50.忙しさに追われる二人
私の16歳の誕生日が近づくにつれて、王宮は日に日に騒がしくなっていた。廊下を行き交う使用人たちは忙しそうに準備に追われ、華やかな装飾や贅沢な食材が次々と運び込まれている。大広間では楽団がリハーサルを行い、美しい音楽が響き渡っていた。庭園では花の手入れが行き届き、見事な花々が咲き誇る。私の部屋にも次々と贈り物が届けられ、その豪華さに圧倒されるばかりだった。
そんな中、王家の会議室では緊迫した雰囲気が漂っていた。私の誕生パーティーと結婚式を同時にするというバルサザールの提案と、私の誕生パーティーと立太子式を同時にするという王の提案で、激しい議論が交わされていた。
「陛下、16歳という節目に立太子式を行うのは伝統に則ったものです。しかし、現在の国の状況を鑑みると、王女殿下が結婚し、未来の王家を安定させることが最優先です。」バルサザールは冷静に、しかし強い意志を込めて主張した。
「バルサザール、君の言うことも理解できるが、立太子式は国民に対する重要なメッセージだ。ルナティアナが次期王位継承者として公に認められることが、国の安定に繋がるのだよ。」
王は一歩も引かず、反論した。
「ですが、陛下。今こそルナティアナ王女殿下が結婚し、未来の王家を安定させることが急務です。私どもが結婚することで、国民に対しても安心感を与えることができるでしょう。」
「結婚は後でも良いだろう。まずは王女が立太子し、その後で結婚式を行うべきだ。」
「陛下、国民の間では、王女殿下が既に次期王として認識されています。今更立太子式を行う必要はありません。結婚によって、国と王家の未来がより安定するのです。」
会議室の中はさらに緊迫し、両者の意見がぶつかり合う中、私がその場に足を踏み入れると、二人は一瞬静まり返った。私は一歩前に進み、真剣な表情で彼らに向き合った。
「お父様、バル。お二人の意見はどちらも理解できます。でも、私の16歳の誕生日は、私にとって特別な日です。どうかその日を私自身の意志で決めさせてください。」
私の言葉に、二人は互いに顔を見合わせ、深い溜息をついた。
「ルナティアナ、お前に任せたら、1日でも早く宰相と結婚したいというに決まっているだろう。」
王は皮肉混じりに言った。
バルサザールは一歩前に進み、冷静で鋭い眼差しを王に向けた。
「陛下、私たちが結婚することによって、シュエット王国とエヴァレーン王国の同盟が一層強固なものとなります。これは両国の安定と繁栄に繋がる大きな利益です。また、私がエヴァレーン王国の宰相として、国内外の政治的課題に対処することで、さらなる平和と発展を実現できるでしょう。私たちの結婚は、単なる個人的な幸福を超えて、両国民に希望と安心をもたらすものとなるのです。どうか、その点を考慮していただけませんか?」
王はバルサザールの言葉を聞き、しばらくの間考え込むように視線を落とした。その間、会議室の空気は張り詰めたまま、全員が次の言葉を待っていた。
しばらくの沈黙の後、王はゆっくりと顔を上げ、重々しく頷いた。
「分かった、バルサザール。君の言う通り、両国のためにも、そしてルナティアナの幸せのためにも、この結婚が必要であることは理解した。立太子式を遅らせることにしよう。ただし、国民にはしっかりと説明し、納得してもらわなければならない。君たちの結婚が国の未来にどれほど大きな意味を持つのか、しっかりと伝えてくれ。」
「ありがとうございます、陛下。」
バルサザールは深々と一礼し、私に優しい眼差しを向けた。
「ありがとう、お父様。」
私は感謝の気持ちで胸がいっぱいになりながら微笑んだ。王もまた、優しく微笑んで頷いた。
「さて、これで決まりだ。準備を進めよう。」
王の言葉に、会議室の空気は一気に和らぎ、全員が動き出した。
バルサザールは私の手を取り、穏やかな声で言った。
「ティアナ、これから忙しくなりますが、一緒に頑張りましょう。」
「うん。」
――――――
―――
それから目まぐるしい日々が続いた。誕生パーティーと結婚式の準備で王宮はてんやわんやとなり、私もバルサザールも忙しさに追われていた。招待客のリスト作成、装飾の選定、衣装の試着、リハーサルなど、毎日のように予定が詰まっていた。私はバルサザールとほとんど会えなくなり、彼の温もりを感じる時間が恋しかった。
