38.王宮への帰還と新たな試練
フルクラー領を後にする早朝、私たちはフルクラー侯爵邸で一泊した後、急ぎ王宮へ帰るために馬車に乗り込んだ。屋敷の大きな玄関から出ると、馬車が待っていた。周囲はまだ薄暗く、早朝の冷たい空気が肌に触れる。馬車の扉が開かれ、バルサザールが私の手を引いて優雅に中へと導いてくれた。
馬車の中は温かく、柔らかなクッションが敷かれ、長い旅を少しでも快適に過ごせるようになっていた。私はバルサザールの隣に腰掛け、馬車がゆっくりと動き出すのを感じた。
「ティアナ。1つ質問してもよろしいですか?」彼は穏やかな声で尋ねた。
「うん?」私は彼の方を向いた。
「何故、アナタは私を信頼し、信じるのですか?」
「え?大好きだからだよ?」私は少し照れくさそうに答えた。
バルサザールは一瞬沈黙し、深い思索にふけるような表情を見せた。
「……例えば…ですが。これら一連の事件を実は私が裏で糸を引き、操っていた…などとは思わないのですか?」
「う”…バルならできるかもね。でも、バルってエヴァーレン王国が大好きじゃん。シュエット王国の王子だってわかっても、エヴァレーンを選んだわけだし、私に政治や国のありかたを教えてくれてる時のバルは、いつも未来の平和を願ってるような感じだったから…かな。」
私は彼の目を見つめながら、自分の気持ちを素直に伝えた。バルサザールの瞳には深い思索の色が浮かび、やがてその表情が柔らか微笑みへと変わった。
「そうですか。アナタのその純粋さに、私は救われているのかもしれませんね。」
「あー!また馬鹿にしてる?」
「いえ、今回は褒め言葉ですよ。少しいじめすぎましたでしょうか?」
「いじめてる自覚あったんだ…。」
「はい。好きな人ほどいじめたくなるものなので。」
バルサザールは優しく微笑みながら、私の頬に手を添えてそっと撫でた。その触れ合いが心を温かく包み込み、彼の言葉が真実であることを感じさせた。
「でも、もう少し優しくしてほしいな。バルの言葉にはいつも裏があるような気がして、時々不安になるの。」
「わかりました。これからはもっと素直に、あなたへの愛を伝えるように努めます。」
彼の言葉に安心し、私はバルサザールの肩に頭を預けた。馬車の揺れが心地よく、旅の疲れが少しずつ解けていくような気がした。
馬車が王宮の門を通り抜け、私たちは無事に帰還した。石畳の道を進み、王宮の中庭に到着すると、お父様が涙を潤ませながら直々に出迎えてくれた。その表情には、私たちが無事に戻ってきたことへの安堵と喜びが溢れていた。
「ティアナ、よく戻ってきてくれた…」
お父様は私の手をしっかりと握り、その温もりが心に染み渡った。
「お父様、ご心配をおかけしました。でも、無事に戻ってこれました。」
「そうか…それが何よりだ。バルサザール、ティアナを守ってくれて感謝する。」
「いえ、王のご命令ですから当然のことです。」
バルサザールは一礼し、厳粛な表情で答えた。
私たちはお父様と別れ、王宮の廊下を進んだ。柱の陰からひっそりとこちらを見つめるリオの姿に気付いた。彼の目は不安と心配でいっぱいだった。
「リオ、ただいま。」私は優しく声をかけた。
リオは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに涙をこぼしながら私に駆け寄ってきた。
「王女殿下!!…無事で本当に良かった…!」
彼は私を強く抱きしめ、その肩が震えているのが伝わった。
「襲撃にあったと聞き、心配で…どうしようもなくて…」
「ごめんね、リオ。無事に戻ってこれたから、安心して。」
リオの涙が私の肩に落ち、その温かさが心に響いた。
「本当に良かったです…」
「リオ、ありがとう。あなたが心配してくれるなんて…嬉しいわ。」
バルサザールはその光景を静かに見守り、温かい目で私たちを見つめていた。
私たちはそのまま、王宮の中を歩き続け、次第に心が安らいでいくのを感じた。この場所が私たちの帰るべき場所であることを再確認した。
「さて、お疲れでしょう。部屋へ戻りましょうか。」
バルサザールが優しく言いながら、私の肩を軽く抱いた。
「バル、これからどうするの?」
私は彼の顔を見上げて尋ねた。彼の真剣な表情に、少し心配が混じった。
「セインタール公爵の件で忙しくなりそうです。寂しくなったら、泣く前に私の部屋で待っているのですよ?」
彼の声には温かい思いやりが込められていた。彼は私の顔を見つめ、微笑みながらそっと手を握りしめた。
「わかった!」
私は笑顔で答え、彼の手の温もりに安心感を覚えた。
「それから食事は必ず共にするように努めます。」
バルサザールは約束のように言い、私に優しい微笑みを浮かべた。彼の瞳には誠実さが宿っていた。
「うん。バルって食事に…あ、なんでもない。」
「王女殿下、もしや…食事にうるさいと言いかけませんでしたか?」
彼の声には、からかうような軽やかさが含まれていた。彼はわざとらしく眉を上げ、楽しそうに私を見つめた。
――バレてるーー!!
