35.守るべき愛
雨がやみ始める中、バルサザールは馬を走らせ続けた。雨粒が一つ一つ地面に消えていくと、視界も徐々に明るくなり、森の景色がはっきりと見えるようになった。冷たい風が私たちの顔に当たり、馬の蹄が湿った地面を力強く踏みしめる音が響いていた。彼の腕の中で感じる心臓の鼓動が、私に微かな安心感をもたらしていた。
しばらくすると、前方に小さな村が見えてきた。木造の家々が並び、静かな雰囲気が漂っていた。バルサザールはようやく馬を止め、入り口に繋いだ。彼の動作は一切の迷いがなく、迅速かつ丁寧だった。
「ここで少し休みましょう。宿を取ります。」
バルサザールは私をそっと馬から降ろし、優しく肩を支えながら宿屋へ向かった。宿の主人は驚いた表情を見せながらも、すぐに部屋を用意してくれた。バルサザールは私を部屋に連れて行き、ベッドに座らせた。
「少しの間、ここで待っていてください。」
そう言うと、彼は部屋を出て行った。私は不安と疲れからベッドに身を委ね、しばらくの間、彼が戻ってくるのを待った。外から聞こえる村の静かな音に耳を傾けながら、時間が過ぎるのを感じた。
やがて、バルサザールが戻ってきた。手には服と食料が入った袋を持っていた。彼の表情は疲れを見せつつも、安堵の色が浮かんでいた。
「これで少しは落ち着けるでしょう。新しい服を用意しました。」
彼は袋から服を取り出し、私に手渡した。柔らかな布地が手に触れ、心が少しほぐれた気がした。
「ありがとう、バル。」
私は服を備え付けのバスルームで着替えた。村の宿なので、簡単な水が出るだけのバスルームだった。泥を布で拭い落とし、新しい服に着替えて部屋に戻ると、いつの間にか着替えを済ませたバルサザールが私のベッドに座っていた。
「今夜はここで休みましょう。明日からのことは、またその時に考えましょう。」
彼の言葉に私は頷き、安心して眠りにつく準備を始めた。しかし、部屋を見渡すと、ベッドは一つしかないことに気付いた。
「バル、一つのベッドしかないけど…」
「気にしないでください。さぁ、こちらへ。」
彼はそう言いながら、ベッドの片側に身を寄せ、私に隣のスペースを示した。灯りを消して、私たちは、ベッドの両端に体を寄せて横になった。彼の温もりが伝わり、心が安らいでいくのを感じた。
「今日は…何も話せず、すみませんでした。」
バルサザールの声が暗闇の中で静かに響いた。
「え?うん。でも、半年近くバルと一緒にいたら、なんとなく、今計画を練っているんだろうなーとかわかっちゃって、特に気にならなくて。バルといれば私は無敵だって思えて。」
彼の手がそっと私の手に触れ、温もりが伝わってきた。彼の手は力強くも優しく、私の心をさらに温めてくれた。
「ありがとうございます。アナタの信頼が私の力になります。」
バルサザールは私の言葉に少し微笑んだ。その微笑みが、私にさらなる安心感をもたらした。
彼はゆっくりと私の手を握り、そっと引き寄せて自分の胸に当てた。彼の心臓の鼓動が伝わり、私の心と共鳴するようだった。
「1つ、お伺いしてもよろしいですか?」
「ん?」
私は彼の顔を見上げた。
「このまま…私と駆け落ちしてしまいませんか?」彼の声は低く、深い愛情が込められていた。
バルサザールは私の頬に優しく手を添え、親指でそっと撫でた。彼の瞳が私を見つめるたびに、その深い青が私を引き込んでいく。
「バルはね。私のこと、とっても愛してくれて、その愛はとても深くて、私がバルの1番だって、信じさせてくれる。それと同時に、バルはエヴァレーン王国のことも愛していて、バルの1番なんだと思う。でもきっと私への愛が上回ってしまったから駆け落ちしようって言ってくれたんだよね?」
彼は驚いたように少し眉を上げた。
「アナタは…アナタは不思議な人ですね。私を理解し過ぎています。」
「ふふふ。何年好きだと思ってるの?」
「ハハッ。これはこれは失礼致しました。どうやら私は日が浅いようですね?」
「あー!またー!」
私は彼の胸を軽く叩いた。
「それで、駆け落ちはして下さらないのですか?」
「うん。だってバル、宰相楽しいでしょ?生き甲斐でしょ?」
「アナタと共に過ごす日々の方が何倍も楽しいですよ?」
