54.スパイ
数日後、予定通りリオとヒロインは王都に辿り着いた。 ストーリーに従えば、この場面ではミハエルが偶然通りかかり、リオを見てすぐに彼が王子だと気づくことになっている。 そして、ミハエルはリオに王宮へ一緒に来てほしいと誘う。 近くにいたヒロインを見たミハエルは一目惚れし、彼女も一緒に来るようにと馬車に乗せることになる。
その後、リオが指を切ってしまい、ヒロインがその傷を聖なる力で癒す。 その光景を目にしたミハエルは、ヒロインの持つ特別な力に驚き、彼女を王に紹介することを決意する。 今日はまさにその一連の出来事が起こる日だ。
そんな大切な日に、とんでもないことが起きてしまった。
私の自室には緊張感が漂っていた。 柔らかな光が差し込む窓から、暖かな陽射しが部屋を包み込んでいる。 豪華な装飾が施されたベッドの上で、私は信じられない気持ちで座っていた。 その近くの椅子には、医師のリヴィウスが真剣な表情で座っており、その後ろに立つバルサザールは、冷静さを保ちながらも微かに動揺している様子だった。
リヴィウスは静かに告げた。
「おめでとうございます。ご懐妊ですね。」
バルサザールの表情が一瞬だけ崩れ、彼の瞳に驚きと喜びが交錯するのが見えた。
――うそ… 私… 妊娠したの?
私はどこかでこの世界をゲームの延長線上のように感じていた。 現実ではない、ただの物語の一部だと。 しかし、いざ子供が自分のお腹にいると分かると、この世界が現実であることを突きつけられた気がした。
「えっと…ほんとうに?」
バルサザールはその瞬間、私の側に駆け寄り、優しく私の手を握った。 その瞳には信じられないほどの喜びが宿っていた。
「えぇ、間違いありません。おめでとうございます。 王女殿下。」
バルサザールはその瞬間、私の側に駆け寄り、優しく私の手を握った。 その瞳には信じられないほどの喜びが宿っていた。
「ティアナ!」
バルサザールは私の手を握りしめる力を少し強め、その後、私の顔を見つめたまま、瞳が潤んでいるのを隠そうともしなかった。 彼の手は微かに震え、言葉を発する前に一度深く息を吸い込んだ。 その様子は、彼の心底からの喜びと感動が表れていた。 彼は私の額にそっとキスをし、唇を震わせながら言葉を絞り出した。
「ティアナ… 本当に… 本当にありがとう。」
その声には、彼の心の中で渦巻く無数の感情が詰まっていた。 喜び、感動、そしてこれからの未来への期待。 バルサザールの表情は、それを言葉にしなくても全てを語っていた。
――ちゃんと現実として受け入れなくちゃ…。だって、私の愛する バルが…こんなにも喜びに満ちた表情で私を見てるんだもん。
私は彼がどれほど私を愛し、この新しい命を大切に思っているかを理解した。
「バル…ありがとう。喜んでくれて嬉しい。」
リヴィウスは優しい笑みを浮かべ、私たちに向かって説明を始めた。
「さて、これからのことですが、王女殿下はまず安静に過ごすことが最優先です。過度なストレスや疲労は避け、栄養をしっかり摂り、規則正しい生活を心がけてください。 お腹の赤ちゃんと母体の健康を守るため、定期的な診察も必要です。 安心してください、私がしっかりとサポートいたします。」
すると、突然部屋の扉が勢いよく開き、血相を変えた伝令兵が駆け込んできた。 彼は深く一礼し、息を整えながら報告を始めた。
「無礼を失礼いたします、宰相様! 王女殿下! ルナリオン王子が戻られましたという報告です。 玉座の間にいらっしゃいます!」
バルサザールの表情が一瞬で引き締まった。 彼は私の手をしっかりと握り直し、目を見つめて優しい声で言った。
「ティアナ、急な知らせで驚かせてしまいましたね。だが、無理は禁物です。 私が先に行って状況を確認してきます。 あなたはリヴィウスと共にゆっくりと来てください。」
私は心配そうに彼を見つめたが、彼の真剣な表情に頷いた。
「うん、分かった、バル。」
バルサザールはもう一度私の手を優しく握り締め、その後伝令兵に指示を出して急ぎ足で部屋を後にした。 リヴィウスは私の側に寄り添い、私を支えるようにして立ち上がった。
「王女殿下、どうかご無理をなさらず、ゆっくりと参りましょう。」
私はリヴィウスの助けを借りながら、ゆっくりと歩みを進めた。 ふと感じる足元のふらつきや、時折押し寄せる軽い吐き気が、妊娠初期の症状を物語っていた。 リヴィウスは私の状態を察し、さらに支えを強めてくれた。
――こ、これリヴィウス連れて行っちゃったらストーリー崩れない!?リヴィウス一応、ちょい隠しキャラだったような気がするんだけど…。
「全く、殿下には失望しましたよ。」
「え?」
リヴィウスの顔を見上げると、殺意に満ちた表情をしていた。
「しかし、まんまと私は宰相にしてやられましたね。」
「な、なにをいってるの?」
「わかりませんか?宰相の女になったくせに。」
「は、はい?」
「まぁ、しかし。幸いなことに私のことを特定するにはいたらなかったようですが…。」
――リヴィウスどうしちゃったの? バグった?
