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共に断罪処刑される悪役宰相は私の最推しです!!  作者: 無月公主


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外伝①

チク…タク…チク…タク…時計の秒針の音が部屋に響いていた。


――嘘、嘘、嘘、嘘、嘘…こんな形で…帰りたくなかった。


止まらない涙が頬を伝い、私は布団の中で膝を抱えた。現実の世界に戻ってきたのは、まるで夢から現実へと引き戻されたかのような衝撃だった。部屋の静寂が、私の心の中の孤独感を一層際立たせる。


――バル…。



私はバルと共にアルトハイム公爵領を治め、三人の子宝にも恵まれて幸せに暮らしていた。バルにそっくりな長男、私に似た長女、そして二人を足して二で割ったような次男。三人とも元気にすくすくと育ち、私とバルはシワシワのお婆さんとお爺さんになった。子供たちは立派に成長し、やがて孫や曾孫の顔まで見ることができた。


私たちは満足感に包まれながら、幸せの中でゆっくりと老衰していった。


――聞いてない。どうして現実世界に戻されるの?全て…私の妄想だったの?



スマホの電話が鳴り響いた。手を伸ばして取ると、画面には上司の名前が表示されていた。心臓が一瞬跳ねるが、そのまま応答ボタンを押した。


「もしもし?」


池末(いけすえ)!今日何してるんだ!?仕事に来てないってどういうことだ!?もう何度目だと思ってるんだ!」


上司の怒りの声が耳に響くが、私はその声をぼーっと聞き流していた。現実世界に戻された喪失感が胸に重くのしかかり、上司の叱責が遠く感じられた。まるで、別の世界から聞こえてくる音のように。


しばらく生きる気力を失った私は、ただぼーっとして日々を過ごしていた。何日が経ったのかもわからないほど、時間は無意味に過ぎていった。体は痩せ細り、心は虚無感に包まれていた。


ある日、家のチャイムがしつこく鳴り響いた。最初は無視していたが、そのしつこさに苛立ち、渋々と立ち上がり、玄関に向かった。体は重く、足を引きずるようにしてドアにたどり着いた。


ドアを開けると、買い物袋を提げたスーツ姿の男性が立っていた。短髪で整った顔立ち、そして落ち着いた雰囲気が漂っている。


「わたくし、エイビーゼットの名取 昴(なとり すばる)と申します。」


その声を聞いた瞬間、私は顔を見上げた。心の奥底で聞き覚えのあるその声は、ずっと毎日身近で聞いていた声だった。胸が高鳴り、涙がこみ上げてくる。


「ば…る?」


驚きと戸惑いが混じった声を出すと、フラフラとした体で彼に近づいた。昴は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに優しい微笑みを浮かべ、私を支えるために手を差し伸べてくれた。その手の温もりに触れた瞬間、涙が止まらなくなった。