「ティアナ様、お疲れ様です。もう少しだけ頑張りましょう」と、リディアが励ましてくれる。
「ありがとう、リディア。でも、バルに会いたい…。話したいことがたくさんあるのに…」
夜、寝室で一人、私はベッドの端に座りながらバルサザールの顔を思い浮かべていた。部屋は静まり返り、窓の外からはかすかな月明かりが差し込んでいる。忙しさに追われる毎日が続き、彼との会話もままならない日々に、心の中に寂しさが募る。目の前に広がる書類の山を片付けながら、ふと彼の優しい笑顔が頭に浮かび、涙がこぼれそうになるのを必死で堪えた。
――バルも同じ気持ちでいてくれてるのかな?私と同じように寂しいって思ってるのかな…。
そんなことを考えていると、突然ドアが静かに開く音がした。驚いて顔を上げると、そこには疲れた表情を浮かべたバルサザールが立っていた。彼の目には深い疲労がにじみ出ているが、私を見つめる瞳にはいつもの優しさがあった。
「ティアナ…」
彼は疲れ切った声で私の名を呼び、一歩一歩、静かに部屋の中へと歩み寄ってきた。その姿を見ただけで、私の心に溜まっていた寂しさと疲れが一気に溶けていくような気がした。彼はそっと腕を伸ばして私を引き寄せる。
「少しだけでも、アナタに会いたかった…。」
彼の囁きに、私は涙を抑えきれず、彼の胸に顔を埋めた。その瞬間、彼の温もりと安心感が私を包み込み、全ての疲れが消え去るような気がした。
「バル…。」
「来なさい。」
彼は私を優しく抱き寄せたかと思いきや、突然腕を掴んで歩き出した。彼の力強さに驚きつつも、私は抵抗する暇もなく引き寄せられた。
「え…ちょっとバル!?」
私は彼に引かれるまま、足をもつれさせながらも一緒に歩き出した。彼の手はしっかりと私の腕を掴み、迷いなく自室の方向へと導いていく。その強引さに戸惑いつつも、胸がキュンキュンしてしまう自分が憎い。
――強引なバルも良い…。
私は心の中で親指をグッと立てていた。
廊下を歩く彼の背中は、いつも以上に頼もしく見えた。彼は一度も振り返らず、まっすぐに自室へと進んでいく。ドアの前に立ち止まり、一瞬だけ私を見つめると、彼はドアを開けて私を中に引き込んだ。
「バル、本当にどうしたの?」
彼の眼差しは真剣そのもので、言葉ではなく行動で何かを伝えようとしているようだった。彼はドアを閉め、私を自室の中へと優しく押し込んだ。そして、ドアに鍵をかけると、すぐに私の顔を両手で包み込んだ。彼の瞳が一瞬だけ私の目を見つめた後、唇が重なる。
彼のキスは激しくも甘く、私の心を一瞬で奪い去った。彼の手が私の背中を強く引き寄せ、身体が彼に密着する。唇が離れたかと思えば、再び強く重なり合い、彼の情熱が全身を通じて伝わってくる。
私は彼の肩に手を回し、彼のキスに応えるように身体を寄せた。彼の唇が顎から首筋へと移動し、優しくも激しいキスが続く。彼の温もりと情熱に包まれ、全ての疲れが消え去るようだった。
彼の温もりと情熱に包まれ、全ての疲れが消え去るようだった。
「バル…。」
「辛くなる前に、私の部屋に来なさいと言いませんでしたか?」
彼の声は優しくも、少しの責任感を含んでいた。
「そうだけど、忙しくて…。」
私は彼の胸に顔を埋めながら、言い訳を呟いた。
「忙しくとも…私の部屋で眠るくらいはできたでしょう?」
彼の手が私の髪を優しく撫でる。
「えぇ!?そんなことしても良かったの?」
驚きで顔を上げると、彼は微笑んでいた。
「その為の合鍵です。」
彼の言葉に、私は思わず微笑んだ。
「そうだったんだ。でも、私も本当に忙しくて…実際もう寝て明日にはまた用事があって…。」
「えぇ、私も同じく、睡眠時間がほとんどないほどに忙しいです。」
「ふふ…バル、やってることが滅茶苦茶じゃん。」
「そうですね。アナタのせいです。」
「じゃあ今日はバルの部屋で寝るから、バルは残業頑張ってね?」
私は彼の頬に軽くキスをした。
「クッハハッ…アナタという人は、本当に酷い人だ。」
彼は長い髪をかき上げ、愛しさと困惑が入り混じった複雑な表情を浮かべていた。
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