「ドラ!ラーカン!」
「助けを呼んでも無駄です。先程、護衛の方々には薬を投与させていただきました。」
「… 私をどうする気?」
「どう… と言われても、予定がこれほど狂ってしまっては、手の施しようがない。 一先ず、宰相の手の届かないところへ送りましょう。」
リヴィウスの冷たい言葉に背筋が凍る思いがした。 私は必死に状況を理解しようとしたが、彼の態度の変化に混乱するばかりだった。
私は何かを注射され、意識が遠のいていった。
リヴィウスは王国の宮廷医であり、合理的で王国の平和を守るために日夜研究を続ける人物だった。 彼は謎めいた存在で、その冷徹な態度の裏には深い孤独と悲しみが隠されている。 彼の知識と技術は誰もが認めるところであり、公式にはそう説明されていた。
――冷徹な態度の裏…。 … こんなことなら、彼を攻略しておくんだったな…。
私の意識は徐々に薄れていき、最後に見たのはリヴィウスの冷たい笑みだった。 闇の中に沈みながら、彼の真意を探り出せなかったことが悔やまれた。
――――――
――――
目を覚ますと、私は馬車に揺られていた。 周囲は薄暗く、木の車輪が道の凸凹を越えるたびに揺れる感覚が伝わってくる。 ぼんやりとした視界の中で、私は自分がリヴィウスに膝枕されていることに気付いた。 彼の冷たい表情とは対照的に、その膝は驚くほど温かかった。
「リヴィウス…?」
私はまだ混乱している頭を振りながら、彼の顔を見上げた。 リヴィウスは静かに私を見下ろし、その冷徹な瞳に一瞬の優しさが宿ったかのように見えた。
「気が付きましたか、王女殿下。」
リヴィウスは淡々とした口調で言い、彼の手が私の額に軽く触れた。
「ここは…?」
「安心してください。ただの馬車の中です。 目的地に着くまで少し時間がかかります。」
彼の言葉に、私は再び不安を感じた。 彼が一体何を考えているのか、何を企んでいるのか全くわからなかった。
「リヴィウス、あなたは何をしようとしているの?」
私の問いに、リヴィウスは一瞬だけ目を閉じ、深い息を吐いた。
「私は… アグレグレット帝国から派遣されたスパイ… ですよ。」
「えぇ!?」
私は驚きの声を上げた。 頭の中が混乱し、信じられない気持ちでいっぱいだった。
――そんな設定だったの!? バルサザールが登場するルナリオンルートばっかりやってたせいで、リヴィウスのこと、公式設定とレビューでのネタバレでしか知らないことがあだとなるなんて…。
「驚かれますよね。王女殿下にとっては、私はただの宮廷医ですから。 しかし、私にはもう一つの顔があるのです。」
リヴィウスは冷静な口調で続けた。 その声には冷徹さが滲み、私の心に恐怖が広がった。
「あなたは、アグレグレット帝国のために何をしようとしているの?」
「私が命じられたのは、王室を崩壊させることです。セインタール公爵を利用し、うまく立ち回っていたのですが、宰相に気付かれてしまいました。バレないはずだったのに…彼は未だにセインタール公爵の裏を探ろうとしていて、もう潮時だと感じました。」
「私を…殺さないの?」
私は震える声で尋ねた。
リヴィウスは一瞬だけ目を閉じ、深い息を吐いた。彼の瞳には冷たさが見えたが、その奥には複雑な感情が交錯しているようだった。
「ティアナ様、あなたを殺すことなど私にはできません。たとえ命じられたとしても…。」
彼の声は低く、しかしどこか優しさが滲んでいた。彼は私の顔をじっと見つめ、続けた。
「あなたの存在が私にとってどれほど特別か、あなたには分からないでしょう。それゆえに、私はあなたを守りたいと思うのです。」
その言葉に、私は一瞬息を飲んだ。
――いつから?
いつから?いつから?いつからなの?どういうこと?だって一番接点がない…。何が?ルナティアナが何かしたの?記憶には少し過度なボディタッチがあっただけ。私は彼と言葉を交わしていない。
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