58.アルトハイム【終】
私が眠っている間に、エヴァレーンとシュエットは協力し、バルサザールの指揮のもとアグレグレット帝国の皇帝を討ち取った。その結果、広大な帝国の領地を両国の領地とし、その統治を任されることになったのはバルサザールだった。彼はその功績を認められ、新たに【アルトハイム公爵】の称号を授けられた。
シュエット王国の一室で、私とバルサザールはベッドの上で仲良く寄り添っていた。陽の光がカーテン越しに柔らかく差し込み、部屋全体を温かな雰囲気に包んでいた。バルサザールの腕が私の肩にまわり、私の髪をそっと撫でている。その仕草は優しく、安心感を与えてくれた。
「つまり、私はルナティアナ・アルトハイムになるってこと?」
私はバルサザールの顔を見上げ、問いかけた。彼は微笑みを浮かべ、私の瞳を見つめながら頷いた。
「そうです。これからはアルトハイム公爵夫人として、私と共に新たな領地を治めていくことになります。」
「そっか。なんだか、新しい名前って嬉しい。」
バルサザールは私の反応に満足したように微笑んだ。「アグレグレットの皇帝は相当な暴君だったようで、国民たちは喜んで私たちを受け入れてくださいました。それと、腐り切った貴族たちを間引くために、アナタが私に盛ろうと開発を頼んだ自白剤がとても役に立ちました。」
彼の言葉を聞きながら、私はバルサザールの胸元に頭を預け、彼の心臓の鼓動を感じていた。
「自白剤が…役に立ったなんて…。あっははっ。懐かしいね。根にもってる?」
「いえいえ、まさか。私はとても嬉しかったのですよ。そこまでして…私の気持ちを知りたいと、アナタが思ってくれたことが。」
「領地にはいつ移り住むの?」
バルサザールは一瞬考え込むように視線を落とし、それから優しく微笑んで答えた。「公爵城は今、アグレグレット帝国の古い城を壊して新しく建て直している最中です。しばらく時間がかかりますから、その間はシュエット王国に滞在しながらアルトハイムのことを進めていきます。」
私は彼の言葉を聞いて安心した。お腹の赤ちゃんのことも考えれば、すぐに移動するのは現実的ではない。ここでしっかりと準備を整えることが必要だと感じた。
「そっか。それならしばらくここで落ち着けるね。」
「えぇ。あなたと赤ちゃんのためにも、ゆっくりと過ごせる環境を整えておきます。」
「ありがとう。でも、最近ずっといるけど仕事は大丈夫なの?」
バルサザールは微笑みを浮かべながら、私の髪を優しく撫でた。
「心配しないでください。私はアナタが何をしでかすかわからないので、仕事は全てこの部屋に持ち込んでいます。ここで一緒に過ごしながらでも、十分にこなせるようにしていますよ。」
彼の言葉に、私は少し驚きながらも納得した。バルサザールの視線には、私を見守る強い決意と愛情が感じられた。彼は仕事の合間に私を見つめ、時折優しく微笑んでくれる。その姿に、私はますます彼の存在に安心感を覚えた。
「バル。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
バルサザールは少し眉をひそめ、私の顔をじっと見つめた。
「大丈夫…?カーテンをロープにして4階から降りるような無謀な行動をする人が、何を言っているのですか?」
「あれは…緊急事態だったから仕方なかったの」
「緊急事態ゆえにこそ、より一層慎重に行動すべきだったのです。それに、私が緻密に練り上げた策を悉く無視するとは、無謀という他ありません。あなたの行動は、私の完璧なる計画を乱す要因となり得るのですから。」
――うわぁ!!これは相当怒ってる!!
