56.古城からの脱出
しばらく大人しく安静にしていたが、こういうのはどうも性に合わない。やっぱり行動あるのみ。力が抜けてしまう薬に慣れてきたのか、無理をすることはできる。
ある晩、私は決意を固めた。窓から逃げ出す驚きの方法を考え始めた。部屋の中を見回し、カーテンに目をつけた。厚手のカーテンは意外と頑丈そうで、ロープの代わりに使えるかもしれない。
私はカーテンを外し、慎重に縛って一本の長いロープを作った。力を入れると少しふらつくが、何とか持ちこたえられそうだ。カーテンロープを窓の格子にしっかりと結びつけると、窓を開けて下を見下ろした。高さはかなりあるが、これしか方法はない。
「よし…行くしかない。」
私は深呼吸をして、決意を新たにした。そして、カーテンロープを握りしめ、窓からゆっくりと身を乗り出した。全身の力を使い、少しずつ降りていく。薬の影響で体が重いが、諦めるわけにはいかない。
途中、足元がふらつき、ロープから手が滑りそうになったが、何とか持ちこたえた。心臓が激しく鼓動し、汗がにじむ。ようやく地面に足がついたとき、安堵のため息をついた。
「やった…。」
私は周囲を見回し、すぐに次の行動を考えた。このままでは捕まる可能性が高い。リヴィウスの手下が近くにいるかもしれない。私は足元を確認し、影に紛れながら森の中へと足を踏み入れた。
すると、私はすぐに腕を掴まれた。驚いて振り返ると、そこには息を切らしたスティグルが立っていた。彼の顔には焦りと緊張が浮かんでいた。
「スティグル!?どうしてここに…?」
スティグルは私の言葉を遮るように、深く息を吸い込みながら言った。
「時間がありません!もう逃げてしまっては、どうすることもできません。このまま逃げましょう。」
彼の目は真剣で、その表情からは切迫感が伝わってきた。私は一瞬戸惑ったが、彼の言葉に従うしかないと悟った。スティグルの手を握り、私たちは森の中へと走り出した。
しばらく走り続けると、スティグルがもう限界だといわんばかりに膝をついた。私は心配して彼に駆け寄った。
「スティグル、大丈夫?」
「はぁ…はぁ…大丈夫…じゃ…ありません。はぁ…はぁ…あなたは化け物ですか?よくその薬を打たれていて走れますね…。」
私は彼の言葉に少し笑みを浮かべながらも、真剣な表情で答えた。
「スティグル、体力ないの?」
「当たり前です!!生まれてから運動はほとんどしてきませんでした!!」
私は彼の背中を軽く叩き、「もう少し頑張って、あと少しだけ走ろう?」と言った。スティグルは息を整え、頷いた。
「はい、王女様。なんとか…」
私たちは再び走り出した。どれだけ進んでも休めそうな場所はなかったけれど、時間がたつにつれて薬の効果が薄れて体に力が入るようになってきた。
「スティグル、おんぶしようか?」
「いけません!あなた妊娠中なんですよ!」
「あ。そっか、そうだね。今って、エヴァレーンはどうなってるんだろう?」
「現在エヴァレーンではルナリオン王子殿下が立太子されました。」
「そっか。ドラとラーカンは無事?」
「はい。私の調合した薬を投与されたので、無事です。ただ、数日間眠り続けてしまうのは間違いありませんが…。もう起きている頃でしょう。」
「え!?笛吹いてもこなかったのってそれのせい?」
「笛?」
「ほら、覚えてない?はじめてドラを呼び出した日、この笛を吹いたでしょ?」
「それです!!それを今吹いてください!」
「えぇ!?…うん、わかった。」
私は胸元に手を伸ばし、いつも持ち歩いていた小さな笛を取り出した。深く息を吸い込み、勢いよく吹いた。澄んだ音色が森の中に響き渡った。すると、地面にうっすらと黒い霧が漂い始め、その霧の中からゆっくりと一人の男の姿が浮かび上がってきた。
「ドラ!!」
「ティアナ!!」
私とドラは抱きしめ合った。彼の温かい腕の中にいると、これまでの不安が一気に消え去ったように感じた。
「良かった…無事だったのか。」