「ううん!食事に…毒とか入っていないか心配じゃないのかなーって。」
私は焦りながら言い直し、目をそらした。
「ふむ、散々毒を盛られまして、耐性がついているのです。スティグルを部下にしたのはその為です。」
彼の言葉には、経験と対策が練られていることが感じられた。
「そうなの!?」
バルサザールは私の反応に満足げに微笑んだ。
「はい。ですから、私のことは心配せず、アナタは自分のことを大事にしてください。」
「わかった。」
部屋の前につくと、バルサザールは私に軽くキスをして別れた。彼の唇の温もりが残る中、私は部屋のドアを開け、中に入った。
部屋に入るなり、急に疲れが押し寄せてきた。朝からの緊張と出来事の多さが、私の体力を削っていた。私はベッドに腰を下ろし、目を閉じて深呼吸をした。
侍女が静かに部屋に入ってきて、私の眠る準備を手伝ってくれた。彼女は柔らかな手つきで私のドレスを脱がせ、心地よいナイトガウンに着替えさせてくれた。
「王女殿下、少しお休みになられてはいかがですか?晩餐の時間までまだ少しございますので。」
彼女の優しい言葉に、私は頷いた。
「そうするわ。ありがとう。」
侍女はベッドのシーツを整え、私を誘導するようにそっと手を差し伸べた。私はその手を握り、ベッドに横たわった。彼女は静かにカーテンを閉め、部屋の灯りを少しだけ落とした。
「お休みなさいませ、王女殿下。」
侍女の優しい声が聞こえ、私は目を閉じた。心地よい静寂が広がり、次第に意識が遠のいていくのを感じた。疲れが一気に押し寄せ、深い眠りに落ちていった。
獣じみた鳥の鳴き声がして目を覚ました。まばたきをして、ゆっくりと周囲を見回すと、誰かの膝の上で眠っていたようだった。匂いからバルサザールだと察したが、周囲の様子が異常であることに気づいた。
「バル?」
「おや…目覚められましたか。」
バルサザールの優しい声が耳に届き、彼の顔を見上げると、安心感が広がった。しかし、周囲の景色は見慣れない場所だった。
「ここは…。」
「ルクセリアをご存知でしょうか?」
私は身体の記憶からルクセリアに関する情報を引き出そうとした。ルクセリアはセインタール領の隣に位置する領地で、ルクセリア辺境伯が統治している場所だった。
「ルクセリア…知ってる。でも、どうして私たちがここに?」
バルサザールは軽く息をついて、私の顔をじっと見つめながら答えた。
「セインタール公爵の手の者にしてやられた…というべきでしょうか?」
彼の声には、悔しさと冷静さが入り混じっていた。
「じゃあ、バルも誘拐されてここに?」
私は驚きと不安で胸が締め付けられるのを感じながら尋ねた。
「途中まではティアナと共に馬車で運ばれていましたが、この辺で降ろしてもらおうと反撃して、どうにかここで降りたのです。誘拐犯は懲らしめて縛り上げて放置しております。」
バルサザールの言葉に、私は目を見開いた。彼の冷静な態度が頼もしい一方で、状況の深刻さに息をのんだ。
「え、ぇぇ…。」
――またとんでもないことしてるよこの人…。
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