6.裏切りの策略と騎士
王宮に帰るなり、宰相バルサザール・クロウリーは私を部屋へ連れて行き、ドアを閉めるとすぐに冷たい目で私を見つめた。
「ルナティアナ王女殿下、あなたという方は、またしても食事を抜かれたようですね。」
彼は深いため息をつき、テーブルの上に並べられた食事を手に取り、私の口に無理やり押し込んだ。
「え、ちょっ…バルサザール…」
――え?え?今推しにあーんってされてるの?私。顔は恐いけど、幸せすぎない!?もう死んでもいい~~。
バルサザールは無表情のまま、次の一口を手に取り、私の口元に持ってきた。
「殿下、あなたの健康は王国にとって重要です。私にとっても、あなたが健康であることが最優先です。」
彼の冷徹な顔と真剣な声に圧倒されながらも、私は心の中で舞い上がっていた。
――これが推しにあーんってされる幸せ?夢みたいだわ。でも、ちゃんとしないと。
「バルサザール、本当にありがとう。でも、自分で食べられるから…」
「いいえ、殿下。今夜は私がしっかりと見届けます。」
彼は一切の妥協を許さない態度で、次の一口を差し出した。
私は観念して、その一口を受け入れた。心の中では、彼の優しさと厳しさが入り混じった行動に感謝しつつ、その冷徹な顔が少しずつ柔らかくなることを願っていた。
「バルサザール、本当に心配してくれてありがとう。」私は口の中の食べ物を飲み込んでから、感謝の気持ちを込めて言った。「これからはちゃんと食事をとるわ。」
彼は静かに頷きながら、ようやく少しだけ柔らかい表情を見せた。
「あなたには健康でいていただかないと困ります。」
しかし、私は心の奥底で理解していた。バルサザールにとって私はただの駒に過ぎない。彼の計画を進めるための駒。彼が私の健康を気にかけるのも、その計画を実行するためには私が健全でなければならないからに過ぎない。
それでも、私はこの瞬間が幸せで仕方なかった。彼の手から食事を与えられるなんて、夢のような出来事。顔は恐いけど、彼の手の温もりを感じられるだけで、私は心が満たされていた。
「これからはもっと気をつけます。」
「それでいいのです、殿下。」
その夜、私は幸せすぎてベッドの上でごろごろと体を転がしていた。バルサザールに直接食事を与えられるなんて、夢のような出来事だった。
――どうしてあんなに色気があるの…。尊い。彼の冷徹な表情と冷静な声…最高…。
私は顔をクッションに埋めながら、バルサザールのことを思い出していた。彼の銀髪が月明かりに照らされる姿、その鋭い青い瞳、そして毅然とした態度。すべてが完璧だった。
――ゲームの運営会社に何回攻略キャラクターにしてくれってメールを送ったことか…。
思い返せば、乙女ゲームの運営会社に何度もバルサザールを攻略キャラクターにしてほしいとメールを送り続けた記憶が蘇る。彼の魅力に取りつかれ、その存在をもっと知りたくて仕方なかった。その思いが今、現実のものとなっていることが信じられなかった。
彼にとって私はただの駒かもしれない。それでも、彼と過ごす一瞬一瞬が私にとっては宝物だ。彼にご飯をあーんってしてもらえたこと、厳しくも優しい(?)言葉をかけられたこと。そのすべてが私を幸せにしてくれた。
しかし、バルサザールに純粋な優しさが存在していないことも私は理解していた。彼の行動の背後には常に計算があり、私を駒として利用しているに過ぎない。彼の計画の一環として、私を健康に保ち、操ることが彼の目的なのだと知っている。
――でも、そんなこと関係ない。彼のそばにいられるだけでいい。彼の人形になれるのって幸せなのでは?
彼にとって私は駒に過ぎないかもしれない。でも、私はその駒として何とかして断罪処刑を回避しつつ、彼の信頼を得るために努力するつもりだった。彼の計画に協力しつつも、彼の冷徹な心の奥に少しでも触れることができるなら、それでいい。
「バルサザール…」私は彼の名前を小さく呟いた。彼の冷徹な顔を思い浮かべながら、その声を心の中で再生した。
――これからも彼の計画の駒としてであっても、彼の側にいられるなら、それでいい。私は彼を支えるために全力を尽くそう。そして、断罪処刑を回避するために策を巡らせ続けよう。
そう心に決めながら、私はゆっくりと目を閉じた。バルサザールとの未来に思いを馳せながら、深い眠りについたのだった。
数日後、ラーカンが王宮に帰って来てくれた。私は早速ラーカンを迎え入れる手続きを進め、彼のために私の部屋の隣に質の良い部屋を用意した。ラーカンが戻ってきてくれたことに安心しながらも、新たな問題がわいてきた。
――バルサザールに恋愛関係にあると思われたら、ラーカンの身が危ない…。
その思いが胸をよぎり、私はラーカンに対して策略を提案することにした。
ラーカンが到着したその日、私は彼に事情を説明するために彼の新しい部屋へと向かった。ドアをノックすると、ラーカンがすぐに出迎えてくれた。
「ラーカン、ありがとう。無事に戻ってきてくれて本当に嬉しいわ。」
「殿下、何があったのですか?」ラーカンは真剣な表情で尋ねた。
私は深呼吸をしてから、彼に全てを話し始めた。
「ラーカン、実は…バルサザールに私たちの関係を恋愛だと思われたら、あなたの身が危険になる。だから、私たちが恋愛関係にないことを装わなければならないの。」
ラーカンは眉をひそめた。
「それは…私が一方的にあなたを追いかけているように見せるということですか?」
「そうよ。あなたが私を追いかけているふりをしてほしいの。そうすれば、バルサザールも警戒しないはず。もちろん、給料も弾むし、できる限りのことをしてあなたの協力に報いるわ。」
ラーカンはしばらく考え込んだ後、深く息をついた。
「分かりました。殿下の安全のためなら協力します。」
「ありがとう、ラーカン。」私は彼の手を握りしめ、感謝の意を込めて微笑んだ。
ラーカンが協力を決意したのは、私の言葉だけではなかった。彼は王と私に毒が盛られた事件を耳にし、その危険性を理解していた。彼の忠誠心と強い意志が、私たちを守るために動かしていたのだ。
翌日から、ラーカンは私を一方的に追いかけている風を装い始めた。廊下や庭で私を見つけると、わざとらしく近づいてきて「殿下、お話があります」と声をかける。私はそのたびに「ラーカン、もういい加減にして」と冷たくあしらうふりをした。
ある日、バルサザールが私たちの様子を見ているのに気づいた。彼の鋭い目が私たちの動きを一瞬たりとも見逃さない。私は内心緊張しながらも、冷静を装い続けた。
「王女殿下、またラーカンに追いかけられているのですか?」バルサザールが皮肉交じりに言った。
「ええ、本当にしつこいの。どうにかならないかしら?」私はわざとらしくため息をついて答えた。
バルサザールは冷たい笑みを浮かべ、「それは困りましたね、殿下。しかし、ラーカンの忠誠心は誰もが認めるところです。もう少し寛容に接してみては?」と言った。
「そうね、考えてみるわ。」私は微笑み返し、その場を去った。
ラーカンは私との密会のたびに「演技が上手くいっているようだな」と言ってくれた。彼の言葉に励まされながら、私はますますバルサザールの疑念を払うための演技に力を入れた。
私たちの演技は次第に効果を上げ、バルサザールの警戒心は少しずつ和らいでいった。
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