42.王女の奇行
※バルサザール視点です。
バルサザールはルナティアナの寝顔を見つめていた。 彼の手が震え、理性が崩れそうになる。 彼はそっとベッドの脇に座り、彼女の寝顔を見つめながら、心の中で葛藤した。
――誰にも見せない、誰にも触れさせない…。
彼の心がその思いに支配される中、バルサザールは手を伸ばし、彼女の頬に軽く触れた。 彼女の肌の温もりが彼の手に伝わり、その感触が彼の欲望をさらに刺激した。
そして、彼は一度目を閉じ、深呼吸をして心を落ち着けようとした。
――いつからでしょうか。 彼女を目で追うようになったのは…。
―【半年前】―
深夜の執務室。 月明かりが薄く差し込む窓辺には、重厚なカーテンが揺れている。 机の上には書類が山積みになり、私はその一枚一枚に目を通し、次々と決裁のサインをしていた。 部屋には静寂が広がり、時折ペンが紙を滑る音だけが響く。
コンコンと控えめなノックの音が扉越しに聞こえた。
「どうぞ。」
私は手を止めずに答えた。 入ってきたのは、この国の王女であるルナティアナ王女殿下の監視をしているメイドだった。 彼女は深々と頭を下げ、報告を始めた。
「失礼します。本日の報告は特にありません。」
私は書類に目を落としながら聞いていたが、その報告に眉をひそめた。
「そうですか……… は? 破損物はないと、そうおっしゃいましたか?」
「はい。」
「では本日はどのように過ごされておりましたか?」
「本日はなにやら瞑想されておりました。」
「瞑想?あの王女がですか?」
「はい。」
私はペンを置き、顔を上げてメイドを見つめた。
「何か悪い物でも食べてしまったのでしょう。本日はもう結構です。 引き続き、王女殿下の監視をよろしくお願いします。」
「かしこまりました。」
メイドは深く一礼し、部屋を後にした。 私は再び書類に向き直り、しかし心の中には一抹の不安と興味が残った。 ルナティアナ王女殿下が瞑想などという行動を取ることは、彼にとって予想外だった。
――まぁ、明日になれば、また元通りでしょう。
翌日の昼下がり、執務室の扉が再びノックされた。 報告に来たのは、忠実なる部下であり薬師のスティグルだった。 彼は静かに扉を開け、一礼してから私の前に進み出た。
「バルサザール様、ご報告したいことがございます。」
私は手を止め、顔を上げた。 スティグルの訪問は珍しいことであり、何か重大な事態が起こったのかと一瞬考えた。
「アナタがここを訪れるとは珍しいですね。 どのような報告でしょうか?」」
スティグルは深く息を吸い、報告を始めた。
「ルナティアナ王女殿下のことでございます。 本日、薬剤室を訪問し、体調が優れないからと効果のある薬を求めていらっしゃったのですが、私の弱みを突きつけ、脅し、自白剤を用意するように命令されました。」
私は眉をひそめ、驚いた表情を見せてしまう。
「自白剤?誰に?」
「それはまだわかりません。しかし、自白している間の記憶が消えてしまうようなものが欲しいと。」
私は一瞬考え込んだ後、冷静な声で答えた。
「ふむ、とりあえず様子をみましょう。自白剤を用意してあげてください。」
「かしこまりました。」
スティグルは深く一礼し、部屋を出て行った。 私は机の上の書類に再び目を向けたが、心の中には新たな疑問と懸念が生じていた。 ルナティアナ王女殿下が何を企んでいるのか、そしてその目的が何であるのかを探る必要があると感じた。
――瞑想に続いて、自白剤…。 何か大きな計画が進行中なのかもしれない。
その考えが彼の中に根を下ろし、私は次の一手を考え始めた。 ルナティアナ王女の行動がどのような影響を及ぼすのか、そして自分がどのように対応すべきかを慎重に見極める必要があった。
外は暗くなりかけ、夕暮れの光が薄く残る空が見える。 木々の影が長く伸び、冷たい風が吹き抜ける。 王宮の執務室の中では、ランプの柔らかな光が揺れ、私は机に向かって書類に目を通していた。
コンコンとドアをノックする音が響き、執務室の静寂を破った。
「どうぞ。」
