25.孤独
リオは慎重に話を聞きながらも、次第に私の真剣な思いを理解し始めた。彼は深く考え込んだ後、やがて微笑みを浮かべて頷いた。
「王女殿下、あなたの提案を受け入れます。王宮での新たな生活に挑戦してみたいと思います。」
その言葉に私の心は安堵し、嬉しさでいっぱいになった。
「ありがとう、リオ。あなたの力が必要なのです。」
ドラとラーカンも彼の同意に満足げに微笑み、私たちはリオとの新たな協力関係を築くことができた。交渉は成功し、私たちは王宮へと向かう準備を始めた。
それからひと月、リオは真面目に勉強に励んだ。彼は早朝から深夜まで、王宮での礼儀作法や政治の基礎を学び続けた。時折、「王宮は堅苦しすぎるし、無駄な礼儀が多すぎる」と愚痴をこぼすこともあったが、決して学びを怠らなかった。
その姿勢に感心した私は、リオが少しずつ王宮に馴染んでいく様子を嬉しく思った。彼は困難な状況でも前向きに取り組み、次第に自信を持ち始めていた。
昼下がりの薬剤室には、柔らかな陽光が窓から差し込み、薬瓶や器具が微かに輝いていた。外の風の音が微かに聞こえ、静かな雰囲気が漂っている。スティグルは机に向かい、何やら薬の調合をしていた。
私はというと、スティグルに毎日愚痴をこぼしており、今日も懲りずに愚痴をこぼしていた。
「酷くない!?連絡が全くないの!!手紙の1通さえも!!」
スティグルは大変迷惑そうな顔をして、眉をひそめながら私の愚痴を聞いていた。
「殿下、宰相は非常に多忙なのです。重要な任務に従事しているのでしょう。」
「でも、それでも…普通、連絡くらいするでしょう!?私、彼にとって本当に大事な存在なのかな?」
スティグルはため息をつき、手を止めて私に向き直った。
「殿下、宰相はあなたを大切に思っています。しかし、彼の立場と責任を考えれば、今は連絡を取ることが難しいのかもしれません。」
「わかってるけど…それでも寂しいのよ。」
私は涙をこらえながら、スティグルに訴えた。
スティグルは少し困ったように眉をひそめ、薬剤の瓶をいじりながら、「気持ちは理解しますが、もう少し待ってみてはいかがですか?宰相も必ず殿下に会いたがっているはずです。」と優しく諭した。
その時、コンコンと薬剤室をノックする音が聞こえ、扉がゆっくりと開いた。リオが現れた。彼の金髪は茶色に染められていて、少し落ち着いた印象になっていた。
「王女殿下!?何故このようなところに!?」
リオは驚いた表情で私を見つめた。
「あ…あはは。お茶を飲んでただけよ。」
私は慌てて笑顔を作り、手に持っていたカップを軽く揺らしながら答えた。
「リオはどうしてここに?」
リオは少し戸惑いながら、肩をすくめてから前髪を指で弄りつつ答えた。
「生え際が少し目立ってきたので、髪染め液を早めにもらいにきました。」
スティグルは冷静に立ち上がり、棚から髪染め液を取り出してリオに手渡した。
「お待ちください、リオ様。こちらです。」
リオは髪染め液を受け取りながら、ちらりと私を見て微笑んだ。
「ありがとうございます。王女殿下、どうぞごゆっくりお茶を楽しんでください。」
スティグルはその瞬間を逃さず、リオに向かって静かに言った。
「リオ様、せっかく来ていただいたのですから、王女殿下をお連れしてお茶の続きをご一緒されてはいかがでしょうか?殿下もきっとお喜びになるでしょうし、私の研究も捗りますので。」
リオは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑んで私に目を向けた。
「王女殿下、もしよろしければ、少しお茶でもどうですか?薬剤室よりも落ち着ける場所がありますから。」
私はスティグルの言葉に内心少し苛立ちを覚えながらも、リオの提案に頷いた。
「そうね、それもいいかもしれないわ。」
リオは私に手を差し出し、私はその手を取って立ち上がった。スティグルはその様子を見て、心の中で安堵の息をついていた。リオは私を優しくエスコートし、私たちは薬剤室を後にした。
薬剤室を出たところで、リオは私に向かって微笑みながら言った。
