4.宮廷医師現る。
翌朝、部屋に入ってきた侍女が昨日とは違っていた。王宮ってそういうものなのかしら…なんて思いながら支度を手伝ってもらった。
「あ、今日も動きやすい服でお願い。パンツスタイル…とか?」と私は頼んだ。
侍女は少し驚いた様子で尋ねた。
「乗馬でもなさるのですか?」
乗馬?…そうだわ。私の横暴で左遷してしまった攻略キャラクター、ラーカンを呼び戻さなくちゃ。あれと仲良くなってないと断罪イベントが起きたときアイツに殺されちゃう可能性があるわ。
「そうね。乗馬するわ。」私は侍女に答えた。
侍女は頷いて、すぐに私の希望に合ったパンツスタイルの服を用意してくれた。動きやすく、かつエレガントなデザインの服を身にまとい、鏡に映る自分の姿に満足した。
「ありがとう。この服で今日は乗馬を楽しむわ。」
侍女は困ったような顔をして言った。
「殿下、本日の朝食は食堂でしっかりと召し上がるようにと宰相様よりご指示がございました。」
――バルサザールが?昨日朝も昼もご飯を食べていなかったから心配なのかしら。
「そうなのね。わかったわ。食堂で朝食を取るわ。」
侍女の案内で食堂に向かうと、現王であり私の父であるルナザリスマンがすでに座っていた。彼は金髪を短く整え、紫色の瞳は冷静で知的な輝きを放っている。顔立ちは整っており、鋭い顎のラインと高い頬骨が印象的だ。若々しい姿を保ちながらも、少し弱っているように見える。金糸の刺繍が施された紫色のローブをまとい、その威厳と品格は変わらないが、健康状態に陰りが見える。
「ルナティアナ、頭を打ったと聞いたが大丈夫か?」父は心配そうに尋ねた。
「ええ、大丈夫です、父上。」私は微笑みながら答えた。
しかし、父のイケメンぶりに思わず見とれてしまった。
――イケメンパパだ~。眼福過ぎる…。
ふと、食卓に並べられた食器が気になった。豪華な食卓には、金色の縁取りが施された陶器が並べられていた。
――どうして王族なのに陶器の食器ばっかりなのよ。バルサザールが毒でもいれてたらどうするつもり?こんなイケメンパパを殺しちゃうなんてもったいなさすぎる!!
「お父様、食器が銀ではないのが気になります。銀の食器に変えていただけますか?」
使用人が戸惑いながら答えた。
「しかし、銀製の食器は今や飾りとしてしか使われておりません。」
――えぇ!?銀の食器って飾りなの!?いつ撤廃したの!?そんなに平和な国なの!?ここは…。
お父様も驚いていたが、すぐに使用人に指示を出した。
「娘の願いだ。銀の食器に変えるように。」
使用人たちは慌てて動き始め、そこら中に飾られていた銀の食器を持ち出して、どこかへ消えていった。しばらくして、食卓には銀の食器が並べられた。輝く銀の食器が目の前に現れた瞬間、何かが変わる予感がした。
「ありがとう、お父様。」私は微笑みながら、銀の食器を手に取った。
しかし、食器の色が変色し始めたのを見て驚いた。
――ほんとに毒入ってるじゃない!!!あっぶねーーー!!
