41.嫉妬と独占欲
目が覚めると、ふかふかなクッションの椅子に横たわっているのが感じられた。私の頭はバルサザールの膝の上にあり、彼に膝枕をされていることに気づいた。馬車の揺れが心地よく、窓から差し込む朝の光が柔らかく私を包み込んでいた。
「え…いつの間に…。」
バルサザールは私の言葉に微笑み、優しく耳元で囁いた。
「まだ眠っていると良いですよ。」
「でも…。」
彼の声が甘く響き、私の心を揺さぶる。
「朝までお疲れ様でした。」
その瞬間、昨夜から朝にかけての熱い夜の出来事が脳裏に蘇り、顔が熱くなった。彼の優しい触れ合いと囁きが、再び私の心をときめかせた。
――私、ついにバルとシちゃったんだった。しかも一晩中…。
「も、もう少し寝るね。」
「えぇ、どうせ起き上がれもしないでしょうけど。」
「それってどういう…。」
起き上がろうとすると、酷い下半身の筋肉痛に襲われた。
「あ…。」
バルサザールはその様子を見て、さらに優しい微笑みを浮かべた。
「大人しく寝ていなさい。」
「はい…。」
彼の言葉に従い、再び目を閉じると、彼の温もりと安心感に包まれながら、私はもう一度眠りに落ちていった。
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王宮に無事帰還するなり、バルサザールは私を抱きかかえ、そのまま部屋へと運んでくれた。彼の腕の中にいると、疲れがすっと和らいでいくのを感じた。部屋に到着すると、バルサザールは優しく私をベッドに下ろし、ウルスウドラに向かって指示を出した。
「ウルスウドラ、王女殿下を頼みますよ。あなたにとっては辛いでしょうが、部屋の中で護衛してあげてください。」
ウルスウドラは深く頭を下げ、「承知しました。」と答えた。
「バル、ありがとね。」
私は彼に感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
バルサザールは私の頬にそっと触れ、優しく言った。
「ゆっくり休んでください。食事は部屋へ運ぶように手配します。」
「うん。」
バルサザールはラーカンに向かって続けた。
「ラーカン、あなたの育てた騎士の調査が済みましたので、護衛を増やして構いませんよ。」
ラーカンもまた、敬意を示しながら「はい。」と答えた。
バルサザールは最後に私に一瞥を送り、優しい笑みを浮かべた。その笑みが私にさらなる安心感をもたらした。
「ゆっくり休んで、元気を取り戻してください。」
彼は部屋を後にし、私たちは彼の背中を見送った。バルサザールの去って行く姿が、頼もしく感じられた。彼が去った後、ウルスウドラは静かに部屋の扉を閉め、私のそばに立った。
「殿下、俺はここにいますから。」
「ありがとう、ドラ。」
私は再び目を閉じ、深い安堵感に包まれながら、しばらくの間休息を取ることにした。
一方、バルサザールは王宮の奥深く、王の元へ向かっていた。彼の足音が石造りの廊下に響き、重厚な扉の前で立ち止まった。扉を開けると、王が威厳ある姿勢で待ち構えていた。
「バルサザール、無事に戻ったようだな。詳しい報告を頼む。」
バルサザールは深く頭を下げ、「はい、陛下。」と応えた。
「まず、セインタール公爵の陰謀についてです。彼の配下が王女殿下と私を拉致しようと企てましたが、途中で反撃し、無事に脱出しました。現在、取り調べが進んでおります。」
王は眉をひそめた。
「セインタール公爵の残党がまだ残っていたか…。まさかそんなことを。他の従者の身元調査は終わったか?」
「はい、陛下。何名か不審な者が潜んでおりましたが、それらも処理致しました。」
バルサザールは続けて、拉致の経緯や逃走の際の詳細を報告した。王はその間、慎重に話を聞き、時折うなずきながら考え込んでいた。
「王女殿下は無事か?」王が心配そうに尋ねた。
「はい、現在はウルスウドラが護衛しており、休息を取らせております。しばらくの間は王宮内で静養していただくつもりです。」
「そうか。ご苦労だった、バルサザール。」
バルサザールは深く一礼し、「ありがとうございます、陛下。これからも国の安定と平和のために尽力いたします。」と答えた。
王はバルサザールに向かって感謝の意を込めた微笑みを見せた。
「お前の働きには感謝している。これからも頼むぞ。」
