52.衝撃の報告
昼下がりの王族会議も終わりに近づき、薄い陽光が窓から差し込んでいた。 重厚なテーブルの周りには、王族や重臣たちが集まり、意見を交わしていた。 バルサザールが一歩前に出て、深刻な表情で会議の終わりを告げる。 彼の声が低く響き、全員の注意を引きつけた。
「皆様、最後に一つ、重大な報告があります。」
バルサザールは一瞬の間を置いてから、静かに続けた。
「行方不明だった王子が見つかりました。鑑定も済ませており、間違いなく王の子です。」
その瞬間、私は驚愕し、青ざめた。 何の報告もなしに、リオの存在が明かされたことに動揺が隠せなかった。 私の心臓は早鐘のように打ち、リオのことを必死で隠してきたのに、どうして今こんな形で知られることになったのか、理解できなかった。
――待って、どういうこと?
王が驚きと感動の入り混じった表情で立ち上がった。
「本当に… ルナリオンが戻ってきたのか?」
バルサザールは深く頷き、「はい、陛下。彼の身元は確かです。 王子は無事に戻られました。」 と答えた。
その瞬間、王の表情は驚きから次第に感動へと変わり、目には涙が浮かび始めた。
「本当に…ルナリオンが戻ってきたのか…?」
王の声は震え、やがて涙が溢れ出し、彼は号泣し始めた。
「かつて赤子のルナリオンがさらわれた時、どれだけ辛かったか…。あの日から、どれほど息子の無事を祈り続けたことか…。 私は… もう二度と会えないと思っていた…。」
会議室中が静まり返り、王の涙に全員が心を打たれた。 王の涙は止まることなく、感情が溢れ出していた。 彼の心の中にある父親としての思いが、痛切に伝わってきた。
私はその光景を見ながら、胸が締め付けられるような思いを感じた。 それと同時に、バルサザールに裏切られたような気持ちも湧き上がっていた。 なぜリオの存在を私に相談もなく公にしたのか、その意図が理解できず、心の中で混乱が広がった。
バルサザールは冷静な表情で続けた。
「王子は間もなく王宮に連れ帰る予定です。しかし、現在はまだ育ての親との別れをしている最中です。 彼を育ててくれた方々との絆も深いようで、その時間を尊重しております。」
――嘘…。だってリオは王宮にいるじゃない。
王は涙を拭いながら、バルサザールの報告に静かに頷いた。
「そうか…。育ての親たちに感謝の意を伝え、リオを迎える準備をしよう。 彼が帰ってくる日が待ち遠しい。」
私はそのやり取りを見つめながら、心の中で渦巻く感情を抑え込もうと必死だった。 リオの帰還は喜ばしいことなのに、どうしても納得できない思いが胸に重くのしかかっていた。 バルサザールの視線が一瞬私に向けられたが、彼の目に映る冷静さが、逆に私の不安を増幅させた。
会議が終わりに近づく中、私はその場に立ち尽くし、心の中で問い続けた。
――バル、どうして私に何も言わなかったの…?何を考えてるの?
会議が終わると、バルサザールが私の側へ歩み寄ってきた。 彼の表情はいつも通り冷静だが、その眼差しには微かな焦りが見て取れた。
「私の勝手な行動に怒っていますか?」
「… わからないの。 心がぐちゃぐちゃで…。」
私は彼を見上げ、混乱した気持ちを隠せなかった。
「時間がありません、移動しながら説明します。」
彼はそう言って、私の手を引いた。
――何を考えてるの?