「ごめんね、バル…」
バルサザールは深く息を吸い込み、冷静さを取り戻すように一瞬目を閉じた。
「あなたの無事が確認できた今、何よりも優先すべきは、これからの行動に対する一層の慎重さです。あなたの振る舞いが、私の策謀の繊細な均衡を崩す可能性がある以上、その重要性は計り知れません。」
私は彼の真剣な表情に再び反省の気持ちを抱いた。彼の完璧な計画を乱してしまったことを理解し、彼の言葉の重みを感じた。
「わかった。これからはもっと気をつけるね。」
バルサザールは微笑みながら、私の頬に手を添えて優しく言った。
「それでいいのです。」
バルサザールはゆっくりと顔を近づけてきた。彼の唇が私の唇に触れると、甘く、ねっとりとしたキスが始まった。彼の舌が私の唇を優しく押し開き、ゆっくりと絡み合うと、私の背筋に心地よい震えが走った。彼の手は私の髪を優しく撫でながら、深い愛情を感じさせる。私たちの唇が離れると、彼の目には満足そうな光が宿っていた。
「そういえばリヴィウスってどうなったの?」
バルサザールは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、少し挑発的な笑みを浮かべた。
「他の男の安否を案じるなど、アナタの思考の奔流は時に予測不可能ですね。」
「あ…ごめん。」
「謝罪の必要はありません。リヴィウスの所業は確かに非道でありましたが、その医術の卓越さには疑う余地がありません。彼をエヴァレーン王国へ送り、転生の乙女に特別な言葉を授けさせることで、彼の才能を国益に寄与させています。今後も、彼の知識と技術が国の発展に貢献することを期待しています。」
――あちゃ~。リヴィウスもチートコードを使われて洗脳状態ってこと?
「そっか、そっか。」
「ところで、ラーカンも共にエヴァレーンに留め置かれていることをあなたはどのようにお考えですか?彼もまた、同様の術に囚われたままでいるのですが、それについては、どうされますか?」
「どうもしないよ。ラーカンにも、ミハエルにも、リオにも、ウルスウドラにも、みんなには幸せになってほしいって思ってる。でも、私はみんなの気持ちを受け入れてあげられないから、どうしようもないんだ。そもそも私は、断罪されて死ぬ運命の体に憑依してるわけでね。今はストーリーの終盤、私はきっと断罪される頃なんだ。だから今、私は自由なんだよ。それでね、最近名前を思い出したんだ。」
彼の目が一瞬輝き、その期待に満ちた瞳で私を見つめた。
「あなたの名前を…聞かせてくれますか?」
「うん、私の名前ね、瑠那っていうの。まさかでしょ?」
バルサザールは一瞬驚いた表情を浮かべ、その後に微笑んだ。
「そうですね。ルナとはエヴァーレン王国の最初の女王の名です。」
「そうなの!?」
「はい。それ以来、子孫の名には代々、ルナをつけていると聞いております。偶然とはいえ、不思議な縁を感じますね。」
「私の名前には、美しいという意味の文字が使われていてね。名前占いでは、タフな精神で苦労に怯まずチャンスを掴むって診断されていたんだ。なんだか、今の状況にぴったりでしょ?」
バルサザールは微笑みを浮かべ、やや皮肉を込めて言った。
「その占いが的中しているのは否定しませんが、私としては、そのような勇敢さを発揮する場面が少しでも減るよう、穏やかな日々を提供するのが私の役目だと考えております。あなたが常に新たな試練に立ち向かう姿を見せ続けることは、私の心臓には負担がかかりますから。」
「わぁ!ごめんなさいってば!」
「ふっ…ははっ。では今日からルナ…とお呼びしても宜しいでしょうか?」
「うん。そう呼んで?」
彼は私の手を取り、指先にそっとキスを落とした。甘い囁きが耳元で響く。
「ルナ、あなたの名をこうして呼べることが、私にとってどれほどの喜びか…」
彼の腕が私の背中に回り、優しく私を抱きしめた。
「ルナ…」
彼が私の名前を囁くたびに、愛情が深まっていくのを感じた。私たちはただ静かに抱きしめ合い、その瞬間が永遠に続けばいいと願った。
新たに「アルトハイム公爵」として広大な領地を治めることとなったバルサザールと、彼の側で新たな人生を歩む私。エヴァレーンやシュエット王国の人々に支えられ、私たちは共に未来を築いていく。
それまでの困難や試練を乗り越え、私たちの絆は誰にも引き裂かれることのない強固なものとなった。愛と信頼の中で、私たちは新たな冒険と共に、幸せな日々を歩み続ける。
私たちの物語は、ここで一つの終わりを迎えた。しかし、新たな章が始まるのだ。バルサザールと共に歩む未来が、どれほど素晴らしいものになるかは、これからの私たち次第だ。
永遠に続く愛の物語は、ここで幕を閉じ、そして新たな希望とともに再び開かれる。
【完】
本編完結です!!!最後まで読んで下さってありがとうございます!
お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`) 外伝を用意しておりますので、よかったら引き続きお楽しみください!!