入って来たのは、ルナティアナ王女殿下の監視を任されていたメイドだった。 彼女の顔には深い困惑の表情が浮かんでいた。
「宰相様、あの…。」
「どうされましたか?」
私は書類から顔を上げ、メイドに視線を向けた。
「このようなことを報告すべきか迷ったのですが、殿下が食事を全く召し上がっておりません。昨日丸1日と、本日も既に晩餐の時間を過ぎておりまして…。」
私の眉が一層深くなっているのを感じながら、椅子に寄りかかって考え込んだ。
「なるほど、これは重大なことですね。体調はどうですか? 他に異常は見られませんか?」
「はい、殿下の体調は特に悪くは見えませんが、やはり食事を取られないことが心配です。」
私はしばらく黙って考えた後、決断を下した。
「分かりました。私が直接様子を見に行きましょう。 それで王女殿下はどちらに?」
メイドは少し困惑しながら答えた。
「はい、それが… 騎士の訓練所へ昼過ぎから…。」
私は驚きの表情を浮かべてしまう。
「まさか、食事をとらず?」
「はい…。」
「では、昼過ぎからのセインタール公爵との会議にも出席せず?」
「はい…。 公爵様はそんな日もあろうと帰られました。」
私は深いため息をつき、立ち上がった。
「分かりました。訓練所へ向かいましょう。」
私は急いで執務室を出て、廊下を歩きながら頭の中で状況を整理した。 ルナティアナ王女の行動がますます奇妙に思えてならなかった。それにセインタール公爵が出席する会議に出られないのが一番の驚きだった。彼女は普段から横暴で我儘だが、必ずといっていいほど、セインタール公爵のいうことだけはきくのだ。
訓練所に到着すると、騎士たちが厳しい訓練を続けている様子が見えた。 その中で、ルナティアナ王女が一人、集中して剣を振るっているのが目に入った。 彼女の動きは鋭く、まるで自分自身と戦っているかのようだった。
私は訓練所に近づき、彼女の様子をじっと見つめた。 ルナティアナは汗をかきながらも、その表情には決意と集中力が溢れていた。 しかし、食事を取らずにこのような激しい訓練を続けるのは危険だ。
「ルナティアナ王女殿下。会議にも来ない、昼食の時間になっても現れない、晩餐の時間になっても現れない。 いったいどこで何をしているのかと思えば…」
私の言葉に訓練場の騎士たちも緊張の色を見せていた。
「バルサザール、訓練に参加していたのです。王女としての責務を果たすために、自分自身の力を確かめることが必要でした。」
私は目を細め、ルナティアナを見下ろした。
「あなたのその急な行動が、どれほど多くの者を困惑させたか理解していますか?」
「確かに、私の行動は突然だったかもしれません。しかし、これからの私にはこのような訓練が必要なのです。 あなたも私が成長し、王国のために強くなることを望んでいるのでは?」
――何を言っている? アナタは最近まで国を思う姿勢など一切みせなかったではないか。
「その意図は理解しました。しかし、次からは事前に知らせてください。 王女の身の安全は最優先事項です。」
彼女は軽くうなずいた。 「えぇ、わかったわ。心配かけて申し訳なかったわ。」
――謝っただと!?
その驚きの行動に微かに怒る気持ちが薄れてしまう。
「いいでしょう。それでは、今後の予定について話し合うために、一緒に戻りましょう。」
「わかりました。」
訓練所を去り、彼女は私のあとを大人しくついてきた。
――ほんとうに、とうとう頭がくるってしまったのか?
私はふと足をとめた。 すると彼女が私の背中にぶつかってきた。
「わぶっ!!」
そしてゆっくりと彼女に向き直った。
「…。」
「あ、ごめんなさい。」
私は彼女を冷静に見下ろした。
――妙だ。彼女は私を毛嫌いしていたはず。どうしてこうも大人しく私についてくる?
「王女殿下。全くお食事をとられていないようでしたが、何か用意させましょうか?」
「そうね、確かに少しお腹が空いたわ。」
「では、執務室に用意させましょう。」
私は再び歩き始めた。
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