私たちは城の外へ出ると、そこには馬車が待っていた。 馬車にはすでにラーカンとドラが乗っており、私たちを迎えるために静かに待っていた。
「二人ともどうして?」
バルサザールは無言のまま私を馬車に乗せた。 彼の手は優しく、しかし確固たる決意を感じさせた。 馬車の中に入ると、ラーカンとドラが私を見つめていた。
馬車が静かに動き出すと、バルサザールは再び口を開いた。
「ティアナ、リオは先に最北端に位置する村の宿へ行ってもらっています。」
「バル、もしかして、乙女ゲームのストーリー通りにみんなを配置する気なの?」
彼は静かに頷き、冷静な声で答えた。
「はい。アナタはそうするつもりだったのでしょう?」
「確かにそうだけど… まさかバルがそれを手配してくれるなんて…。 いや、でも、じゃあどうしてリオを公表したりしたの?」
バルサザールは一瞬の沈黙の後、微かに微笑みを浮かべた。
「あぁ、それは…。魔が差しました。」
「魔が差した?どういうこと?」
彼は私の目を真っ直ぐに見つめ、深い愛情と決意が込められた瞳で語り始めた。
「私は…アナタを女王にはしたくなかったんですよ。 あなたを公の場に立たせ、国政の重責を背負わせることが私には耐えられなかった。 私の中であなたへの愛が勝ってしまい、あなたを独占したいと思ってしまったんです。」
彼の告白に、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。 彼が私のことを、どれほど深く考えていたのかが痛いほど伝わってきた。
「バル…。」
「なので、相談も無しにルナリオン殿下を公表しました。彼を公にすることで、あなたが女王としての責務から解放され、私の元に留まることができるように。 私はアナタの笑顔を見続けたい。 それが私の本心です。」
私は彼の言葉に涙が溢れそうになるのを感じた。 彼の愛がこんなにも深く、私のことを思っての行動だったことに感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
「バル… ありがとう。 でも、さっきはすごくショックだったんだから。」
彼は優しく微笑み、私の頬に手を添えた。
「申し訳ありません。」
その時、馬車の中でドラとラーカンの二人が気まずそうに視線を逸らしているのに気づいた。 二人は私たちの甘い雰囲気にいたたまれない様子で、苦笑いを浮かべていた。 ラーカンはそっと咳払いをし、ドラは窓の外に視線を向けていた。
「これはこれは、大変失礼致しました。」
バルサザールが軽く頭を下げる。
「本当に俺たちは行かなければいけないのか?」とラーカンは不満そうに問いかける。
「ごめんなさい。私は…それが本来のあるべき姿だと思ってるから少しだけ付き合ってくれると嬉しい。」
「そういえばリヴィウスは連れてこなくて良かったのか?」ドラが気になる様子で。
「うん、リヴィウスは王宮で出会うキャラクターだから大丈夫。」
バルサザールが少し驚いた様子で尋ねる。
「ティアナ、私が手配しなかった場合、どのようにして皆を配置するつもりだったのですか?」
「うーん、適当に理由をつけて、ついてきてってお願いするつもりだった。」
ドラが笑いを堪えきれずに、「それはかなり無茶な計画だ。」と突っ込む。
ラーカンも苦笑しながら、「殿下の頼みなら断れないだろうけど、それでも無理がありますよ。」と同意する。
バルサザールは微笑みながら、私の手をしっかりと握り、「これからは私が全て手配しますから、無茶な計画はやめてくださいね。」と、穏やかな口調の中にも怒りを滲ませて言った。
「は、はい。ごめんなさい。」
ドラがふと顔を上げて尋ねた。
「明日だったか?」
「うん。」
バルサザールは頷きながら続けた。
「本日は宿を用意しております。そちらで休みましょう。 明日は皆さん指定の位置についておいてください。」
いよいよ明日、この乙女ゲームのストーリーが始まる。 ラーカンはたまたま人手不足になった警備で村を訪れ、ドラは情報収集の為に村の酒場に昼から入り浸り、リオは宿屋で働くところからのスタートだ。 ラーカンは今や王女付き近衛兵なので、警備をする必要もなく、ドラも今や暗黒の騎士団を率いる団長で情報収集が必要な職でもない。 リオだってそうだ。 みんなには申し訳ないけれど、この茶番には絶対付き合ってもらわないと…。
「あ!! ミハエルのこと忘れてた!! リオを王宮へ連れていく役目なの!!」
バルサザールは私の焦りに対し、落ち着いた声で言った。
「心配いりません。手配済みです。」
「えぇ!?ありがとう。バル。」
彼は微笑みながら、少しからかうような口調で言った。
「アナタは時折、完璧な計画の中に驚くほどの抜け落ちがあるものですから、予め対策を講じておくのも私の役目ですよ。」
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