外伝③
朝日が窓から差し込み、私は目を覚ました。起き上がると、自分があられもない姿であることに気付き、床にはスーツが脱ぎ散らかっていた。隣には、バルが私を抱きしめながら穏やかな表情で眠っていた。
――そっか、あの後バルと……って!!仕事!!!
急いで起き上がろうとした瞬間、太ももやふくらはぎ、さらには股関節あたりに筋肉痛のような痛みが走り、驚いてしまった。
――えぇ!?ルナティアナの体だった時は余裕だったのに…。な、軟弱過ぎる私の体!!
焦りながらも体を動かそうとすると、痛みが全身に広がり、思うように動けなかった。脱ぎ散らかされたスーツはシワだらけで、すぐに着替えるのは無理そうだった。
――スーツも皺になってそうだし、仕事間に合わないなぁ…
時計を確認すると、出社時間が迫っているのに気づいた。焦りと戸惑いで頭がいっぱいになりながらも、どうにかして状況を整理しなければと思った。バルの腕の中から抜け出すことさえも難しい状況に、私は一瞬途方に暮れたが、心の中で小さく息をついた。
「バル、起きて。私、仕事に行かないと…。」
バルは少しだけ目を開け、まだ眠そうな声で答えた。
「ん……。仕事なら心配いりません。」
「へ?」
「瑠那が寝てる間に派遣会社に電話しておきました。」
「えーーーー!?」
驚きのあまり、私は思わずバルの肩を掴んで揺さぶった。
「どどどど、どういうこと!?どうして私が派遣社員って知ってるの!?」
バルは微笑みながら、私の動きを優しく制止した。
「あっははっ。瑠那、朝から激しいですよ?」
「朝から冗談言ってる場合じゃないよぉ!」
バルは私の手を取り、手の甲に優しくキスをした。その瞬間、私の心の中に少しずつ落ち着きが広がった。
「落ち着きなさい?」
「う…。」
バルの優しい声と温かい仕草に、私は少しずつ冷静さを取り戻した。
「本当に心配しなくていいんです。すべて手配済みですから。今日は二人でゆっくり過ごしましょう。」
――で、できる男過ぎる…。
バルは私の後頭部を片手で優しく掴み、引き寄せてキスをした。その瞬間、私の心臓はドキドキと高鳴り、全身が熱くなるのを感じた。彼の唇は温かく、優しさと情熱が溢れていた。
彼のキスに応えるように、私は目を閉じてその感覚に浸った。バルの手が私の背中を撫でる度に、心の奥底から幸せが湧き上がってくるのがわかった。
「仕事…続けたいですか?」
「え?」
「私としては、あなたが専業主婦として私の側にいてくれることが何よりも望ましいと言ったら…あなたを困らせてしまうでしょうか?」
彼の声は低く、甘く、私の心を痺れさせるようだった。彼の瞳は私を深く見つめ、その中に強い独占欲がはっきりと浮かんでいた。
「ううん、バルだもん。大丈夫、困らない。」
「本当ですか?私はあなたが他の誰にも触れられず、私の存在にのみ集中してくれたら、それが私の独占欲を満たします。あなたを完全に支配し、全ての時間を私だけのために捧げてもらうことが、何よりも甘美な喜びです。」
――お、おおう。転生して拗らせてる?とりあえず肯定しておこう。
「わかった。それでいいよ。」
バルは少し悲しそうに微笑み、静かに言った。
「……私は…ダメな男ですね。」
――確かにヤバイ人だけど、何の魅力もない私は拒むことすらおこがましいんだよね。それに何より私のこと大事にしてくれて愛してくれてるし。
「ううん。そういうところもちゃんと好きだよ。」
私の言葉に、バルは一瞬驚いたような表情を見せたが、次の瞬間には優しい笑みがその顔に広がった。彼は私を強く抱きしめ、その温もりが私の心に深く染み渡った。
そして、彼は私の顔に手を添え、唇を重ねてきた。最初は優しく、次第にそのキスは深く、熱を帯びていった。バルの息遣いが近くに感じられ、そのしつこいほどのキスに、私は全てを委ねるように身を預けた。彼の舌が私の口内を探る度に、体が震え、心臓が早鐘のように鳴り響いた。
彼の手が私の背中を撫で下ろし、その触れ方にさえ彼の深い愛情と欲望が感じられた。私たちは時間の感覚を失い、ただお互いの存在を確かめ合うように、長い間そのままの状態でキスを続けた。
――まぁ、いっか!私好みだし!!
私はそう確信しながら、バルの抱擁の中でその瞬間を堪能した。
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―――――
その後、二人は一緒にお風呂に入り、リラックスした時間を過ごした。お風呂から上がると、バスローブをまといながらリビングのソファーに腰を下ろした。
「そういえば、バルのご両親ってどうしてるの?」
私はふと気になって尋ねた。バルは一瞬だけ考え込んだ後、軽く笑った。
「あぁ、両親は…置いてきてしまいました。」
「え?どういうこと?」
バルの言葉に、私は驚いて聞き返した。彼は少し遠い目をしながら、ゆっくりと話し始めた。
「生まれつき大人だったので、話せるようになった時に賭けをしたんです。私が、もし大金を稼いだら、親子の縁を切ってほしいと。」
「どうして?」
バルは微笑みながら、私の手を優しく握りしめた。
「アナタに苦労をさせたくなかったからです。この世界に生れ落ちてすぐに、アナタのいた世界だと分かりました。アナタが話してくれた童話や、雑貨用品など全てがありましたから。唯一存在しなかったのは、バルサザールというキャラクターが登場する乙女ゲームだけだったんです。」
彼は少し間を置いて、続けた。
「私はそのゲームがいつか発売されると信じていました。それまでに、その会社に入社する準備をし、アナタとの未来を思い描きながら資金を蓄えていました。全てはアナタのために。両親には大金を渡しておいたので、彼らの心配は無用です。彼らには私を生んでくれた感謝の気持ちを十分に示しました。」
彼の話を聞きながら、私は彼の決意と努力に心を打たれた。バルがどれほど私のことを思って行動してきたのかが、痛いほど伝わってきた。
――こんなにしてくれてるのに、私は何もできていない…。ならせめて、バルの心を満たしたい。
「前の世界で知ってると思うけど、私も両親はいないの。だから、すぐに結婚できちゃうね!」
バルは驚きと喜びが混じった表情で私を見つめ、その瞳には深い感動が宿っていた。
「良いのですか?こんな私で。一生、逃がしてやれませんよ?」
「逃がす気もないくせに何いってるの?でも…そっか。バルと私、今は同い年なんだよね?ということは、30年も一人にさせちゃったんだね。」
私はバルを抱きしめて頭を撫でた。その瞬間、彼の体が微かに震えるのを感じた。バルは珍しく泣いているようで、私が離れようとしても抱きしめて離してくれなかった。彼の肩越しに見える彼の背中は、強さと同時に深い孤独を感じさせた。
きっと泣き顔を見られたくなかったのだろう。そんな彼の姿に、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。
「バル…ごめんね。でも、これからは一緒にいるから。」
その言葉にバルはさらに強く私を抱きしめ、私たちはしばらくそのまま、互いの温もりを感じながら寄り添っていた。
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