バルサザールは王の部屋を後にし、長い廊下を歩いてリオの元へ向かった。途中、王宮の美しい装飾や絵画が並ぶ壁を見ながら、彼の思考は次の段階に集中していた。
リオの勉強部屋に到着すると、扉を軽くノックしてから中へ入った。リオは机に向かって勉強しており、その姿勢は真剣そのものだった。
「ルナリオン殿下、勉強のほうは順調でしょうか?」バルサザールは柔らかい笑みを浮かべながら尋ねた。
リオは顔を上げ、バルサザールの姿を見ると少し驚いたような表情を見せた。
「宰相。…ええ、順調です。でも、まだまだ学ぶことがたくさんあります。」
「そうですか。半年後には立太子式を執り行っていただきますので、その時までにはしっかりと準備を整えていただけると助かります。」
「立太子式… 本当に僕が王になるのですか? ルナティアナ王女ではいけないのでしょうか?」
「あの方は酷く純粋です。それに、ルナティアナ王女が女王になられると、私とのプライベートな時間が減ることになります。 それは少々困りますね。」
リオは驚いた表情を浮かべ、「えっ… そんな理由で?」 と問いかけた。
「はい。そんな理由でです。 あの方は本来その位置にいるべき方ではないのです。」
「異世界からきたという話ですか?」
「はい、ルナリオン殿下。彼女は異世界から来た方です。 ですから、アナタが矢面に立つのです。 それが本来の姿であり、彼女にとっても、そしてこの国にとっても最善の選択なのです。」
リオはその言葉に少し考え込み、「でも、僕にその責任が果たせるかどうか… 不安です」と不安げに呟いた。
バルサザールは優しく微笑み、リオの肩に手を置いて言った。
「ご安心下さい。私がついております。 それに、殿下は十分優秀でございますよ。」
リオは少し緊張を和らげながら、「ありがとうございます、宰相。僕…全力で頑張ります。」 と思いを込めて答えた。 しかし、リオの顔にはまだ不安の色が残っていた。
「あの… ルナティアナ王女は… 無事… だったんですよね?」
「はい。ご安心ください。 今は安全な場所で休んでおられます。」
「それを聞いて本当に安心しました。ルナティアナ王女のことを心配していたんです。」
バルサザールの瞳が一瞬、冷ややかに光ったが、すぐに微笑みを保ち続けた。
「いけませんよ。王女に恋慕を抱いては…。 あなた方は正真正銘の兄妹なのですから…。」
リオは目を伏せて、「はい。分かっています。」 と静かに答えた。
「ご不安であれば、薬剤室にいるスティグルから薬をもらうと良いですよ。あの薬は良く効くようですから。」
「はい… そうします。」
バルサザールはリオの様子を見届け、部屋を後にした。 長い廊下を歩きながら、彼の心はざわついていた。 皆がルナティアナに夢中になり、彼女のために心を尽くす姿が彼の胸に嫉妬の炎を燃え上がらせていた。
――私だけが彼女を守り、愛する資格があるというのに。 彼らが彼女に触れることさえ許せない…。
バルサザールの足音が廊下に響き渡り、その音が彼の心の乱れを物語っていた。 彼の心の中でルナティアナへの思いが渦巻き、嫉妬と独占欲が燃え上がっていった。
――兄気味でさえも彼女に近づけさせたくない。 ルナティアナは私のものであり、誰にも奪わせはしない…。
バルサザールは気が付けば仕事に向かわず、ルナティアナの部屋の前に立っていた。 彼の心はざわつき、胸の中で嫉妬と独占欲が燃え上がっていた。 彼は深呼吸をして心を落ち着けようと試みたが、足は勝手に動き、部屋の扉を開けた。
部屋の中に入ると、ウルスウドラが敬礼して待機していた。
「ウルスウドラ、少しの間、部屋を離れて休憩を取るように。」
ウルスウドラは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに敬礼し、「かしこまりました、宰相。」と言って部屋を後にした。
バルサザールは扉を閉め、静かにルナティアナのベッドへと歩み寄った。 彼女は安らかに眠っており、その姿はまるで天使のようだった。 彼の胸の中で感情が溢れ出し、彼女に対する愛情と欲望が一層強くなった。
――こんなにも純粋で美しいアナタを、他の誰にも渡したくない…。
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