36.収穫祭への道
翌朝、宿を出ると、傷を負っていたけれど、ラーカンとドラの姿が目に入った。私の心は安堵でいっぱいになり、自然と涙がこぼれた。
「良かった…良かった。無事で…。」
私の泣く姿を見て、ラーカンもドラも照れくさそうに微笑んだ。ラーカンは片手を挙げて挨拶し、ドラは軽く頷いて見せた。彼らの微笑みが、私の胸に温かさをもたらしてくれた。
バルサザールは私の隣に立ち、優しく手を差し伸べてくれた。「ティアナ、行きましょう。」
私は涙を拭いながら、彼の手を取って頷いた。バルサザールの手の温もりが、私の心をさらに落ち着かせてくれた。
私たちは宿の前に待機している馬に向かった。バルサザールが手際よく鞍を調整し、私を馬に乗せるために手を貸してくれた。私は彼の助けを借りて馬に乗り、彼も続いて馬にまたがった。
「大丈夫ですか?」彼は私の耳元で囁いた。
「うん、大丈夫。」
ラーカンとドラも馬に乗り、私たちの後ろに並んだ。バルサザールは手綱を引き、馬をゆっくりと進ませた。村の人々が朝の仕事に取りかかっている中、私たちは村を出発した。
村の人々が朝の仕事に取りかかっている中、私たちは村を出発した。私はバルサザールの前に座り、彼の腕に包まれながら馬に揺られていた。彼の体温が心地よく、これからの道のりに対する不安を和らげてくれた。
「さて、何か気になることはありますか?何でもお答えしますよ。」
「えーっと、じゃあ森の中にどうして騎士の人がいたの?」
「あぁ、あれは…襲撃に備えて各地に点々と兵を散らしておりました。」
「なるほど!流石バル。」
私は彼の計画性に感嘆し、笑顔を浮かべた。
「まさか、本当に襲撃を受けるとは思っていませんでしたけどね。そもそも、王が毒を飲んだというところから我々の演技は始まっていたのですから…。」
「えぇ!?」
私は驚きの声を上げ、彼の顔を見上げた。
「アナタまで騙してしまってすみませんでした。しかし、セインタール公爵を追い詰めるには、このくらいの策が必要だったのです。」
バルサザールは軽くため息をつき、目を細めて前方を見つめた。
――そうか、全ては計画の一部だったんだ。バルはやっぱり、凄い…。
「バル、本当に凄いね。私、全然気づかなかったよ。」
私は感心しつつも、少し悔しさを感じた。
バルサザールは微笑みながら、穏やかな声で言った。
「ティアナ、アナタの純粋さと信頼のおかげで計画がうまくいきましたよ。その素直さが、城を出るまでの計画を成功に導いたのです。」
――優しい声…ん?でもなんか…馬鹿にされてるような?バルがこういう言い方するときって絶対裏がある。
「うーん、もしかして馬鹿にしてる?」
バルサザールは軽く肩を揺らしながら笑った。
「クッハハッ。とんでもございません。私が王女殿下を馬鹿にするなど恐れ多いですよ。」
「あー!やっぱり馬鹿にしてるじゃん!」
バルサザールの瞳が輝き、唇の端が微かに上がった。
「ハハッ。あぁ…そんな怒った顔をして…そそられます。」
――まさかのSっけ!!
バルサザールは顔をゆっくりと近づけ、頬と頬を軽くすり合わせるように優しく触れ合った。彼の温もりが伝わり、私の心臓はドキドキと高鳴った。
――何これ…何これーー!!!あ、あ、飴と鞭!!!