「うん。」
私はドラがいる安心感で涙があふれてきた。
彼は私の背中を優しく撫でながら、「泣くな、ティアナ。もう大丈夫だ。」と囁いた。その声に、私は心から安堵し、彼の胸に顔を埋めてさらに強く抱きしめた。
「これは浮気ですね。宰相様に報告しますよ。」とスティグルは眼鏡をかけ直しながら言った。私はそれを聞いて、すぐにドラと距離をとった。
「ち、違うの!安心しちゃって…。」
ドラは少し困惑しながら私を見つめた。
「ここはどこだ?」
「アグレグレット帝国とシュエット王国の境界近くの古城周辺…というべきでしょうか。」スティグルが答えた。
「アグレグレット?参ったな。とりあえず歩きながら考えるか。」
「うん、でね。ドラ、スティグルをおんぶしながら進めない?もう歩けないみたいなの?」
ドラはスティグルを見つめ、少し困惑した表情を浮かべた。
「何?」
スティグルはため息をつきながら、「お願いできますか?」と言い、ドラは渋々ながらも彼を背負うことにした。
「仕方ないな。行くぞ。」
私はドラとスティグルの後ろを歩きながら、この状況からどう抜け出すかを考え続けた。
「馬は今のティアナの状態を考えると無理だな。」
「えぇ、恐らく厳しいでしょう。私だけ戻ったとしてもリヴィウスの手の者たちに暗殺されてしまいます。」
ドラは深いため息をついて続けた。
「それ以前に今、城は大変なことになっている。」
「え?何かあったの?」
「ルナリオン殿下もラーカンもミハエルも、転生してきた女に夢中だ。」
「ラーカンも!?どうなってるの!?」
「おまけに宰相を悪者扱いして、国がむちゃくちゃになってる。」
「えぇぇ!?」
私は驚きと混乱で言葉を失った。
――何がどうなったらそんなことになるの?ゲームの強制力!?
「部下からの情報によると、3人は何か変な呪文のようなものを囁かれていたと聞いた。ラーカンもかなり抵抗していたが、意識がもうもたないと言っていた。」
「操られてるってこと?」
「まぁ、それに近いな。」
――呪文?…もしかして、チートコード…じゃないよね?管理者が使えるデバックモードだったり…。でも国をむちゃくちゃに荒らしてる状態なら社会人じゃない子が転生してるのかな?
「それと、スティグル。お前が抜けたせいで、食事に毒が混ざるようになった。」
スティグルは深い溜息をついた。
「またですか。」
「今、国全体が混乱している。まずは安全な場所に避難して、状況を整理しよう。」
「わかった。」
「まずはこの森を抜けることだ。森の向こうには廃墟になった古い修道院がある。そこならしばらくの間、安全に過ごせるはずだ。」ドラが指を差して方向を示した。
「うん、行こう。」
私たちは森を抜けるために必死に歩き続けた。木々が生い茂る中、道らしい道はなく、足元は不安定な土や石で覆われていた。周囲は薄暗く、木の枝が絡み合っているために進むのが困難だった。私の妊娠初期の体調を考慮しながらも、スティグルとドラが交互に支えてくれた。
「ティアナ、大丈夫か?」
ドラが心配そうに尋ねた。
「うん、大丈夫。歩けるよ。」
私は力強く答えたが、心の中では体力が持つか不安だった。
スティグルもドラにおんぶされながら、時折振り返りながら、「無理をしないでくださいね。」と声をかけてくれた。その度に、私は自分のペースを保つよう心がけた。
森の奥深くに進むにつれて、周囲の景色が変わっていった。木々の間から光が差し込み、地面には苔やシダが広がり、時折小動物の姿も見えた。息を切らしながらも、歩みを止めることなく進んだ。
「もう少しだ。あの丘を越えれば、修道院が見えるはずだ。」
森の出口が見えた瞬間、私たちは互いに安堵の表情を浮かべ、最後の力を振り絞って歩き続けた。
「ほら、見えてきたぞ。」
ドラが指差した先に、古びた修道院のシルエットが現れた。
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