「ずっと探していました、瑠那さん。」


彼の言葉に、私は夢ではないことを実感し、崩れるように彼の胸に飛び込んだ。涙が頬を伝い、胸の奥に閉じ込めていた感情が一気に溢れ出した。


「どうしてここに…?」


「あなたを探していたんです。どんなことがあっても、あなたを見つけ出すと誓っていましたから。」


彼の言葉に、私はさらに涙を流しながら、彼の胸に顔を埋めた。失われたと思っていた世界が、再び目の前に現れた。


「また何も召し上がってないのですか?王女殿下。」


「あの…これは…。」


私は言い訳しようとしたが、言葉が喉に詰まったように出てこなかった。


「上がっても?」


「待って、私、何も…」


「構いません。」


彼は私の抵抗を軽く無視して、部屋に足を踏み入れた。

散らかった部屋の中、放置された食べ物や散乱する衣服に目を走らせる彼の表情が一瞬硬くなった。その姿に、私は羞恥心で顔を伏せた。昴の目がそれを見つめ、眉をひそめた。


「こんな状態では、体に良くありません。どうして、何も召し上がらなかったのですか?」


彼の言葉に、私は何も言えずただ立ち尽くしていた。自分の無力さが押し寄せ、涙がこみ上げてきた。


「これでは、王女殿下が心配で仕方ありません。」


昴は手際よく部屋の片付けを始めた。彼は食べ物のゴミをゴミ袋に詰め、散らかった衣服を一箇所にまとめ始めた。


「昴さん、そんなことしなくていいのに…」


私は申し訳なさそうに言ったが、彼は私の言葉を軽く無視して片付けを続けた。


「まずはシャワーを浴びてきてください。ここは私が片付けますから。」


彼の優しい声に促され、私はしぶしぶシャワールームへ向かった。足元がふらつきながらも、昴の言葉に従うしかなかった。温かい水が体を包み込み、少しずつ心がほぐれていくのを感じた。


シャワーから上がると、着替えの服を持ってくるのを忘れてしまったことに気づいた。バスタオルを巻いて脱衣所に出ると、服と下着がきちんと置かれていた。


――タ、タンスを開けれた…。


ふと洗面台の鏡を見つめる。そこに映る自分の顔は、ルナティアナの美しさには程遠いと感じた。今さらだけど、昴と名乗るバルに会わせる顔がない気がしてきた。トリップした感じはしなかったし、昴さんは整った顔をしているものの、バルとは違った。唯一声だけが一緒だった。


リビングに戻ると、部屋が見違えるほど綺麗になっていた。こんな短時間で…。


「すみません。何も持たずにシャワーへ行かれましたので、勝手に着替えを用意させていただきました。」


昴は申し訳なさそうに頭を下げた。彼の姿に、私は再び胸が締め付けられるような感情を覚えた。彼がバルサザールとは異なる存在であることに気づきながらも、彼の優しさと献身に感謝の気持ちを抱いた。


「ありがとう…昴さん。ほんとに、ありがとう。」


彼は微笑み、優しい眼差しで私を見つめた。


「あなたが勝手に生きる気力を失い、私の目の届かぬところで命を絶つことほど、私にとって困難で厄介な事態はありません。私があなたを守り、支えると誓った以上、その責任を果たすことを妨げる行動は許されません。どうか、自らを大切にし、私の存在を忘れないでください。」


その言葉を聞いて、私は彼がバルサザールであると確信した。心臓がドキドキと高鳴り、涙が溢れそうになる。


「ど、どうして…えっ、待って。私、顔が…ごめんなさい。醜いかも。」


タオルで顔を隠してしまった。自分の姿が恥ずかしくて、彼に見せることができなかった。昴、いや、バルサザールはそんな私に優しく近づき、そっとタオルを引き下ろした。


「もし私が外見だけでルナティアナを愛していたならば、彼女の横暴さや我儘さをも、甘んじて受け入れ、愛情を注いでいたことでしょう。しかし、私はそのような浅薄な理由で心を動かされたのではなく、真のあなた自身に惹かれ、愛しているのです。」


その言葉を聞いて、私は彼の愛の深さを改めて感じ、胸がいっぱいになった。


「どうして…。だって、ここ現実世界…。」


「そうですね。私も瑠那も、向こうの世界では満ち足りた最期を迎えました。しかし、こちらの世界に生まれ落ちた時、私も酷く辛かったです。同時に、その好奇心が上回り、この平和で素晴らしい世界に魅了されていきました。ずっとあなたを探していましたが、見つかるわけもなく、仕方がないのであなたが言っていた乙女ゲームを自らの手で作ることにしました。ゲームの制作には時間がかかりましたが、その甲斐あって、あなたから何通も我が社にメールをいただき、すぐに瑠那だと特定することができました。」


彼の言葉に、私は目を見開いた。心臓が早鐘のように打ち、信じられない思いで彼を見つめた。まさか、バルサザールが現実世界で私を探し出すために、そんなことをしていたなんて…。


「バル…。そんなことまで…。」


「そうです、瑠那。私はアナタを見つけるためなら、どんな手段も厭わなかったのです。迎えにくるのが遅くなってすみません。」


彼の言葉に涙が溢れ、私はそのまま彼の胸に飛び込んだ。バルサザールは優しく私を抱きしめ、温かいぬくもりが私を包み込んだ。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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