「バル、何を…」
バルサザールの目は深い愛情を湛え、優しく私を見つめた。
「ティアナ、アナタの全てが私を魅了してやみません。」
彼の声は低く甘く、耳元で囁くように響いた。私は彼の手を感じながら、彼の言葉に心が温かくなり、同時に少しの恥ずかしさがこみ上げてきた。
「もう、バルったら…本当にずるいよ…」
私は小さく呟きながら、彼の腕の中で身を寄せた。
「他に聞きたいことは?」
「バルが変なことするから、忘れちゃった!」
「おや?私のせいでございますか?」
「そう。だから、これから何をすればいいかだけ教えて!」
バルサザールは一瞬考え込むように目を細め、微笑みながら答えた。
「まずは、フルクラー領に無事に到着することですね。その後、セインタール公爵の動きを監視し、次の一手を打つ準備を整えましょう。安心してください、私が全て導きますので。」
私はバルサザールの言葉に頷き、領で執り行われる式典の内容を思い出すために目を閉じた。馬のリズミカルな足音が心地よく響く中、私の頭の中には過去の記憶が甦ってきた。
フルクラー領での式典は、収穫祭の一環として行われるもので、領民たちが一年間の収穫を祝う重要な行事だ。領主や貴族たちが集まり、盛大な宴が催される。その中で、王女としての私の役割は、収穫を祝うスピーチを行い、領民たちに感謝の言葉を伝えることだった。
――そうだ、スピーチの内容をちゃんと覚えておかないと。領民たちが期待しているんだから、しっかりと伝えなきゃ…。
「少し、スピードをあげます。」
バルサザールの声とともに馬が加速し、風が顔に当たる。景色が次々と流れ、私の心も次第に落ち着いてきた。馬のリズミカルな足音と共に、頭の中でスピーチの内容を思い浮かべ始めた。
――収穫祭では、領民たちに感謝の意を伝えなければ。彼らの努力と労働があってこその豊かな実りだし、感謝の気持ちをしっかりと伝えなきゃ…。うぅ…紙とペンが欲しい…。
流れる風景の中で、私は領民たちへの感謝の気持ちや、彼らの努力に対する敬意を込めたスピーチの言葉を頭の中で繰り返した。
考えがまとまり始めると、少しずつ自信が湧いてきた。
すると、景色が変わり、私たちはフルクラー領に既に入ったようだった。遠くに立派な城が見え、その威厳ある佇まいに一瞬息を呑んだ。
「フルクラー侯爵城に到着しましたね。領主がお待ちかねでしょう。」
「うん、ありがとうバル。」
バルサザールは微笑みながら、馬の速度を緩め、城の正門へと向かった。門の前で馬を止めると、彼は手早く私を馬から降ろしてくれた。その手際の良さと優しさに、私は再び感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
城の門が大きく開かれ、中からフルクラー侯爵とその家臣たちが出迎えてくれた。彼らの表情には期待と興奮が見て取れ、私はその熱意に応えるために気を引き締めた
「ようこそ、王女殿下。お待ちしておりました。しかし、予定より遅かったので、来られないのではないかと不安になっておりました。」
侯爵の後ろからミハエル・セインタールが現れ、その表情は不安と疑念が入り混じったものだった。
「…どういうことでしょうか。父が王族の方々は来られないので、私が代わりに式典に出るようにと言われて来たのですが。」
その不穏な発言に、一瞬場の空気が張り詰めた。私はバルサザールの方をちらりと見た。彼は冷静な表情でミハエルを見つめ返し、ゆっくりと口を開いた。
「どうやら情報の混乱があったようですね。しかし、私たちは無事に到着いたしました。ミハエル様、ご心配おかけして申し訳ありません。」
ミハエルは眉をひそめたが、深く息をついて微笑みを浮かべた。
「そうですか。ならば、皆さんにとって素晴らしい式典となることを願っております。」
ミハエルの言葉に軽く頷いた後、私はフルクラー侯爵に案内されて部屋へ向かった。こには豪華なドレスが並び、私の準備が整えられるようになっていた。バルサザールは扉を閉めると、私に向かって微笑んだ。
「では、早速ドレスに着替えましょう。手伝いますよ。」
「えっ、バルが手伝うの?」
「もちろんです。」
恥ずかしさを感じながらも、私はバルサザールの助けを受けてドレスに着替え始めた。彼は優雅な手つきでドレスの後ろのリボンを結び、丁寧に整えてくれた。
次に、メイクをするために鏡の前に座った。バルサザールは優しく髪をまとめ、私の顔に軽く触れながらメイク道具を手に取った。
「目を閉じてください。」
彼の言葉に従い、私は目を閉じた。彼の指先が頬を優しく撫でるようにファンデーションを塗り広げ、続いてブラシで軽くパウダーを叩いた。
――流石はゲームの中。化粧道具が現代と引けを取らないみたい。
「次に、目元を整えましょう。」
バルサザールの声が低く、心地よく響いた。彼は慎重にアイライナーを引き、マスカラを塗る。まつげが少しずつ上向きになり、目元が華やかに輝いていくのを感じた。
「唇も少し色を足しましょう。」
彼はリップグロスを手に取り、丁寧に唇に塗った。柔らかな感触と共に、唇がしっとりと潤い、華やかさを増していった。
「バル…本当にすごいね。なんでもできるじゃん。」
「この地位を得るためになんでもしてきましたからね。」
バルサザールは微笑みながら、最後にアクセサリーを手渡した。彼は慎重にネックレスを私の首にかけ、耳元には煌めくイヤリングをつけてくれた。
「これで完成です。いかがですか?」
鏡に映る自分の姿を見て、私は驚きと感動を覚えた。バルサザールの手によって、私は一層美しく輝いていた。
「すごい…ありがとう、バル。」
「どういたしまして。アナタは本日の主役ですから、堂々と振る舞ってください。」
私はその言葉に勇気をもらい、バルサザールと共に式典の会場へと向かった。
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