「これは…毒が入っているのではないでしょうか?」
お父様も目を疑い、自分の食器も銀に変えるように指示した。使用人たちは再び急いで動き、お父様の前にも銀の食器を置いた。すると、お父様の食事も同様に色が変わり始めた。
「近頃体調が悪いのは、これのせいだったのか…」
――いや、気付けよ…。
お父様は驚愕の表情を浮かべた。彼の紫色の瞳が一瞬で鋭くなり、周囲の使用人たちに冷静かつ厳しい視線を送った。
食堂内は一気に緊張が走り、使用人や召使いたちは慌てふためいた。王族の食事に毒が入っていることが発覚したことで、大事件に発展した。空気は張り詰め、誰もが息を呑んで次の指示を待っていた。
「すぐに宮廷医師を呼び、徹底的に調査を行うように。」お父様は毅然とした態度で指示を出した。
「この件に関わった者を全て調べ上げ、犯人を見つけ出せ。」
お父様は私に向き直り、尋ねた。
「ルナティアナ、どうして銀の食器が毒に反応するとわかったのだ?」
その問いに、私は逆に驚いた。
――どうしてって、基本中の基本じゃな~いパパー!!でも、この体の記憶によると、平和の象徴として撤廃したみたいね。でも中世は中世よ?現代ならまだしも…。
「銀の食器は毒に反応して変色する性質があると聞いたことがあります。王族の身を守るために古くから使われていたはずですが…」
お父様は少し考え込んでから言った。
「銀製の食器は大昔に使われていたもので、今は飾りとしてしか使っていない。しかし、そのような知識を持っているとは思わなかった。」
「そうだったのですね…。では、昔の知識が役に立ったということですね。」
お父様は深く息をついた。
「ルナティアナ、お前がいなければこの毒の存在に気付くことはなかったかもしれない。感謝する。」
「いえ、お父様。当然のことをしたまでです。」私は微笑みながら答えたが、心の中では緊張と安堵が交錯していた。
その時、宮廷医師が駆けつけ、お父様の命令に従い徹底的な調査が始まった。毒の存在が明らかになり、王宮内は緊張感に包まれた。医師たちは手際よく調査を進め、毒の種類やその供給源を探り始めた。
その中で、特に目を引いたのは宮廷医師のリヴィウスだった。彼は乙女ゲームで見た通りの姿をしていた。
――本物だ!リヴィウスが本当に存在している!うわ~!絵だとあれだったけど、本物ってどれも英国人みたいな顔つきしてるのね…。
リヴィウスは茶色の長い髪をポニーテールにまとめ、眼鏡をかけている。彼の瞳は深い紫色で、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。白衣を着た姿は洗練されており、男性の色気が漂っている。彼は冷静な表情で銀の食器の変色を確認し、即座に毒の存在を確信した。そして、冷静な表情で、お父様に報告した。
「陛下、確かに毒が仕込まれております。すぐに解毒剤を準備し、体内に残っている毒を中和する措置を取ります。」
「急いで頼む、リヴィウス。この件の徹底的な調査もお前に任せる。」
リヴィウスは頷き、他の医師たちに指示を出した。
「すぐに解毒剤を用意し、陛下と王女殿下の体内から毒を取り除くんだ。」
医師たちは急いで動き出し、解毒剤を準備した。数人の医師が私とお父様のもとに駆け寄り、解毒剤を飲ませてくれた。私は少し緊張しながらも、その冷たく透明な液体を飲み干した。お父様も同じように解毒剤を飲み、しばらくの間静かに横たわって休んだ。
その間、リヴィウスは他の医師たちと共に毒の種類を特定するためにサンプルを調べ始めた。
―――化学は発展してそうなのに、どうして中世なのかしら。
「これは…クロリネイト系の毒だな。」一人の医師が呟いた。
「この毒は通常、植物から抽出されるもので、非常に希少だ。即効性はなく、毎日少しずつ摂取することで体を弱らせたり、思考をおかしくしたりする効果がある。」
「誰がこんな毒を手に入れたのか…」リヴィウスは眉をひそめた。
「陛下、この毒は市場で簡単に手に入るものではありません。おそらく内部の者が関与している可能性があります。」
お父様の顔が険しくなった。
「内部の者…我々の中に裏切り者がいるというのか?」
「その可能性があります、陛下。」リヴィウスは頷いた。
「これからは全ての食材や調理器具を厳重に検査し、関係者全員を調べ上げる必要があります。」
お父様は深く息をつき、目を閉じた後、力強く頷いた。
「分かった。徹底的に調査を行い、この件に関わった者を全て突き止めるのだ。」
――うわぁ~なんか大事になってきちゃった。このままじゃ、ラーカンのところへ行けなくなっちゃう。抜け出さなきゃ…。
私は心の中でそう決意し、すぐに行動に移すことにした。ラーカンは現在国境警備に配置されているので、そこへ向かうには馬で走って4時間ほどかかる。堂々と乗馬するふりをして、そのまま向かおう。
「お父様、私は少し外の空気を吸いたいのですが、乗馬をしてもよろしいでしょうか?」私はできるだけ自然な声で尋ねた。
お父様は少し驚いたが、優しく微笑んで頷いた。
「もちろんだ、ルナティアナ。気をつけて行くのだぞ。」
「ありがとうございます。」私は微笑み返し、部屋を出た。
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