「でもその平和な日々って、バルが作り上げてきたものでしょ?バルが宰相につくまで、国は荒れてたじゃない。」
彼は驚いたように目を見開いた。
「おや?勉強なさったのですか?」
「ううん。この体の記憶。だからね、今逃げちゃダメなんだよ。」
バルサザールは私の言葉に深く頷き、私の髪をそっと撫でた。
「アナタという人は…全く。アナタが側にいるだけで、私の世界は満たされます。」
彼の声は優しく、私の耳元に甘く響いた。
「今日は冷えますね。もう少し密着してもよろしいですか?」
「うん、いいよ。」
バルサザールは私をそっと引き寄せ、私たちの体が密着した瞬間、彼の温もりが全身に広がった。彼の手は優しく私の背中を撫で、心地よい感覚に包まれていた。彼の顔が私の髪に埋まり、深く息を吸い込む音が聞こえた。
「こうして抱きしめていると…落ち着きます。」
「バル…。」
私は顔を近づけた。彼の瞳が私を見つめ、その深い青が私を引き込んでいくようだった。私たちの唇がゆっくりと近づき、優しく触れ合った。
彼のキスは初めは柔らかく、次第に深くなっていった。私の唇に感じる彼の温もりと愛情が、全身に広がり、心臓が早鐘のように打ち始めた。彼の手が私の顔を包み込み、さらに深いキスを交わした。
「ティアナ…。」
彼の声がかすれ、私の耳元で囁かれた。彼の手が私の髪から首筋へと滑り、そっと触れた。その触れ方が優しくもあり、熱を帯びていた。
私たちの体は密着し、彼の心臓の鼓動が私にも伝わってくる。彼の手が私の背中を撫でながら、徐々に腰に回り、私をしっかりと抱きしめた。その強さが彼の愛情を物語っていた。
「バル…こんなに近くに感じると、本当にバルサザールがいるって実感しちゃう。」
私は彼の肩に顔を埋めながら言った。
「もっと感じてください。」
彼の手が私の背中から腰にかけて滑り、その温もりがさらに強く感じられた。私たちの体は一つに溶け込むように、互いの存在を感じ合った。
彼の唇が再び私の唇に触れ、今度はさらに情熱的なキスを交わした。彼の手が私の髪を優しく撫で、そのまま前に引き寄せられキスを続けた。
「愛しています。」
「バル…私も。」
その言葉が私たちの心をさらに深く結びつけ、彼の温もりと愛情が私の心を満たしていった。私たちはそのまま静かな夜を共に過ごし、深い愛情と安心感に包まれて眠りに落ちていった。
――――――
―――
一方でバルサザールはティアナが眠ったことを確認して、そっとベッドを抜け出した。彼は静かに部屋を出て、宿の外へと足を運んだ。
宿の外にはボロボロのウルスウドラと暗黒の騎士団、それにラーカンが怪我の治療をしながら待機していた。夜の冷たい空気が彼らの疲れた表情を一層際立たせていた。
「死傷者は?」
ウルスウドラは顔をしかめながら答えた。
「いません。しかし、全員が重傷を負っており、再び戦えるまでには時間がかかるでしょう。」
ラーカンは腕に巻かれた包帯を気にしながら続けた。
「敵は我々の動きを完全に把握していたようです。奇襲に対応する時間がほとんどありませんでした。」
バルサザールは顎に手を当て、深く考え込んだ。
「ふむ、なるほど…。我々の動きが漏れている。内通者がいるのかもしれません。」
ウルスウドラは険しい顔で頷いた。
「その可能性は否定できません。慎重に調査を進める必要があります。」
「それと、敵の装備や戦術が我々と非常に似ていました。彼らの訓練もかなりのものでした。」
バルサザールは冷静な表情で、彼の言葉を受け止めた。
「そうですか…。敵の出所を調べる必要がありますね。内部の裏切り者を見つけ出すことも含めて、我々の行動を徹底的に見直す必要があります。」
彼は周囲を見渡し、騎士たちの疲れた顔を一人一人見つめた。
「皆さん、ご苦労様でした。今夜は休息を取り、傷を癒してください。」
騎士たちは深く頷き、疲れた体を引きずるように別の宿へ戻っていった。バルサザールは一人その場に立ち尽くし、暗い夜空を見上げた後、再びティアナの元へ戻るため、宿へと足を向けた。彼女を守るために、そして国を守るために、バルサザールは次なる戦略を練り始めていた。
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