「さぁ、王女殿下。どこか落ち着ける場所でお話をしましょう。」
リオの優しい微笑みに導かれて、私は彼の後をついていった。しばらく廊下を歩いてから、私はリオの肩を軽く叩いた。
「リオ、もうここで大丈夫よ。」
リオは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐに真剣な眼差しに戻った。
「しかし、王女殿下、お一人では…」
私は微笑んで彼の心配を和らげるように言った。
「いいの、リオ。私は大丈夫。リオには勉強があるでしょう?」
リオは少しの間、私を見つめた後、ゆっくりと頷いた。
「わかりました、王女殿下。どうか、お気をつけて。」
「ありがとう、リオ。」
私は彼に感謝の気持ちを込めて微笑み返し、彼の優しさに感謝しながらその場を離れた。
リオは少しの間、私を見送った後、再び勉強に戻るために静かに廊下を進んで行った。
大きくて広い王宮の廊下を一人で歩くと、足音が静かに響き渡り、その音が無限に続くかのように感じられた。高い天井と装飾された壁が続く中、私はふと立ち止まり、周囲を見渡した。
――広すぎるなぁ。家族も友達もいない。会社の上司もいない。友達もいない。今の私は独りぼっちね。
スティグルとドラとラーカンとも一緒に過ごして友達だと思えたけれど、今では完全に上司と部下のような距離感がある。私は今…独りだ。それもそうよね。だって、ドラもラーカンも本来はヒロインのものだし。私に残されているのは…。
私は腕を抱え込んで、その場にしゃがみ込んだ。膝を胸に引き寄せて、冷たい石の床の感触が心に沁みた。肩を震わせながら、涙が頬を伝い落ちるのを感じた。
廊下の静寂が私を包み込み、孤独の重さが一層深く感じられた。誰も味方がいないようなこの広い王宮で、私はただ一人、心の中で問い続けるしかなかった。
――これから、どうすればいいの?
「おやおや、こんなところでしゃがんでいては王族としての品位を疑われますよ、王女殿下。」
バルサザールの冷たい声が廊下に響いた。
私はいるはずのない人の声を聞いて、驚いてバッと顔を上げた。心臓が一瞬止まったかのような感覚に襲われ、目の前に立つバルサザールの姿を見つめた。
「どうして…。」
「どうして、でしょうかね。愛して日が浅いと言われた私が、こんなにもあなたのことを気にかけるなんて、少し皮肉な話ですよね。」
「え?」
「なるべく早く…済ませなければいけない必要な手続きや儀式を終わらせて帰ってきたつもりでしたが…」
バルサザールは言葉を続けながら、ゆっくりと私の前に片膝をついてしゃがんだ。彼の手がそっと私の髪に触れ、指先が繊細に私の髪を撫でた。
「本当に、日が浅い愛というのはこういうものなのでしょうか?」
彼は囁くように言いながら、私の髪にそっと唇を寄せてキスをした。その一瞬、私の心臓が強く鼓動し、胸が高鳴るのを感じた。
「バル…。」
バルサザールの瞳には冷静さと優しさが入り混じり、私を見つめるその視線に心を奪われた。彼は私の顔を見つめ続けながら、軽く息をついて微笑んだ。
バルサザールの瞳には冷静さと優しさが入り混じり、私を見つめるその視線に心を奪われた。彼は私の顔を見つめ続けながら、軽く息をついて微笑んだ。
「お待たせして申し訳ありません。何せ、私はアナタを愛してから日が浅いので…。」
「あ、あの…。もしかして根に持ってる?」
――さ、さっきから3回も言われてる…。
バルサザールはその言葉に対して微笑みを崩さず、さらに近づいて私の頬に手を添えた。彼の指先が優しく肌を撫でる度に、心臓が高鳴るのを感じた。
「根に持つだなんて、とんでもない。ただ、日が浅くとも…この愛がどれほど深いか、証明したいだけです。」
彼の声は穏やかでありながらも、その奥には微かな皮肉が感じられた。
私はその言葉に困惑しつつも、バルサザールの真意を探ろうと必死に考えた。しかし、彼の笑みと優しい手の感触に、何も言えなくなってしまった。
読んで下さってありがとうございます!
お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)




