょうか。」バルサザールの冷静な声が廊下に響いた。


「あ…」


私は一瞬戸惑いながらも、微笑みを作って答えた。


「バルサザール、どうしたの?」


バルサザールは私を見つめ、軽く一礼した。


「お昼食を取られていないと聞きましたので、ご様子を伺いに参りました。」


「あぁ…ちょっと立て込んでいて忘れてたの。」


「それならば、食堂でご一緒にいかがでしょうか?お話ししたいこともございます。」


「そうね、軽食をお願いしようと思っていたところよ。ありがとう。」


バルサザールは軽く頷き、手を差し出した。


「では、参りましょう。」


――私、今バルサザールと手を繋いでるぅぅ!!あぁ…幸せ。推しと手を繋いで歩いてる…。お姫様扱いしてもらってる!!って、私お姫様なんだった…。ずっとこんな日々が続けばいいのに。どうして悪事を働こうとするかなぁ。


バルサザールの手は温かく、しっかりとした握りが私に安心感を与えた。彼と歩いている間、私は彼の側にいることの幸福感に浸りながらも、心の奥底で彼の意図を探っていた。彼の優雅な歩き方、柔らかな微笑み、その全てが私を魅了しつつも、彼が隠している秘密を知りたいという思いを強くさせた。


食堂の扉が見えてきた。バルサザールは私の手を優しく離し、扉を開けて私を先に通した。私を椅子に座らせると、すぐに食事が運ばれてきた。その整った配置と温かい料理を見て、事前に用意させていたことがわかった。


「それで話って?」私は微笑みを浮かべつつ、バルサザールに問いかけた。


ラーカンは扉の前に控え、警戒を怠らないように立っていた。


バルサザールは私の隣に座り、穏やかな表情で話し始めた。

「殿下、最近のご体調はいかがでしょうか?」


「体調は…問題ないわ。」


「それは何よりです。」バルサザールは優しく微笑みながら、続けた。「ただ、私たちには今後の計画について話し合うべきことがあります。」


「計画?」


私は疑問の色を浮かべ、彼の目を見つめた。


「はい。王がアナタの婿を探しておりました。先日の事件で、早々に王女殿下には信頼できる伴侶が必要だと考えているようです。」


「婿…?そんな話、一度も聞いていないわ。」


――婿って何ーー!?ゲームではそんな話なかったじゃない!!ヒロイン視点しか知らないから当たり前か。でも、よく考えてみれば、毒やら公爵の悪事やらでまともな思考を持っていなかったんだし、ここまで話が発展することもなかったわね。


「それもそのはずです。王は慎重に事を運ぶため、まだ公式に発表していないのです。しかし、近いうちに候補者が王宮に招かれる予定です。」


彼は優雅に微笑みながら、私の反応を見守っていた。


「そんな…急すぎるわ。」


「殿下、ご心配は無用です。王はあなたの幸せを何よりも優先しています。ですが、この機会を逃すわけにはいきません。」


私は食卓を見つめ、心の中で考えを巡らせた。バルサザールの言葉には一理あるが、その裏に何か意図が隠されているように感じた。


「バルサザール、あなたはこの計画についてどう思っているの?」


彼は少し考え込み、慎重に答えた。

「私は、隣国のチュニックスの第二王子等がよろしいかと…。」


そう言われてチュニックス王国の第二王子のことを思い出してみた。白髪の私と同い年の彼はとても人見知りで、パーティーでも何かに怯えているかのように柱に隠れていた。チュニックス王国の象徴ともされる白色の瞳にはいつも涙が溜まっていた。


――って操りやすいだけじゃない!!


「他国の殿方でないといけないのかしら?例えば…重役の方々とか?」


バルサザールは微笑みを浮かべて首を振った。


「何をおっしゃっているのですか、殿下。重役の方々は年寄りと既婚者ばかりで、一番若い私でさえも殿下より一回りも年上です。」


その言葉に私は一瞬考え込んだ。バルサザールが言っていることは確かに理にかなっているが、何か違和感を覚えた。


「でも、私は自分の意思で決めたいのです。他国の王子であろうと、重役であろうと、私の伴侶は私が選びたい。」私は真剣な表情でバルサザールに伝えた。


バルサザールは深く頷き、私の言葉を尊重するように見えた。


「かしこまりました、殿下。王と相談し、あなたのご意思を伝えます。」


その夜、考えなければいけないことが山ほどあった。まず、専属侍女を探し出さなければならなかった。誰の息もかかっていない、自分だけの専属侍女。使用人も同様だ。今からでは時間がなさすぎる。私が幼ければ、孤児を拾って育てたのに…。孤児に近い人、つまり貧困で困っている人に返せない恩を売って側に仕えてもらうしかないわね。素人の頭じゃ厳しい!!これは明日スティグルと考えるとして、後は…私の被害者ね。被害者、被害者…。誰に何をしたのよ~~この王女様は~~~!!横暴なこと…横暴なこと…。


私は頭を抱えながら、幼い頃の記憶をたどった。スティグルとの関係がこじれた後に、ウルスウドラという少年を支配していたことを思い出した。彼は闇社会のボスとして成長したが、私の横暴な行為がその原動力となったのだろうか。どれだけ業が深いのよ身体は…。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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